王都で会った男は胡散臭さ全開⑦
「どうでしょうと言われても……。それって、私が決めちゃダメなんじゃない? グレンと城にいる役立たずとやらに聞くべきだと思う」
マリは隣に座るグレンの肩を掴み、揺する。
「あぁ、そこの白髪の少年が二人の勇者のうちの一人ですか。尋常じゃない魔力量を持っておられるので、疑問でしたが、それなら納得ですね」
へーパクス枢機卿は値踏みする様にグレンをジッと見つめている。対するグレンは居心地悪そうに身じろぎした。
「グレン、どうしたい?」
答えをグレンの判断に委ねるのは責任をなすりつけるようで抵抗があるものの、彼の感情を無視してはいけない気がした。
彼は変わろうとしている。だけど、主張が強くない性格だから、時々こうして聞かないと、大事な何かを見落としてしまいそうだ。
「……戦うのはあまり好きじゃない。でも……」
「でも?」
「レアネーで魔王と戦って、怪我で長い間寝たきりになって……、ずっとモヤモヤしていた。戦闘でも、復旧作業でも役に立てなくて、何のためにこの世界にいるんだろ……て、思えて……」
「別に観光とかでいいんじゃない?」
気持ちを軽くさせようと、適当な事を言うと、いつもよりしっかりと目を合わせられた。
アメジストの瞳には強い意志の光。
「この世界で何も出来ないままニューヨークには帰れない。今のままだったら、またどこかの組織に入って、他人の都合の良いように働かされるだけなんじゃないかと思うから……」
グレンの特殊な思考を読み取るのは苦労するのだが、要するに、自信を失くしているのだろう。一人で新しい何かを始めるのは、確かに勇気が必要だ。これから待ち受けるであろう困難でも、自分ならなんとかなるという気持ちが、新たな一歩を踏みだす原動力になる。
(うーん……、成功体験か~。てか、神獣とやらに勝てる見込みってどれだけあるわけ??)
マリはグレンの気持ちとリスクを天秤にかける。
「グレン氏の気持ち、痛いほど分かりますね。私も日本のコミケに初めて行った時は、ありとあらゆる誘惑の中で不安になって、五等分の花○の三○ちゃんの名前を叫んだものです。自分の意志をしっかり持てないと、目的のブースに向かう事すら難しい!」
「セバスちゃん、あんたの体験は、グレンの悩みとちょっと違う気がする……」
「ぐぬぅぅ……。漸くグレン殿と共感出来た気がしたんですがねぇ」
「水の神殿の脅威を取り除きたい。マリさんと一緒に」
「えー……」
グレンの答えにガクリと肩を落とす。でも、プリマ・マテリアの二人の話の内容を考えてみると、どうやら選定者とは、四柱の神々と対話しなければならなければ、勇者を選べないらしいし、役割を果たさねければニューヨークに帰れないような気がするし、水の神殿行きは必須なのかもしれない。
◇◇◇
「何と!! では水の神殿で猛威を振るう神獣は勇者が対応するのであるか?」
「ええ、そうするのが一番かと。ね、マリ様」
「うーん……、たぶん」
過剰な程華美に飾られたこの部屋は、王城の中にある謁見室。
奥の玉座に座る初老の国王は、目を剥き、マリとモイスの顔を交互に見る。
プリマ・マテリア本部に行った次の日、公爵に連れられて王城へ行ったマリ達は、謁見室で国王と初対面し、レアネーでの浄化活動に対しての褒美を貰った(褒美の金貨1000枚は、宝箱に入れられ運び込まれ、セバスちゃんに渡されている)。
公爵により、魔王の件が報告された後、一緒に来ていたモイスにより長々と水の神殿の状況が語られ、打開策として、勇者二人による神獣討伐が提案された。
国王は初め、情報を隠していたモイスを一喝したが、勇者達を向かわせるという提案を聞き、機嫌を良くした。
「水の神殿の件は、魔王が現れた今、出来るだけ国民に知られない様にしなければならない。瘴気は人の心の隙間に入るこむのだからな。だから、なるべく速やかに勇者二人に、神獣を屠ってもらいたい。圧倒的な力を見せつければ、国民は何も憂う事はなくなる」
「左様でございます。マリ様達が水の神殿へ出発なさる時は、吟遊詩人を同行させましょう。討伐のあかつきには、美しき最高神官と、英雄二人の勇姿を各地で歌わせるとよいかと」
モイスは関西弁を引っ込め、ペラペラと調子のいい事ばかり言う。
「うむうむ。余が後盾となった事を忘れず歌わせるのだぞ」
「勿論ですとも」
「宜しい、ではここに、アレックス・ワイズを呼べ」
「待機させております! 少々お待ちくださいませ!」
国王の命を受けた側近が足早に謁見室の扉から出て行く。今朝、マリはスマートフォンでアレックスに連絡を入れていたのだが、返信は無かった。本当に現れるのかと、固唾を飲んで見守る。




