武術大会8 試合の始まり
短めですがよろしくお願いします。
闘技場に高らかに楽器の音が響き渡る。
今日はいよいよ武術大会の開催日だ。生徒たちはクラスカラーに身を包んで、それぞれの応援スペースで声を上げている。来賓の方々も思い思いの色を身に付け、にこやかに客席で楽しんでいるのが伝わってくる。
さて、私達はというと控室で死にそうになりながら空を見つめています。
「全員ジャガイモ、全員ジャガイモ…」
「集中、集中よクレア…」
「何だか笑えてきた」
先輩たちは楽し気に、でも震える手を握り締めながら過ごしている。私はというと、アルの手を握りながら深呼吸をしている。
「まさか一番最初の試合が、アルなんて…」
「二年での試合だ。気にするな」
「気にするわ」
そう、第一試合目はサラマンダーとナーガの同学年対決となっている。相手はハリス殿下の側近の一人だ。彼は確か水の魔法を扱う一族にいたはず。
「まあ、安心して見ていればいいさ」
不安げな私を他所に、アルは楽し気な笑みを浮かべるのだった。
「試合、始め!」
先生の高らかな掛け声が響く。アルは構える事無く楽し気に剣を肩に担ぐ。対戦相手は魔法大臣の息子の人。ごめん、名前は覚えてないや。
彼は気合を入れるかのように声を上げると、魔法を展開し始める。
「静かに凪げ、水よ!」
彼の声と共に水が何もない床から溢れ出す。そのまま津波の様にアルに向かって押し進むが、アルはニヤリと笑うと空に風で浮かび上がる。
「これじゃ、俺は捕まえられないな」
アルは挑発するようにそう言うと、剣を大きく二回振る。その瞬間に風の刃が波を切り裂いて攻撃を止める。しかしその時には敵は新たな手に出ている。
素早く彼は動くと、アルに向かって氷の礫を振らせていく。アルは剣を一振りするとそれを全て弾ききってしまう。
しばらく一進一退の攻撃が続くうちに、アルも魔法大臣息子も水浸しになっている。全身が浸りと濡れたのを見計らって、アルが嬉しそうに手を挙げた。
「そう言えば、俺は妖精付きで風魔法が得意だ。でも家系魔法って雷だって言ってたっけ?」
小さくアルはそう呟くと、可愛いサイズの落雷を足元に落とす。電気が水を走り、ナーガの生徒を襲う。彼はびくりと震えると、そのまま倒れてしまった。
感電させるなんて、聞いてない…。
魔法大臣の息子は倒れたまま動かない、何てことはなくむくっと起き上がると溜息を吐いた。
「耐電の道具を付けててもこれかあ…。お前に勝てる気がしないよ」
「お前ならいい線行くと思うぜ、ファオルド」
「お世辞を言うな、アルベルト。参った俺の負けだ」
彼らは立ち上がると、固い握手を交わし勝敗が決まった。
「勝者、サラマンダー、アルベルト・イデア!!」
先生の掛け声に合わせ、アルは軽く手を振ると控室の方へと降りてきた。その姿は気だるげながらも逞しくて、何だかとても格好が良かった。
「アル!!!格好良かったわ!!でも感電なんて危なすぎる…」
私はアルに勢いよく駆け寄って飛びつく。彼は満更でもなさそうに照れると、小さく首を振る。
「あいつは耐電は絶対持っているんだ、だから使えた手でもある」
「何故絶対だと?」
「イデアとあいつの家はライバル関係ってとこかな」
「ふうん…」
私達が話していると、歓声が再び聞こえ出す。視線を舞台に向けるとそこに居るのはリンドブルムの生徒と、ハリス殿下だった。
「あ、殿下だ」
「本当だな」
「お強いのかしら」
「それなりには強いだろう」
私とアルは失礼な会話をしながら、二人の様子を窺う。二人は魔法をあまり使わずに剣で戦い合っている。いや、魔法は使っているのか。補助程度であるけど。
「へえ、考えてるじゃん」
「そうね」
二人が使っているのは魔法を武器にしたものでなく、身体の補助や攻撃のパターン、威力を増すような魔法ばかりだ。それを二人とも小声で次々に詠唱しながら、剣戟を繰り広げているのだ。
「うわあ、舌噛みそう」
「分かる」
私達はその試合を食い入るように見つめる。
試合自体はあっという間に決した。勿論、ハリス殿下の圧勝で。私とアルは目を見合わせると、ゆっくり殿下へと視線を戻した。視線の先で殿下は私を獲物を見るような目で、見つめていた。