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前世男な悪役お嬢様(予定は未定)と逆ハーヒロイン(になれる)お付きのメイドさん

作者: uyr yama







──── 子、曰く



TS転生者とは大変なものだ。


結婚相手に男を選べば同性愛者……ホモ呼ばわりされる。

恋愛相手に女を選べば、やっぱり同性愛者呼ばわりされてレズ扱い。


それでも前者ならば社会的にはマシだろう。


だが煩い事にホモホモホモホモ読者が文句をブー足れる。



……読者? なんぞ、それ?


ともかく、斯様にTS転生者は大変なのである。


それはまさに暴風吹き荒ぶ冬の大海に浮かぶラッコさん。


寒いし辛いし餌ないからお腹空くし、もう本気で辛い。


そんなTS転生者が、今の彼? もとい彼女なわけであり────

















冷泉寺 茜 15才 職業 女子高生 のち、来年には悪役令嬢(予定)


容姿でいうなら10人中9人は美少女と答える程度に顔は整っていると自画自賛。

残りの1人は趣味の違いか、性癖の問題か、はたまた既に想い描く心の淑女マドンナがいるからに相違なし。


まあ、ともかく、大枠で言って美少女と断言。

これでも割と苦労してるから、胸を張って自画自賛しても誰も文句は言うまいて。


ついでに、この国で上から数えた方が早い名家の出身である茜の家は、明治の維新で華族に封ぜられ、幾つかの戦争を好機と捉えて事業を展開、大成功。

巨万の富を築き上げ、大戦での敗戦を持ってしても、その富は些か足りとも削られる事がなかったらしい。


戦後の動乱は我慢の時


と、当時の当主────茜の曾祖父は言い切った。

縦に業績を伸ばすのではなく、社員を大切に、横の繋がりを重視して雌伏する。

後の高度経済成長期を持って、今こそ目覚める時と咆哮。世界に打って出たらしい。

結果、国内どころか世界でも有数な大企業として名を馳せた。

バブル崩壊ですらも商機と捉えて更なる飛躍のチャンスとばかりに新たな事業を幾つも展開。ほぼ全てにおいて成功を収めた。


歴史ある華族の血筋と、世界的大企業の創業者一族、その巨万の富。


富に権力、美貌に血統。


全てを併せ持つスーパーお嬢さま、それが冷泉寺茜である。


更に詳しく述べるなら、


お茶にお琴に踊りにお華。当たり前の様に全てをこなし、学業も常に上位3位以内を逃さない。

これら全ては前世の記憶あってのもの。子供の頃の努力とは、全て将来に直結するのだと、実感を持った経験をしている悲しき過去の後悔だ。

そんな努力に更なる上澄みと、容姿は先程も言った通りに美少女で、若干釣り目がちな所から気が強そうに思われるも、実際はとても温厚で篤実な少女だった。

身長は150cm後半。3サイズは……ナイショ。ただ、どこを、とは言わないが、割と小さめである。

髪は腰まで届く長い淑やかな漆黒。手触りはまるで絹の様にさらっとしていて、いつまでも触っていたくなる一品だった。

趣味・嗜好で言うならば、もふっとした生き物全般をこよなく愛し、学校の校庭に迷い込んだ子猫をあやす姿など、まるで聖女と言わんばかりと評判である。

あまりに高嶺の花過ぎて、お付きのメイドさん以外からは一定の距離を置かれている所謂ボッチなのが玉にきずだが、むしろそれがいい。

婚約者からは蛇蝎の如く嫌われているため近づいてこないし、メイドはメイドで学校生活では主従関係ないですから! と用事が有る時以外は距離を置かれているから完全なボッチ。

だが、むしろこれは好機! と、ひとりで寂しそうにしていたり、体育の授業や学外行動での班決めなどで「イジメかっ!?」と涙目になっていたりするのを愛でる者達が後を絶たない。

本人は知らないが、当然のようにこっそり『茜たんを見守る会』などというファンクラブが存在し、我様生徒会長(予定)な婚約者を抑えて学内最大の人気者。

ちなみに構成メンバーは男女5:5で、実にバランスが取れた人気を博していた。




 た だ し 中 の 人 は 男 だ が な 




まあ、中の人なんて普通見える物じゃないから、何も問題はない。



そう、何も問題がないのだから、しれっと話を始めよう。









夏が近いある日のこと。


せっかくの休日だというのに、友達のひとりもいない茜は部屋で大人しく本を読んでいた。

窓の外を見ればとてもいい天気。思わず外に出たくなるも、友達いないから出かけてもツマラナイ。

婚約者? ああ、あいつは死ね。氏ねじゃなくて死ね。


心の中で婚約者のイケメンヅラをオラオラ! オラァ!! とサンドバックにしていると、さわやかな風がレースのカーテンを揺らめかした。


少しの暑さだというのに、暑さに弱く茹だり掛けていた茜には、この風はまさに天からの贈り物。

心地よさ気に眼を細め、嫌な婚約者のことも頭から消えていく。

手慰みに読んでいた本をパタンと閉じて、心が思うままの言葉を口から発した。




────古池や 蛙飛びこむ 水の音




「なんです、急に?」



とは、冷泉寺家長女、茜の専属メイドである悠木優希ゆうきゆうき

結婚して姓が変わるまで、韻を踏んだ情緒溢れるDQNネームな彼女だが、実の所、茜とはとても深く運命的な関係があったりする。

簡単に説明すれば、なろう的表現で言うところの乙女ゲー逆ハーヒロイン。いわばライバルだ。

もっとも、中の人が男だったりする茜にとって、むしろ人を糞味噌扱いする糞婚約者を引き取ってくれるかもしれないナイスな存在。

そんな超絶ラッキーアイテムな専属メイド優希ちゃんの問い掛けに、茜は閉じていた目蓋を開き、うっすらと笑みを浮かべた。


優希は思った。これから始まるのは碌なこっちゃねぇ……



「古池や 蛙飛びこむ 水の音」


「いえ、ですから……はぁ、松尾芭蕉ですね。それがどうしたんですか?」



仕方ない。付き合ってやるか。


優希の口調は若干疲れ気味でキレ気味な口調だった。

だが、茜は気にしない。だってゴーイングマイウェイだもの。

この辺が悪役令嬢なのかもしれない。



「すばらしい。そうは思わない?」


「……は? え、ええ、俳聖と呼ばれる松尾芭蕉の代表的な俳句でしたね。古池……という忘れられた死の世界に、蛙を跳び込ませることで生の世界が……」



────そうじゃない


首を振る。横に何度も、何度も、首を振る。


そうじゃない。まるで分かっちゃいない。


茜は小さな声で、だがハッキリと力のある声でこう言った。



「優希、知ってますか? 戦国時代の日本は、同性愛が当たり前でした」


「はあ……松尾芭蕉は江戸時代の人ですが……」


「当たり前でした!」



断罪されるなら、こんな強引な部分が原因なのではなかろうか?

ひっそり転生者な優希ちゃん。

前世男だって実は知ってるし、悪い子じゃないのも知っている。

だから痛い目みせようなんて思っちゃいないが、かんなりすんごくイラッとするのはどうしようもない。

そんな気持ちをグッと堪え、



「はい、当たり前だったのかもしれませんね」



そう、私は大人。大人なのです。

と、自分に言い聞かせつつ、仕方な~く答えてやれば、どやぁ! と顔が満面の笑み。

子猫が遊んで! してるみたいであらかわいい。

優希がそう思えたのも一瞬だった。



「かの有名な織田信長も、大河ドラマでロリコンを露呈された前田利家と 槍 で



  突  き  合  っ  た  り 



したのでしょう」



何故 槍 で 突き合ったり と強調するのでしょうか?

あなたの前世、本当に男だったのですか?

腐女子の間違いでしょう、絶対に。


優希は心の底から問い質したい。



「そう、昔の日本人は、男性同士で愛し合うのが当たり前な、同性愛者の天国だったのです」



いえ、違います。


そう言いたいけど優希は口にしない。

だって面倒臭いんです。本当に、ほんっとにっ!!



「では、なぜ私が急にこんなことを言い始めたかと言えば……」



ろくでもないことですよね?

そう思ったが、もちろん口にはしない。お給料の為である。



「松尾芭蕉。俳聖と呼ばれる彼の代表的なこの俳句には、旅先で出会った素敵な『彼』とのロマンスが隠されていたからです!」




……何を言っているのだろう? このバカは。


いや、バカとは言ったが、冷泉寺茜。

彼女の成績は優希よりも遥かに上だ。

だが成績では表に出ないおバカさが此処に有る。



「古池や……優希、あなたは先にこの句の部分でこう言いましたね。死の世界を現すと」


「はあ、言いましたね」


「私は違うと思うのです」


「そうなのですか?」



聞きたくは無いが、聞いて上げねば拗ねるだろう。

彼女が仕える主は、とても面倒臭いのだ。



「ふるいけや……ふるい いけ や……すなわち、古いイケメン。50代半ばのお髭がダンディなオジサマを指してます」


「……はい?」


「松尾芭蕉。凄まじき男です。イケメンなどという近代にできたような言葉を、お侍さんが闊歩する江戸の時代から使っていたのですからね」


「えっと……おじょーさま?」



頭、大丈夫ですか? そう言いたい。言ってやりたい。



「かわずとびこむ。これは、そんな好みのお髭がダンディーなオジサマ(男娼)を『かわず』……『買えず』宿に『飛びこむ』。そして、「ああ、なんてこったい!」と芭蕉は後悔に部屋でひとり泣いたのです。ぽたり、ぽたりと堕ちて畳を濡らす涙。それが『水の音』だったのでしょう」


「はぁ……」


「悲しみと後悔に満ち満ちた、とても悲しく情緒溢れる素晴らしい俳句。まさに俳聖の名に相応しく、形容しがたい凄まじき



          『  ホ  モ  』



それが松尾芭蕉です」


「え、とぉ……」


「ホモです」


「ホモ……ですか……」


「そうです」


「そう……ですかぁ……」


「ええ、凄まじい男ですね、松尾芭蕉は。後世にまで自分の性癖を晒して平然としているのですから。私にはできません。ええ、出来ませんとも……まこと凄まじき漢よな……松尾芭蕉……」


「あ、はい。そうですね」



と、棒口調で答え、もう、めんどーだったんで、そういうことにした優希だった。









「ところでお嬢さま」


「なんです?」


「悪役おじょーは来年からだから仕方ないとして、TS設定とか財閥成立過程の設定って必要でした?」


「小説家になろうの作品の多くは、無駄に無駄で使われない本気で無駄な設定に溢れた主人公のなんと多「はい、そこまでーッ!!」




────そういうことになった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 俳句のことはよくわかりませんが、とにかくこれは意味深のようですね。
[良い点] 隠密になったりモーホーになったり芭蕉もたいへんだべ [一言] 実に恐ろしいきは妄想盛んな有閑腐女子
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