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新たな冒険④

「アンタは私を恨むかもしれない。でも、これは私に関わった罰!」


 怪訝な表情でマリを見つめる彼の額を左手でペチペチと叩く。


 悪さをした右手がまだ熱い。

 この少年の根源に触れ、スキルをちぎり取った。考えなしにやってしまったものの、不安ではある。

 妙にふらつく身体をなんとか支える。


「……胸の中に、ポッカリと穴が開いたみたいな感覚」


 上衣の中央部を握るようにする彼の様子をジッと観察する。大丈夫だったのだろうか? 奪い取った物を戻そうにも、方法が分からない。


「でも、不快なモノから解放されたみたいでもあるし……不思議だ。悪い気分じゃない」


「そうなんだ……」


「もう一度手を握ってくれたら、埋まるかも」


「は?」


 やや強引に右手が取られる。スキルを元通りにする行為なのかもしれない。せっかく危険物を取り除いたのに、意味がなくなるのは、少しつまらない。

 何度も握り直される様子を、口を尖らせて見つめる。


「どのくらいの時間で埋まりそう?」


「……まだ」


 抵抗するにも、妙に気怠くて、やりたい様にさせておく。


「マリさんって、好きな有名人とか、尊敬する人いる?」


 明るい調子で問いかけられた内容に首を傾げる。

 これは会話が無くなった時に、しょうがなく出す様な話題だ。話に飽きてきたなら、キャンプカーに戻ってもいいのにと思うけど、右手はまだ戻らない。


「うーん……、そうだな~」


 マリが尊敬しているのは、やっぱり世界的に活躍するシェフとか、食に関して影響力のある人だ。

 挙げだしたらきりが無いかもしれない。

 全部は無理だから、今食べたい物の第一人者で絞る事にする。


(もう四時間くらいで陽が上るのかな……。だとしたら朝食……)


 目を瞑り、記憶を辿る。

 あれはおよそ一年前、ワイキキに遊びに行った時に、billsというカフェでハワイ限定のアサイーボールを頼んだ。南国で迎えた爽やかな朝に相応しい、甘酸っぱくて美味しい朝食だった。


(いいよね……。世界中の人に自分のレシピを味わってもらえるんだもん! めちゃやり甲斐あるんだろうな~)


 目を開くと、少年は楽しそうな表情をしていた。妄想に耽ってニタニタするマリを観察していたらしい。

 イラッとする。


「尊敬する人は、ビル・グレン○ャー氏!! もう右手返せ!」


 睨みつけながら、手を引っこ抜くと、彼は肩を落とした。その様子を見て、マリは確信した。

 スキルは彼に戻らなかった。間違いない。


「世の中うまくいかない事ばかりなのだよ。試験体君! ガッカリしないでくれたまえ!」


「……僕、今からグレンって名乗る」


「……は?」


 何を言い出したのか、理解出来ず、ポカーンとする。


「マリさんの尊敬するグレンジャー氏から一部とって、グレン」


「普通ビルじゃない?」


「グレン……グレン……。うん、気に入った」


「聞けよ」


 彼は自分で自分の名前を決めてしまったようだ。試験体066という名前が嫌だったのかもしれない。個体の識別番号でしかないから、分からなくもないが、マリの母方の従兄弟は『一郎』『二郎』と名付けられていたから、あまり気にしてなかった。


 本人がそう名乗りたいというのだから、受け入れるのが無難だろう。



「で、試験体殿はこれからグレン殿とお呼びすればいいのですね?」


「そーじゃない?」


 名前を変えた本人は、早朝、公爵に連れられ、川に釣りに行った。

 その間、マリとセバスちゃんの二人で朝食の準備をしているのだが、深夜に話した内容が見事にテーブルの上に反映されてしまっている。

 ハニーコームバターを乗っけたリコッタパンケーキ。発色の良いフワフワなスクランブルエッグの隣には、カリカリに焼いたベーコンとクレソン。アサイーボールまである。

 どれもこれも、『最高の朝食』を食べられると名高いbillsで出されるメニューだ。

 味覚に自信のあるマリは、味まで模倣した。食べるのが待ちきれない。


「いやぁ、今日はいつにも増して美味しそうな朝食ですね。早く二人が戻ってくればいいのですが」


「ほんと! 魚なんか後でいいのに」


 待つのに飽きて、運転席の方にぶらぶら歩いて行く。目的はカーナビだ。改名の影響がどう出ているのか確認してみたい。


{名 前} グレン

{ジョブ} 当代66番目の勇者

{レベル} 68

{スキル} 血祭り


 マリはステータスをみて、ふむふむ、と頷く。改名はカーナビにもちゃんと反映されている。それと、スキルが一個減っている。残っているスキルからも不穏な気配が漂っているが、今のところ実害が無いから、見なかった事にしてもいいだろう。

 ついでに自分のステータスを見てみる。


{名 前} マリ・ストロベリーフィールド

{ジョブ} 選定者

{レベル} 20

{スキル} キャンプカーマスター、錬金術、スキル喰い


(何これ……)

 マリは眉間に皺を寄せた。自分のステータスが記憶していたものと違っているからだ。レベルは15だったはずだし、スキルは二つだった。一体何が起きているのだろうか?


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