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水の神殿の事情③

「マリ! それって本当なのかしら? プリマ・マテリアの未来の最高神官だなんて……、どうして言ってくれなかったのよ!」


 椅子を蹴り倒す様な勢いで立ち上ったアリアは、声を荒げた。だけど、マリは好きで隠していたわけじゃない。言い分があるのだ。


「私は……最高神官になる事を承諾したわけじゃない! 周りが勝手に騒いでるだけだよ。私は元の世界に戻って、料理に携わる仕事に就きたいんだから!」


「マリちゃん。僕は君の意思を分かってるつもりだ。でもね、君との友情だけで、水の神殿を救える可能性の一つを潰すなんて出来ないんだ。君の存在はこの世界にとって切り札になりえるんだよ」


 言い含める様な公爵の口調。彼は所詮、こちらの世界の人間。いざとなったら、この世界の為にマリを犠牲にすることも厭わないのかもしれない。

 そう、ちょうど今浮かべている笑顔のままで……。

 マリは苦い物を飲み込んだ時の様な気分になった。


「話はよく分かりました。貴女は私達の上司と考えた方がいいかもしれませんね」


 イドラはマリを品定めする様にジロジロと視線を送ってきていたのだが、腹を括ったみたいだ。マリにとっては迷惑もいいところだが。


「上司とか、やめ__」


「マリ・ストロベリーフィールド様! どうぞ水の神の御心を聞き届けて下さいませ! 私達はそれに従うのみ!」


 マリの言葉を遮り、イドラは高らかに宣言した。マリを立てるかの様な口振りであるが、その目はかなり挑発的。『お前に出来るのか?』と心の声が聞こえてきそうだ。


「マリお嬢様、老婆に負けていられません! ギャフンと言わせてやりましょう」


 セバスちゃんは、イドラの侮辱がよほど悔しかったのか、瞳の中に炎が見える。


(ぐぅ……。セバスちゃんめ! 婆さんに対抗させるために、私を担ごうとするな! でも……、やらないなんて言えないよなー……。何この劣勢……)


「マリさん。僕が出来るだけフォローするから、やってみよう。また神の姿を見せてほしい」


 邪気の無いグレンの言葉に、マリはついに折れた。


「分かったよ! やればいいんでしょ! やれば!」


「流石は未来の最高神官様! では今から打ち合わせといきましょう」


 いそいそと応接室を出て行くイドラの背を見ながら、マリは深くため息をついた。



 聖域に行くのは、明日以降になるだろうと予想したのに、何故か今日の午後からの出発になってしまった。

 だが、すんなりといけるとは、向こうも考えてはいなかった。当然ながら、そこまで行き着くためには、まずケートスの存在が邪魔すぎる。

 他の組織の人々がケートスの注意を引きつける役割を負い(イドラの命令により、神獣の身体を傷付けないようにだ)、その間にマリ達は聖域がある小島まで行くことになった。

 神獣の気を引くのは、プリマ・マテリアの術者3名と、水の神殿の騎士達だ。

 彼等は昼食後直ぐに、水の神殿と陸地を繋ぐ一本道へと向ってくれた。


 20分程時間を置き、マリ達は地下一階まで連れて来られた。


 聖域まで案内してくれるのはアリアと、神殿騎士4名。イドラは薄情にも、シエスタを理由に、神殿に残る。


 地下一階。

 大きな水路がフロアを二つに分断している。他の階にも水路はあるのだが、ここのはより太く、深い。

 水路には様々なサイズの舟が並べられている。要するに、ここは海への出入り口になっているのだ。


 中型の舟に九人で乗り込むと、騎士達がオールを漕ぎ、動かす。


「聖域付近は最近、リザードマンの姿が目撃されていますの。目的地に近付いたら、障壁をはりますわ。戦闘が出来る方々は、準備なさってくださいませ」


 アリアの指示に、騎士達が威勢良く返事を返す。


 正直言って、マリは心臓がバクバクだ。舟で行くとは聞いていたが、これほどボロく、ショボいとは思っていなかった。

 プリマ・マテリアの術師達がケートスの対応に失敗して、こちらに接近されたら、体当たり一発でボロボロになるだろう。


「ねぇ……、正気なの?」


「あら? 正気って、何が?」


「いくらなんでも、死にに行く様なもんじゃん……」


「心配いらないわ! マリの身は命に代えても守ってみせる!」


「その前に二人揃って海の藻屑だろう!!」


 マリの叫びは、遠くから響いてくる、ケートスの鳴き声にかき消された。

 別働隊の戦闘は既に始っている。


「向こうは上手くやっていると聞いたわ! 急いでちょうだい!」


 舟は大海原に出て、速度を増した。隣でオールを漕ぐ騎士の顔に汗が流れる。九人乗っているし、そのうちの一人、セバスちゃんは100キロオーバーなので、相当きついだろう。

 だけど、頑張ってもらわなければならない。ケートスがこちらに気がつく前に、十分な距離を稼がなければならないのだ。





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