武術大会
今日も沢山の視線を集めて居心地の悪い、私ベルトリアです。新入生が入って早二か月。彼らは楽し気に日々を過ごしながら、噂話に足の取り合い、実に貴族らしく生活している。こればかりは私の分からない世界だ。私も侯爵の娘だから腹芸の一つや二つ出来る。というより、元々得意な部類かもしれない。でもそれを揚げ足を取る材料にするのは些か申し訳ない。寧ろそれなら悪戯を仕掛けて、徹底的に有利な状況を作り上げたい。
こういう発想に至っていると、大体隣でアルが溜息を吐きながらも共感めいた視線をくれる。そしてそのような発想に至る状況、即ち今私は生徒に囲まれている。
「サンティス先輩、これはどういう原理なのでしょうか」
「どうぞサンティス様、紅茶を用意させていただきました」
「こちらは我が領が誇る茶菓子でございます」
次から次へと新入生が私の元に男女とも関係なく現れる。本当に落ち着かない。生徒たちは親から指示された通りに、私達との縁を結ぼうとしているのだ。今私達はナーガの殿下たちと対をなすグループとして祀り上げられている。そう言うつもりはないのだが、殿下を相手にせず我が道を行く私達は王妃派の派閥の貴族からしたら、良い的になるのだろう。でもこれでは私達もすることが出来ない。
「皆様ごきげんよう。私達そのように相手をされるのを望んでいません。学校にいる限り平等に学ぶ権利を持つ。それならば学友として共に励みましょう?貴族という枠をこれ以上私の目の前にちらつかせないで」
私は笑顔でそういうと、右手をふわりと振った。その瞬間目の前にいた取り巻き希望の生徒たちが、強制的に回れ右をして部屋を出ていく。生徒たちは思うように動かない自分の足を、驚きながら見つめているうちに談話室から追い出された。
「お疲れ様」
アルがそう言いながら、私の頭を軽く撫でてくれた。横でシリウスが溜息を吐いて、生徒の持ってきた茶菓子を片付ける。何が入っているか分からないからだ。アリアは私の横で渡された手紙を代読し、ロイスは護衛の様に立っている。何故か私の親衛隊のような立ち位置になった友人達を見つめて、静かに頭を下げる。
「皆ごめんね、ここまでになるとは思っていなかったわ」
私がそう謝るとロイスがクスクス笑い始める。
「僕らはこうなると分かっていたよ。皆ハリス王子の婚約者筆頭と発表されているトリアに注目してる。それに絶世の美女と謳われた母君に瓜二つで、妖精の神秘さも加わったって噂されてるんだから無事にはすまないさ」
彼のそのセリフに此処にいる皆一斉に深く頷いている。私はどうやら自分の容姿を甘く見ていたようだ。日頃お父様やお母様という美しさの権化たる人物を見て育った私は、自分の美醜に無頓着過ぎたらしい。それなりに整っていると思っていたけど、自意識過剰でなく自分の容姿を認めなければならないようだ。日本人としての謙遜がそれを中々許さないし、大変恥ずかしいのだけれど認めないと対応できないのだ。
「自分を美しいと過剰に思いたくないのだけど、そう思って行動したほうが良さそう…」
私がそう呟くとアリアが、首がもげそうなほど頷く。
「それくらい大袈裟に思っていて。それの方が守りやすいわ」
彼女の力説に私は負けて、溜息を吐いて頷いた。窓の外に視線をやると、何人かがこちらを見上げているのが分かった。私は嫌気がさして指先を軽く振り、カーテンを閉めてしまう。
まるでストーカーだ。私の周りには婚約者候補の男子生徒が三人もいて、殿下も候補の一人だ。その中女子の友達はアリアのみ。この状態が続くと反感を買うのは時間の問題だ。もう既にいくつか買っているかもしれない。それを中和するのに働いているのがリズベットだったりする。おかげで私はサンティスとファウストの隠された姫としての立場を確立しつつある。
隠された姫ってなんだよ!!!
それもこれも、お爺様たちのせいだ!!
両家の祖父母が私の事をどちらの後継にもなる少女として発表したのだ。少なくともそれは事実ではない。なりうる権利を持つ少女というのが正しい。後継者はサンティスはお兄様だし、ファウストはお兄様の親友でもある従弟殿だ。少なくとも権利を持つといった程度の話を、旨い事削ったのだ。
『我が家を継ぐ(権利を持つの)にふさわしい孫娘である』
()の部分をはじくと、権力を欲する実際を知らない下位の貴族が群がる結果となった。何故このような行動になったかというと、敵がどこに介入しようとするか分かりやすくするためであったりする。それが馬鹿程効果出し過ぎて、訳が分からないようになったという事だ。
私達は前期の期間、実情が理解できないお頭の弱い貴族の子息たちを相手に動かなければならず時間を大幅に食った。でもこれでエルフや妖精、精霊の連合には調べるべき相手が絞られたらしく、今後はしっかりあしらう許可が下りたことで問題は解決した。なによりベルトリアがうっぷん晴らしにと、全体的に大きな悪戯を仕掛けたのだ。発案ベルトリア、スポンサーはルーファス、実行はアルベルトと言ったところだ。
おかげで私達を甘く見て足元の甘い蜜を吸おうとする馬鹿は、その人数をかなり減らして生活がしやすくなった。
そんな今年は二年に一度の学校行事である、決闘の行われる年だ。これは二年に一度、中等部と高等部のそれぞれで魔法や剣術を使った、武術の大会のことである。男女関係なしにそのクラスの秀でたものを代表として五人選出し、クラスごとに争う前世における体育祭みたいなものだ。
後期が始まってすぐに行われるこの大会に向けて、夏休み後にクラス代表を決める決闘が行なわれる。夏休み前のこの時期に、代表に選ばれたい生徒はピリピリとした空気を醸し出す。代表者は希望者ではなく、クラス投票と勝ち抜きによって決められる。いよいよ授業でも来週から本格的に決闘が行なわれることになるけど、一部代表選手は投票により決まってしまっている。
それがベルトリアとアルベルトだった。
どうしてこうなった!!!