引っ越し
ボケ「ねえボクさ、お別れなんだって」
ツッコミ「は? ……えっと、引っ越すのか? ていうか今二月だけど、もうちょい頑張れよ。あと一ヶ月したら卒業式だったじゃん!」
ボケ「もう無理だってパパンが言ってた。もうママンとは無理って」
ツッコミ「……ん?」
ボケ「ボクんち、離婚するんだって」
ツッコミ「お別れって離婚かよ! 引っ越しより事態深刻じゃねえか!」
ボケ「ボク一言もそんなこと言ってないけど。……まあ引っ越しもするんだけどね。はーあ、転校したくないなあ……」
ツッコミ「結局するんかい。それで、お前はどっちの親について行くんだよ」
ボケ「それが問題でさあ」
ツッコミ「ほう」
ボケ「パパンの方について行くとするじゃん? そうしたら確実に手伝いしないといけない」
ツッコミ「お前んち、フランス料理屋だったもんな。おばさんがいなくなった後の店の手伝い大変そうだな」
ボケ「違う違う。ボクがしないといけないのはパパンのダイエットの手伝いだよ」
ツッコミ「ダイエット……? でもお前のオヤジさんって確か、」
ボケ「パパンが走ってたらさり気なくタピオカミルクティー(二リットル)を渡したり、パパンの料理に砂糖振り掛けたり、パパンが眠っている時に『ラーメンが一つ、ラーメンが二つ、ラーメンが……じゅる、美味しそうなだなあ……豚骨濃厚スープ旨いなあ……! チャーハン特盛追加で!』って囁いたりね。これって意外と大変で――」
ツッコミ「むしろ太らせようとしてる!? どうりでお前のオヤジさん見る度に肥えてってるわけだ!?」
ボケ「ボクの今の夢はパパンを日本で一番のデブにすることです」
ツッコミ「オヤジさん、痩せたいならコイツから逃げて!」
ボケ「でさあ、ママンの方について行くとこっちも大変なんだよ」
ツッコミ「……どうせお前が何かしでかしてるんだろ?」
ボケ「ボクを女装させようとするんだ」
ツッコミ「は?」
ボケ「あ、これボクね」
ツッコミ「……オレ、この女見たことあるんだけど。テレビとかで」
ボケ「そりゃあるでしょうよ。今をときめくアイドル『マジカル妖精・はざ~ど』はボクだよ」
ツッコミ「……マジか」
ボケ「うん」
ツッコミ「……オレ、ファンだったのに」
ボケ「うん? 何か言った?」
ツッコミ「いいや、今ちょっと現実逃避してた。……いいから続けてくれ」
ボケ「ママンはボクのマネージャーでね、色々と厳しいんだよ。やれ胡座をかくなだの、股開いて歩くなだの、ちゃんと女の子になれだの」
ツッコミ「いや最後のは無理だろ」
ボケ「え? ボク、女の子だけど」
ツッコミ「……は?」
ボケ「カワバタナツキ、十五才! 趣味はパパンを太らすことと男装すること! 最近のマイブームの呪いの言葉は『女装しろって言ったら豆腐の角にぶつけてからの机の角にぶつけるからの床踏み外してできた穴にはまり込んで一時間苦しめばいい』」
ツッコミ「……ウソだろ、お前が女って」
ボケ「……まさか知らなかったんじゃ――」
ツッコミ「そそそそんなわけねえだろ! オレたち幼なじみ歴十五年だぜ! 昔はお風呂に入ったりとか一緒に寝たりとかしたしな! 一緒に生活することだってヨユーだぜ!」
ボケ「だよね! だったらキミの家にボクを居候させてよ!」
ツッコミ「ふざけんなあああああああ!」