表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/156

新たな冒険③

 キャンプカーを停めた場所は、森の中なのに木々が枯れ、拓けた様になっていた。

 試験体066は水の剣を出すと、幹が折れてしまった木に近付き、それを膝の高さで切断した。


「ここに座って……」


「うん」


 水の剣はよほど切れ味が良いのか、木の切断面はツルリとして座り易い。

 マリが木の座り心地を確かめている間に、少年はテキパキと倒した木の幹や枝を集め、魔法で火を起こす。


 少しずつ暗闇に目が慣れつつあったマリだが、焚き木の明かりで周囲がよく見える様になると、心にゆとりが生まれた。


「アンタも座れば?」


 彼はコクリと頷き、地面に直接腰を下ろす。

 温くなったホットココアを手渡す。マシュマロはもう溶けて無くなっていて、少し残念。


「有難う……」


 マグカップにソッと口付ける彼の様子を眺めながら、話の糸口を探る。世間話から入るべきか、いきなりキツめの話をするか。薪が燃え尽きるまでに話を切り上げたいのに、決められない。


「……ニューヨークにある研究所から脱走したのは、自由が欲しかったから……」


 話の口火を切ったのは、少年の方だった。マリは慌てて頷く。


「いずれこの世界に渡り、勇者としての使命を果たす為、僕は創られ、ずっと訓練漬けの日々だった」


「あらかじめ決まってたんだね」


「うん。二十年前勇者と共に世界の狭間を渡った男が、大企業の御曹司? だったらしくて……、この国の国王との約束を守り、会社のクローン技術で勇者のクローンを作ったと聞いた」


「え……」


 これから国王との謁見の為、王都に行くわけだが、少し心配になる話だ。試験体066の話では、彼はこの世界の統治者の願いで生み出された存在らしい。それなのに、国王はアレックスを勇者として受け入れている。

 試験体066の訪れを待っているのか、いないのか。

 いずれにせよ、面倒事の気配を感じずにはいられない。


「僕は普通の人間じゃない」


「でも、アンタは、自分の意思で逃げ出した。普通の人生を歩みたかったんじゃないの?」


「そうだよ。だけど、無理だって気がついた。実際にはコピーより酷い……、爆弾を抱えた危険物だよ。君や市民を巻き添えにしてまでも魔王を消し去ろうとした……」


 自分は巻き込まれるかもしれないと思ったが、市民まで道連れにする威力だったらしい。思わず眉間に皺が寄る。


「二度としないって約束してくれない?」


 語気が強くなった。だけどこれは譲れない。


「アンタは、ちょっとズレてて、……ギャグ一つ言えないつまらない奴だけど! アンタと数日過ごして、私はアンタを普通の友人みたく思える様になったよ! アンタは私をどー思ってるか分かんないけど! 私の事、生きてても死んでもどうでもいいって思ってるかもしれないね! だけど……、独断で、全部終わりにしないでくれないかな!?」


 少年は、早口で言いたい事を捲したてるマリの顔を、そして自らの手の平を途方に暮れた様に見る。


「約束したい。……でも、このスキルは、自我が目覚める前にはもう備わってたと思うし、……先日の件から想像すると、自分の意思では制御も無理そうだ……。だから……」


 彼は顔を背け、「ごめん」と呟く。


 悲しい返事だ。彼の命は、彼自身の意思とは別の所で握られているらしい。たとえマリを巻き込まなくても、ちょっと離れているうちに死ぬかもしれないのだろうか?

 珍しく泣きたい気持ちになり、マグカップを下ろす。


 空いた右手を伸ばし、開かれたままの彼の手の平に重ね合わせて、ギュッと握る。


(二度とスキルが発動しません様に……)


 こんな祈りは何の意味もない。ただの自己満足だ。


 目を閉じ、手の皮膚や骨、筋肉、そして体温を感じ取る。すると、更に奥にうねりの様な流れがある事に気がつく。


(ん……?)


 それが気になって仕方がなくて、親指を彼の手の平の中央にグッと突き立てる。


「マリさん、痛い……」


「ちょっと静かにしてくれる!?」


「あ、うん……」


 ある。確かに、血液とは違う何かが動いている。何だこれは、何なんだ?

 辿る様に探っていくと、巨大な力にいきあたった。

 背中がザワリとする。たぶんこれは、介入してはだめなやつだ。だけど、力の一部に、先日彼が使ったスキルの気配がある。ちぎり取れるかもしれない……。   

そう思うと、やらずにいられない。

 

 もう一度強く念じる。


(“自爆スキル”消えろ!)


 マリと少年の触れ合っている箇所が、火傷しそうな程の熱を持つ。マリは今、少年の根源に介入した。今消失していったのはきっと……。


 いつのまにか近い位置まで近付いていたらしい。困惑した様に揺らめく、綺麗な瞳が目前に迫っていた。


「マリさん、今何かした?」


「……別に」


 マリは彼の手の平をペイッと捨て、ニヤリとする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ