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武術大会3

武術大会とか言いつつ、研究の話ばかりです。説明回のような感じになってます。



何だかんだと訓練は進む。無詠唱でも私達の得意な魔法は周囲に観察される。私達は練習する時に、光魔法を使って練習の風景が見えないように隠してしまう事にした。これにはアレンもクレア先輩も驚いて、その後に笑いだしてしまった。

ダニエルだけは目を見開いて、「勝てる気がしない」と呟いていたけど。

練習の後は夕食を食べ、お兄様と緑の妖精王の元に向かう。今の里の皆の動きの報告を受けて、相談をしているのだ。




「トリアが作った新しい魔法、それを魔法陣にして記号化するのは許可が下りてる。でも記号化なんて途方もない事を、よくやろうと思ったな」

妖精王はそう言いながら、私の作った研究資料を読んでいる。その中には言葉を絵に変換したものが書かれている。

「魔法陣だけでは読み取られて、悪用される危険があるってお爺様は言うけど…。この時代に魔法陣に縁深いのはファウストとサンティス、それに一部の研究者だけだろう」

お兄様は不満げにそう呟くと、溜息を零す。どうやらお兄様の研究自体は上手く進んでいないらしい。そう言う私も研究自体は手詰まりを感じている。

「言葉を記号に直すのは簡単なの。当て嵌めるだけだから。でもその記号に魔術的意味を持たせるのが本当に難しい…」

思わず口をついて出た言葉に、お兄様も共感するものがるのかそっと肩を叩かれる。私達は視線を合わせると、潤んだ瞳で見つめ合いながら頷き合った。

「そこは兄妹で何をしてるんだ…」

「慰め合ってます」

「可愛い妹と同じ悩みを持てたことを、心から神に感謝します…」

私達の言葉を聞きながら、妖精王は頭を抱えて一番深い溜息を零すのだった。



そう、何が問題かって記号化だよ!!これが本当に!!厄介!!

宝石は誰が何を言おうと、これは多分あれを指してるってニュアンスが分かる。だから記号化がすんなりいった。でもその他が難しいのは、記号に当て嵌めたとしても伝わりにくいからだ。

『〇』を書いて、これが人間と私が定義付けても周囲は言われないと認識できない。それが分かってから、記号化って認識されてようやく成り立つのだと、大きな壁にぶつかってしまった。たとえ私が心や心臓の事をハートで書いたとしても、それをこの世界の人達はそう言う記号だと知らないから認識されない。

私は魔法陣の記号化について、本当に困り果ててしまった。これができない事には魔法自体の記号化なんて、夢のまた夢だ。

「どうにか、うまく出来ないかな。これが出来たらお守りとして配ることが出来ると思ったのに…」

私がそう言うと、お兄様が不思議そうに顔を上げた。

「お守りにしたくてこれを研究してたの?」

お兄様のその問いに頷くと、お兄様は小さく笑った。

「なんだ、これを暗号化してバレないようにしたいんだと思ってた。自分で使うために」

「ああ、その認識で合ってるよ。でも私だけじゃなくて他の人も使えるようにしたい。私達には分かって、魔には分からないようにってなると難しくて…」

「お守りにするとなると、正しく効力が分かっていないと発動しないからか」

「うん。それにお洒落でないと持ちたくない人もいるかと思って…」

私とお兄様は頭を抱えてしまう。

そんな私達をプカプカと空に浮いて、楽しそうに妖精王が笑って見ている。なんだか腹が立つ。何だその、訳知り顔は。


「何か案があるんですか?」

私が胡乱げに妖精王に視線をやる。妖精王は楽し気に笑うと、首を横に小さく振った。

「別に。ただ、小さなことで悩むなと感心しておった」

「んな!?」

小さなことだと!?私の半年の研究期間をそう言われると、否定できないけど腹が立ってしまう。研究の初期で躓いている状態なのだ。

「記号に拘らずとも良かろう?例えば編み物や刺繍。あれは紋様が不可思議だとは思ったことはないか?」

妖精王はそれだけ言うと、またクスクスと笑いながらふわりと姿を消した。


「刺繍や編み物…」

確かにやりようによっては模様を刻むことが出来る。刺繍に至っては言葉を記号化しなくても、それっぽく誤魔化して蔦の様に刻むことが出来る。というより魔法陣の陣の役割を、刺繍ができるじゃん!!

陣はただ言葉をそこに固定させる仕事をするもので、形に大した意味はないはず。なら縫い付ける形作る刺繍や編み物は、陣の代わりとして代用できるはず!

私はそこまで考えが至って顔を上げた。そこには同じように顔を綻ばせたお兄様が居た。思わずお兄様に飛びつくと、お兄様も私を思いっきり抱きしめてクルクルと回って喜びを分かち合った。

「お兄様!研究の方向性を修正します!」

「ああ!でもこれで先が少し見えた!」

私達はそのまま抱き着いた姿勢で、ああでもないこうでもないと議論を交わした。だから呼びに来たアルにも気が付かず、お兄様と一見イチャイチャしているだけの状態を見られることになる。そして烈火の様に「消灯前に何やってんだ馬鹿兄妹!」と怒られてしまったのだ。




秋口になれば始まる決闘の武術大会。

一向に進まなかったけど、光が見えた研究。

すっかり怒られてしまったけど、目の前には多くのやるべきことがある。私はアルに謝りながらも、自分の手をしっかりと握り締めた。




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