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武術大会7

大会までが長かった…。




夏季休暇が無事に終わり、皆が学校に戻って来た。すっかり日焼けしたシリウスを見た時はギョッとしたけど、彼らはエルフで森で生活しているんだから日焼けの一つや二つするだろうと無理に納得する。

武術大会は一月後に予定されていて、いよいよ準備も佳境に入ってくる。学校の敷地内になる一見コロシアムのような建物。そこが舞台となる闘技場だ。使う武器は自由、魔道具の持ち込み可、所謂何でもありなんだ。ただ舞台から落ちたり、参ったと声を上げても敗北となる。

今日から準備期間として、午後の授業が短くなり準備に充てられる。選手の生徒は練習を、その他の生徒は学校内に外部の人が訪れてもいい様に、準備をするらしい。


「ロイス、そっちを持ってよ」

「持っているよ、うるさいなあ」

双子が喧嘩をしながら大きな巻かれた布を、えっちらおっちら運んでいる。今いるのは寮の談話室を抜けた先にある広間だ。ロイス達が見当たらないから探していると、ここまでたどり着いてしまったのだ。

「ああ、トリア!これは先輩に頼まれたんだけど、まだ秘密なんだって」

アリアが私に気が付いて、持っていた大きな荷物から手を離す。残されたロイスはあまりの重さに声を上げて、荷物を落としてしまった。

「秘密…。これもまた武術大会の準備の品なのだろうけど、それにしても大きいわ…」

私がそう言いながら残されたロイスに視線を向ける。ロイスは不貞腐れたような顔をしつつも、溜息を吐いてこちらを苦笑した様子で見てくる。

「これを魔法で運ぼうとしたけど、先輩方にそれはズルだと言われてそのまま運んでたんだ」

ロイスがそう言うと、タイミング良く奥から先輩方も荷物を持って出てくる。

「こういった準備は魔法を使うのが最終手段らしい」

先輩達が荷物を手に持って運んでいるのだから、自分達が楽をするわけにもいかないという事だろう。

「そうそう、この大会の準備は手ずから自分達ですることになっているんだ。これがサラマンダーの伝統だ」

「炎の龍らしく、力強くってとこだな」

そう言って楽々と荷物を運んでいるのは、どう見ても剣術が得意そうな騎士の家系の先輩方だ。ロイスやアリアと基礎の体力や力から違う。それにあの先輩たちは、身体教科の魔道具を使っているぞ。私は二人が揶揄われていることに気が付いて、思わず笑ってしまう。

「うお、この様子じゃ花姫には気が付かれたな」

「逃げるが勝ちさ」

先輩達はそう言って、ニヤリと笑うと重そうな荷物をひょいと片手に担ぎ直して走っていく。流石にその様子を見てロイスとアリアも気が付いたようだ。

「やられたわ!!!」

「全く気が付かないなんて!!」

そんな二人が面白くて、私は一通り笑った後二人の荷運びを手伝った。



着々と準備は進み、大会まで残り二週間となった。

学校内は飾り付けが進み、各寮はそれぞれのカラーに彩られ華やかになってしまっている。

「サラマンダー万歳!」

「ナーガに栄光あれ!」

「リンドブルムに勝利を!」

そんな声が揶揄い半分で廊下に飛び交う。すっかりお祭り騒ぎとなっているのだから、揉め事も比例して増えていく。

つまり、学校内で闇の魔力を感じることが増えたのだ。真っ先にこれに気が付いたのはロイスだった。以前のリンドブルムの先輩は落ち着いているが、それ以外の人達にその影が迫っているのが明らかだった。

まだ早い段階で気が付いた私達は、お兄様を通して初等部校長と話をして夏に必死に準備した支給品を配ることに決めた。


私達に物品が配られたのは、その話をした次の日のホームルームだった。

「武術大会ではクラスの色をした品を身に付ける決まりになっている。今年はそれが支給制になっていて、これがその品だ。各々一つずつ取りなさい。」

先生がそう言って机に並べたのは、私達が必死に刺繍して検品したバンダナ。その他にローブにつけるであろう紐飾りだ。

「これらは一つ一つが魔道具になっているから、今日から身に付けておくように」

先生はそう言うと、口の端だけ上げて笑うとその中から一つ紐飾りを取り、ローブの首元に着けた。赤い紐と黒と銀の紐で編まれたそれは凛々しく、そして綺麗で美しくもあった。だけど、これ。私作った記憶ないよ。

先生は優雅にそれを揺らしながら、ポケットからハンカチの様にバンダナを覗かせて教室から去っていった。


「随分、格好よく仕上がっているね」

ロイスが嬉しそうに紐飾りを揺らしている。その横でアリアがバンダナを手に取り、うっとりと笑顔を浮かべている。

「それにこの刺繍、凄く緻密で素敵」

シリウスもニヤニヤと歪む口元が隠し切れないように、そのバンダナの刺繍を撫でている。

「緻密で男女を選ばない柄に仕上がったね」

「これが魔法陣だなんて、本当に凄い…。この模様は…あの言葉を示しているのか…」

何だか聞いちゃいけないような勢いで、魔道具の事をブツブツとうっとりと呟いているのはマークだ。

私とアルはクラスの皆の好感触の反応を見ながら、夏休みの苦労を思い出していた。

「大変だったな…」

「もう二度としたくない…」

私達は顔を合わせて、深く頷いた。こればかりは一致する意見だ。あのバンダナに囲まれた日々を思い出すと、今手元にあるこれすら憎らしくなってくる。

「それよりも、この紐。私作った記憶ないわ」

私は紐飾りを手に取ると、ゆっくりと魔力を通す。それ自体も私が開発した浄化の魔法陣に似た効果を持っているのを感じた。アルは何かを思い出したように笑う。

「ああ、それはルーファス先生が作ってた」

「お兄様が?」

「何でも、トリアの作った技術を応用しないと兄としての面子が立たないとかなんとか」

「負けず嫌いね」

私は飾り紐を自分のローブの首元に着ける。サラマンダーを意識した配色のそれが、自分達を鼓舞する力になるように感じて思わず口元がほころぶのだった。





次回からいよいよ大会始まる予定です。

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