水の神殿で待ち受ける脅威②
レストランの中に入ると尖った耳のセクシーなウェイトレスが近付いて来て、窓側の席まで案内してくれた。
「ここのお薦めの料理は何? 初めて王都に来たから良くわかんないんだ」
ウェイトレスは、メニュー表を開き、一番上に書かれた料理を指し示す。
「これですわ」
(あれ? 読める)
この国の語学なんて学んでないのに、何故か書いてある事が読めた。人が話す言葉だけじゃなく、文字もいけるらしい。得した気分になり、思わず笑みがこぼれる。
「フォレストサーペントのピリ辛炒め、で合ってる?」
「えぇ、フォレストサーペントの肉は王都の名物。このピリ辛炒めと、黄金焼きはお客様達に好評ですのよ」
「モンスターの肉なの?」
知らない名称なので、知ってそうなグレンに聞いてみる。
「フォレストサーペントは王都周辺に生息する大蛇だよ」
「蛇か! それなら結構美味しいかもね。ピリ辛炒めと黄金焼きを一皿ずつちょうだい。後は一番売れてるスープとサラダを二人前。主食になりそうなのも欲しいな」
「フォレストサーペントのピリ辛炒めは、トウモロコシ粉を薄く焼いた物に包んで食べるのが一般的ですの。それをお持ちしましょうか?」
「へぇ、トルティーヤみたい! それ持ってきて」
「かしこまりましたわ」
ウェイトレスは、この世界にない食べ物名を口にしたマリに不思議そうにしたが、深く問いかけずに、店の奥へと歩いて行った。
「高級なレストランなのかと思ったけど、コース料理じゃなくて、アラカルト式なんだね。肩肘張らなくてすんでラッキー」
「この世界はまだコース料理を考え出されてないと思う」
「へー、そうなんだ! でも確かに、私達の世界のコース料理は割と近代に出来た形式だし、この世界の文化レベルだとまだなのもしょうがないか」
「近代なんだ? 知らなかった」
「料理の歴史って結構楽しいよ。詳しい内容が載った本を持ってるから、ニューヨークに戻ったら貸してあげる」
「うん……」
飾らない笑顔を浮かべるグレンに、マリもつられて笑う。
王城に行っている間に、緊張していた心が解れていくようだ。この男はたぶん魔法でマイナスイオンを出しているのだろう。そうじゃなければ説明しようのない、マッタリ感だ。
混雑しているためか、料理はなかなか運ばれて来ない。でも、いい聞き手が居るお陰でマリは退屈しない。
最近のニューヨークの情報をほとんど知らないと言う彼に、マリのマシンガントークが止まらない。
「__ロールアイスクリームっていうのが流行ってて、作ってるのを見るのがすっごい楽しいんだ。冷やしたプレートの上に、アイスを伸ばして、ちょっと固まったらクルクル~て巻くの。行くならオレオとかマシュマロを飾ってくれるところがいいね。味は普通だから、出来るだけ可愛い方がいい!」
聞いてるだけで飽きないのかと思うが、グレンは楽しそうに頷いてくれる。
ニューヨークに戻ったら、二人で街を歩いて、マリのお気に入りを一つ残らず味わわせてやりたい。
アレックスの馬鹿が居たせいで、異性と縁のない人生だったけど、これからは違う。ニューヨークの街をセバスちゃん以外と歩いても許されるようになるんだ。その一番目の相手がグレンなのは変な感じだけど、友達なので普通だ。たぶん。
「お待たせしました」
先程のウェイトレスが大きなトレーに料理を乗せて戻ってきた。
慎重な手つきで置かれていく皿に、マリは目を丸くした。
(これ、ハバネロ?)
テーブルの真ん中に置かれた皿の上に山盛りになっているのは、真っ赤なソースが絡まった肉。おそらくこれがフォレストサーペントのピリ辛炒めなのだろうが、ハバネロにしか見えないブツが混ざってるのは気のせいだろうか?
「受けて立つ!」
フォークでグサリとやり、勢いよく食べると口の中に甘酸っぱい味が広がる。辛味は控えめなのかと思った直後、グワッときた。
口を手で抑えて、痛みに耐える。間違いない。ハバネロだ。辛さで味を誤魔化しているわけではない。噛む事に、蛇の味わいが楽しめる。鳥のササミに似ているのだが、フォレストサーペントの場合、もっと脂がのっている。
「味どう?」
グレンが差し出してくれた水を、グイッと煽り、親指を立てる。
「めっちゃ旨い! でもかなり辛いから、このトルティーヤもどきに巻いた方がいいかも」
白い薄焼きにフォレストサーペントの身を三つ乗せ、さらに、ウェイトレスが一緒に持って来てくれた白いソースをかける。それをグレンに渡し、マリは自分の分も作る
トルティーヤに巻いて食べると、辛さが抑えられて、ちょうど良くなった。それに白いソースは生クリームをベースにしていて、甘酸っぱい赤いソースと良く合う。
「流石王都なだけあるなぁ。味が研究され尽くされてるよ」
「マリさんの料理の方が好きだけど、これも嫌いじゃない」
「う……っ、もっと褒めていいよ!」
マリは照れ隠しにワザと調子に乗った事を言った。




