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王都で会った男は胡散臭さ全開⑤

 マリ達が奥側の椅子に並んで座ると、モイスとへーパクス枢機卿は右手側に腰を下ろした。

 タイミングを見計らった様に扉が開き、使用人らしき者達が入ってくる。

 彼らのトレーの上には淡い桃色の液体が入ったグラスが乗っていて、椅子の隣に設置された小テーブルの上に置かれた。


 脚を持ち、目の前で揺らすと、甘美なバラの香りが漂う。


 チラリと視線をプリマ・マテリアの二人に向けると、ニコニコしながらマリが飲むのを待っていた。


(毒は入ってない……よね?)


 マリが躊躇っている間に、隣に座るグレンがグイッと呷る。大丈夫なのかと、ジッと観察するが、特に身体には変調が無いようだ。図らずも毒見してくれた彼に罪悪感を感じつつ、自分の分のローズウォーターを飲んでみる。


 原液ではなく、水で割られている。だけど、ダマスクローズに似た香りは上品で、一口だけでも満足感があった。


「確かにこれは愛好家がいても不思議じゃないかも。ローズウォーターを割ってるのは、ええと……井戸水とか?」


「いえ、プロメシス伯領にそびえる霊峰の湧水を使用していますよ」


 へーパクス枢機卿は水の神殿の担当だ。自らに関わり深い地について答えるのは嬉しいらしく、淀みない口調で教えてくれる。水の神殿に起きている事を伝えるのは、今がいいかもしれない。


「へーパクス枢機卿は、今水の神殿で起きてる事をどのくらい知ってる?」


「おや、貴女から水の神殿の話を振られるとは想像もしていませんでした。もしやリザードマンの襲撃からの騒動を言っておられますか?」


「うん」


「なるほど……、何故かとても心強く感じます」


 彼は一度話を区切り、一口だけローズウォーターを飲んだ。


「近年の調査で分かったのですが、プロメシス伯領の海底には瘴気の吹き出し口がありましてね。放出量がここ1、2年増加傾向なのです。そのせいかリザードマンや、水の属性のモンスターがおかしな行動をとっているようですね。重大な事件が起こっていなかったので静観していたんですが、先日神殿がリザードマン達に襲撃され、国宝級の物を幾つか盗まれる事態にまで発展してしまいました」


 辛そうな表情を作るへーパクス枢機卿の隣で、モイスは鼻を鳴らした。


「水の神殿の大神官はんは、盗まれたもんは自分らの手で取り返すー言うて来はったんで、よほど自信があるんかと思ってましたのに、改善するどころか、事態は過去最悪。とんでもない大失態をやらかしてくれましたわ」


「詳しそうだね」


「水の神殿の連中は足の引っ張り合いが大好きでね。頼まれんくても情報をほいほい渡してくれる奴等がおるんですわ。そいつらから神獣が下されたと聞いて、任せておけないと気がつきました。プリマ・マテリアの優秀な術者達や、冒険者ギルドの連中やらを派遣しとりますよ」


 プリマ・マテリアは水の神殿の要請がなくても、動いてくれていたらしい。アリアは行き違いになり、この事を知らなかったのだろう。無駄な心配を抱えてしまっていたのだと、少し気の毒に思う。


「その人達に任せたら、水の神殿はどうにかなりそうなのかな?」


「神獣との戦闘なんて、過去に数えるほどしかないので、予想を立てるのが難しいのです。ですが、派遣した者たちの報告によりますと、おそらく負けるだろうと__」


「マリ様、ケートスって知っとります?」


 へーパクス枢機卿の言葉を遮り、モイスはマリに質問する。

 その『ケートス』とやらが、水の神に呼ばれた神獣なのだろうか?


 記憶に無い名前なので、マリは首を振る。この世界について、ほんの少し理解しているだけなのに、レアな生き物なんか知っているわけがない。

 

「……巨大なクジラの姿をしている」


 グレンがボソリと呟く。


「へー。それって相当デカイね」


「水の神やら巨大クジラやら、なんとも磯臭い話ですねぇ」


「だね。てか、巨大なクジラに近海で暴れられたら、漁師とか大変なんじゃないかな? 船どうなるんだろ……」


 マリとセバスちゃんは、勝手なイメージを伝え合うが、状況はもっと厳しいようだ。


「住人もそうですが、討伐に向かった者の中にも大怪我を、おった者達が出ています。頭の痛い状況ですよ」


 へーパクス枢機卿は重いためいきをついた。

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