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夕空の下で食べるスパイスカレー①

「マリお嬢様! 死後の世界でも一緒とは!!」


「マリちゃん、グレン君、無事で何よりだよ。ここはケートスのお腹の中かな?」


 セバスちゃんと公爵は、二者二様に現状を捉えている様で、面白い。

 マリはクスリと笑った。


「セバスちゃん、勝手に私を死んだ事にしないでよ。公爵の言う通り、ここはケートスの腹の中みたい。冷静に分析出来てるのは、素直に凄いよ」


「な!? 腹の中!? まさか生きてるとは!!」


「ほら、見て。手を当てると外が見えるんだ」


 感激して飛び跳ねるセバスちゃんにこの部屋の特異性を見せるため、マリはしゃがみ、床をかき混ぜる様に手を動かした。

 その動きに合わせて床が歪んで、透明な窓が現れる。


「むむ……、床がおかしな事に……。ここはまだ海の中なんですね」


「僕の部屋にもこういう覗き穴があればいいのになぁ」


 二人は興味津々な様子で穴の中を凝視する。そうしているうちに、また叫び声が聞こえてきた。今度はかなりの人数だ。セバスちゃんは眼を剥き、グレンと公爵は楽しそうにしている。


(もしかして!)


 どうしたって期待してしまう。生き残れるなら、九人全員の方がいいに決まっているから。

 皆の生存を確認出来たら、きっと前向きに考えられる。


 30秒もしないうち、天井の一部が伸び、男女五人が落下してきた。ちょっと見ただけで分かる。アリアと神殿騎士四人だ。

 彼等は床の上でそれぞれちゃんと動いている。


「アリア! 騎士さん達も! 無事で何よりだよ!」


 マリは感激して声を上げた。

 アリアは上体を起こし、ポカーンとした表情でマリを見上げた。豪勢な縦巻きカールは見る影も無くグシャグシャになっているし、目からは大粒の涙がこぼれ出す。


「ごめんなさい! 海の様子がおかしいと思った時点で引き返すべきだったんだわ。皆さんを危険に晒してしまって……私……」


「アリア……。変な事が一気に起こったんだから、判断出来なくなっても仕方が無かったと思うよ。終わった事を謝るよりもさ、この先の事を考えよっ!」


「えぇ……えぇ……」


 気合いを入れようと思ったのに、アリアは本格的に泣き出してしまった。しかも神殿騎士達まで、つられて泣き出すしまつ。

 考えてみれば、彼等は魔法を使い続けていたり、腕力を酷使していたのだから、マリよりも極限状態だったのかもしれない。

 

(ちょっと休ませてあげた方がいいかな……)



 ジメジメした雰囲気のまま、10分程経っただろうか。

 気力と体力が残っている者達で壁際を歩き、部屋を出る為の通路が無いか探る。


 マリが少し凹んだ一角の壁を押してみると、何故か海中を見れる窓は現れなかった。その代わり、無機質な通路が見えた。


「わ! 見つけた! 通路だ!」


 壁はすぐに収縮してしまうが、大きく穴を開けて、直ぐに飛び込んだら進めそうだ。

 マリの居る所に集まって来たセバスちゃんとグレンが、穴を覗き込む。


「本当だ……」


「脱出出来るかもしれませんね!」


「よーし! 先に進んでみよう!」


 マリは拳を握り、そう宣言した。しかし……。


「その必要はなくてよ」


 壁の向こう側から声が聞こえた。やや低めの、色っぽい感じの声だ。

 マリとセバスちゃんは、一、二歩後ろに下がる。

 聞こえるはずのない声に、心臓が煩いくらいにバクバクと鳴り出す。

 一体誰なのだろうか? こんな、神獣の腹に居るなんて、人間だとは到底思えない。


 ふと、さっきグレンが言った事を思い出す。


「もしかして……ケートス?」


 ここに招いたのはあの白鯨だ。向こうからマリ達に会いに来たのかもしれない。


「ウフフ……。ケートスちゃんはアタシのペットなのだけど」


 壁が長方形に消え去る。

 そこから現れたのは、薄群青色の髪を大きな団子にまとめ上げた絶世の美女だった。

 悩ましげな切れ長の目。瞳の色は瑠璃色で、まるで深い海を思わせる。

 半開きの唇は金色に染め上げられ、なんとも個性的。

 長身の痩躯に纏う布は金や黒、そして紫も。

 真珠の様な光沢を放つ剥き出しの肩や、太腿。

 露出が高いにも関わらず、高貴さを感じさせるのは、その均整がとれた骨格のせいかもしれないし、その清浄なオーラのせいかもしれない。

 とにかく人間離れした美しさなのだ。


 隣に居るセバスちゃんは、ブルブルと震えだし、「ブヒィ!」と叫んだ。

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