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王都で会った男は胡散臭さ全開③

 王都キングスガーデンは、その名が示す様に、緑豊かな都市だった。

 道の両側に整然と立ち並ぶ家々の窓辺には花や観葉植物が飾られ、イチョウに似た葉を繁らす街路樹がずらりと植えられている。溢れんばかりの緑は、都市に暮らす人々の豊かさを表す。


「モイス、僕達は一度公爵家の別宅に行くつもりなんだ。君も一緒に行動するかい?」


「ん? 何か勘違いしてるみたいやね? 私、マリ様に来ていただきたい所があったからお迎えにあがりましてん。近くに馬車を停めてありますさかい、一緒に来てもらえますやろか?」


 彼はそう言い、30m程先に停めてある黒塗りの馬車を指差す。


(やっぱさっきから私をガン見してたのって、用があるのが私だったから?)


 公爵も同じ疑問を持った様で、困った様にモイスの方を向いた。


「モイスは僕に用があったわけじゃないの? 何だか怪しいなぁ」


「フレイティア公は、ちょい情報の更新が遅いんとちゃいます? 貴方もしかしなくても、私がまだ城勤めしていると思ってそうですけど、転職したんですわ」


「儀典長じゃないの!?」


「あ~、一昨年親父が死んだんで、彼が受け持っていたジョブが、私に移りましてん。ステータスの変更というんでっしゃろか」


「そういう事ね。モイスの職を勘違いして、マリちゃんと国王を会わせる段取りをしてしまってたよ。彼は今プリマ・マテリアの幹部とかだと思う」


「ちょ……、情報筒抜けって……」


 公爵がモイスに情報を流していたせいで、アリアの事が無くても、プリマ・マテリア本部に連行されるのが決まっていたようなもんだ。


「ごめんごめん。でもモイスは身元がハッキリしているし、プリマ・マテリアの本部に連れてもらってもいいかもしれないよ。水の神殿の件を誰に取り合うべきか分らないだろう?」


「それはそうだけど」


「モイス、マリちゃんが帰る時は、僕の別宅まで送ってくれる?」


「責任持って送らせてもらいますわ」


 公爵はモイスにマリを預けようとしている。モイスの兄、エイブラッドは取っつきにくくも、純粋な性格だったが、この赤毛の男はどうだろうか。


「私と一緒に行った方がええと思いますけどね。プリマ・マテリアは怖い爺がぎょうさんおりますから、お一人で敷地内をふらついたら、どうなるか分かりませんよ」


 そんな脅しをされてしまったら、一緒に行かないわけにはいかない。


「グググ……、やっぱり、そこにいる爺はやばい感じなのか。でも、私一人じゃ……、セバスちゃんとグレンも私と一緒に来て!」


「私はマリお嬢様の執事兼ボディーガードのつもりですので、どこまでもついて行きます」


「……行く」


 一人で行くのは憂鬱すぎるので、セバスちゃんとグレンを道連れにする。


「マリちゃん、美味しい夕飯を用意させておくから、頑張って来て」


 公爵は薄情にも、手を振り、ノコノコとした足取りで去って行った。

 彼が通りの向こうに消えただけで妙に心細くなる。王都に詳しそうな彼をあてにしすぎていたのかもしれない。


「私達も行きましょか」


「はいはい」


 メンツの変わった四人で馬車に向かう。黒く、艶のある客車は、大きく、見るからに高級品で、内部のデザインも豪華だ。

 マリ達が乗り込むと、直ぐに馬が走り出す。


 グレンの記憶の中に、キングスガーデンの地理的なデータがあるらしく、アレコレと案内してくれるので、ちょっと気がまぎれるが、目の前で読み取りづらい表情を浮かべる男を放置し続けるのも悪い気がする。何か話しかけるべきだろう。


「親の跡を継いで、変な組織の中枢に入るのは抵抗なかったの?」


 十秒程考えてから、口から出た質問は、自分でも意外な内容だった。モイスも予想外だったらしく、細い目をメキョっと開いた。


(あれ? なんでこんな質問しちゃったんだ……。取り消した方がいいのかな)


 理由を考えてみると、ニューヨークで時々悩んでいた事をそのまま言っていただけだった。

 ようするにこれは、マリの将来についての不安なのだ。

 食に関する仕事に就きたいけど、父は許さない気がしている。

 マリは一人っ子で、父の期待を一身に負っている。だから今の所、父の望み通りに学業を積んでいるし、高校を卒業したら父の母校であるハーバード大に入る事になっている。このまま言いなりに生きたら、きっとクソつまらない人生になる。

 本気で自分が望む様に生きるなら、父に反抗しなきゃならない。今回の身勝手な異世界渡りは、細やかな反抗でもあった(本当に来れるとは思ってなかったけど)。



「抵抗はなかったですわ。私はずっと父のポストを狙ってましてん。貴女は知れへんかもしれませんけど、プリマ・マテリアは四大元素を司る神々をまつる神殿を取りまとめる、宗教上で最上位の組織なんです。国王も有力貴族もみんな、私達の発言を無視できない。神々の恩寵を一身に集めていて、最後の切り札になり得ると誰も彼も疑ってないですから。人々の尊敬を集める職位につけるなんて、嬉しいかぎりですねぇ」


「ほーん。野心家だ」


「私から野心を無くしたら、空っぽな人間になりますわ」


 親の跡を継ぐのに抵抗が無い人間に初めてあったかもしれない。世の中には色々な人間がいるらしい。


(でも、この人の話で、プリマ・マテリアって王都中で、重要な意味を持つ組織ってのは理解出来たな)


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