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王都で会った男は胡散臭さ全開⑥

 へーパクス枢機卿は水の神殿の建物の被害状況や、神獣が起こす大波による海岸線の後退等にもふれ、なるべく早期に神獣を討伐するか、または水の神の元に還す必要性を伝えてくれた。


「今現地に派遣している術者達は、プリマ・マテリア屈指の実力者達です。これ以上一つの神殿に戦力を集中させるのはあまり望ましくはないと考えております」


「こういう時は国が動いてくれるもんじゃないの?」


 マリが質問すると、プリマ・マテリアの二人は顔を見合わせた。


「神さんの加護を最大限に受け、この世界から瘴気の影響を排除する。そして有事の際は圧倒的な力を見せる。この組織はそうあるべきなんですわ。なのに、今は神さんのペットに手こずってる。冒険者は金を握らせたら黙りますが、王国騎士団を動かすとなると、国王陛下に状況を知られてしまいますやろ? 我々の威光が揺らぎますねん」


「プライドを守る為に、国に頼らないって言いたいの?」


 モイスの言葉から、自分達の権益を守る為だったら、信徒がどうなってもいいという考えが透けてみえる。

 自分達が関わりのある神の所為で大惨事が起こっているのだとしても、手に余るのなら、より力ある者達に頼るべきなのに、ここの連中も、水の神殿の大神官もそうしない。

 結局のところ、水の神はこの組織の傲慢さを嫌ったんじゃないだろうか? リザードマンの襲撃より前に、自己中心的な面を見抜かれていたから、きっと見捨てられたんだ。


「王家が、プリマ・マテリアを国教と定め、御子の誕生、結婚、そして葬儀、あらゆるイベントで教義に準じた儀式を執り行うのは、我々が長い時間をかけて、信頼を得てきたからだという事をご理解いただければと……」


 この二人と話をしていると頭が痛くなる。何を悠長な事を言っているのか。


「あんた達、普段は国の上の人達としか関わってないんでしょ? んで、この組織内では、信仰心とか、威光とか、フワフワした事ばっか話してんでしょ? そんなんだから感覚狂っちゃってんじゃないの? 国民は、国王の信じるものを盲目的に受け入れるわけじゃない。漁師にも、農民にも、感情がある。水の神殿が神に見捨てられたと気がついた人のガッカリ感をあまく見んな! 加えて、プリマ・マテリアの対応の悪さ……。あらゆる所に行って、無能だって、言いふらすだろうね! そして、それは全部あんた達の不利益として降りかかるんだ!」


 つい語気が荒くなる。アリアの懸命な姿を思い出したからかもしれない。彼女のためにも、プリマ・マテリアの幹部二人に、国に頼ると約束させたい。


 セバスちゃんに青い顔で腕を突かれ、ひとまず沈黙し、向こうの反応を待つ。


 それぞれ微妙な表情を作る二人だったが、先に口を開いたのはモイスだった。底意地の悪そうな顔でマリを見る。


「胸に染み入る様なお話でしたわぁ……。私の心、まるで聖水に浸した後みたいに、清らかになっとります。マリ様がそないにこの国を想うて下さってるなら、私達、下等生物の為に一つ頼み事を聞いてくれへんやろか?」


(うげ……)


 どうやら、マリは自分から罠に引っかかってしまった様だ。

 何を言われるのだろうかと、モイスのU字型の口元を眺める。


「選定……、してもらいましょか? そこの白髪と、城に居る役立たずのどっちかに四柱の神の力を分け与えてください。そして水の神殿に向かってもらうんです。大昔から神獣のお相手は、勇者さんと決まってますやろ?」


「出来るわけないじゃん。ケレースとしか会った事ないし、彼女ともまた会えるか分かんない」


「試す前から諦めるなんて、随分弱気ですなぁ。やってみたら、案外すんなり貴女の呼びかけに応えるかもしれまへんやろ?」


「モイス!! やめなさい! マリ様は最高神官になっていただくお方。失敗などあってはならないのだ。1,000年前の記録通りに、まずは全ての神々と接触していただくところから始めなければ」


「貴方のその慎重すぎなやり方、ほんと気に入らへんんわぁ。なぁ、老害って言葉知ってはりますか?」


 言い争いを始めた二人にウンザリし、マリは椅子に深く沈み込んだ。


(早く帰りたい……)


 くだらない言い争いは三分程続いた。その間半分意識を飛ばしていたマリだったのだが、へーパクス枢機卿が強い眼差しで自分を見ている事に気がつき、怯んだ。


「ヒッ……」


「今選定するのは失敗の可能性が高いので、やるべきではないでしょう。しかし、二人の勇者を神獣と戦わせ、どちらがより相応しいか決めるには、絶好の機会かと思われますが、どうでしょう?」



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