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新たな冒険②

 ベッドは三つあり、それぞれ寝具まで備え付けられている。

 試験体066が重症を負ってから、マリはセバスちゃん同様、寝袋で寝ていたのだが、これからはベッドを一人一つ利用出来るだろう。


(私のスキル、凄過ぎ……)


 マリは自分の手を見つめ、瞬きする。

 車内をカスタマイズ出来たのは、キャンプカー自体のレベルが上がったからだろうか? 先程カーナビを見るついでに確認したら、29になっていた。マリやセバスちゃんより伸びているのは、土の神殿とレアネー市の二往復が大きいのかもしれない。

 キャンプカーの仕組みを考えながら、壁を叩いてみたりしていると、隣のドアが開く音が聞こえた。


(あ、アイツ起きたんだ)


 彼がどこに行くか様子を伺っていると、何故か足音はこちらに向かって来る。


「……おはよう」


「おはよ」


 彼の顔を見るのは、かなり久し振りだ。どうやって接していいか分からなくなり、無駄に整った顔から視線を逸らす。

 先日彼に消毒液をぶっかけるなどの暴挙を働いたわけだが、それについてどう思っているだろうか?

 少し前ならどうでも良かった事が、気になる。

 だけど、彼に伝えた内容は間違っていなかった。マリは自分に言い聞かせ、大きく深呼吸した。


「……この部屋、前有った?」


「今出したんだ。それなりに過ごしやすそうな部屋だし、今日からここで寝るよ」


「え……、寝るって、セバスさんと同室?」


「そうなるね! それと、アンタ寝てて知らないだろうけど、公爵も付いて来てくれたから、あの人も同室にするかな」


「……」


 少年の表情は微妙に歪んだ。何か問題でもあるのだろうか?


「……気が利かなくてごめん。僕がこっちの部屋を使わせてもらう。マリさんは自分の部屋に戻って」


「え!? あー……、そう。っていうか、アンタ身体大丈夫なの?」


 妙な気の遣い方だ。居心地の悪さを感じ、軽く咳払いする。


 彼は躊躇いなく上着を捲り上げ、ペローンと上半身を晒した。


「!?」


 実際に見てほしいという意図なのだろう。眉を顰めながら観察する。

 彼の左肩から右腹にかけて、薄っすらと傷跡が残っている。

 魔王に切りつけられた現場を目撃した事もあり、その回復ぶりには眼を見張るものがある。


「痛みはない?」


「うん。今日起きてから回復魔法を使って、限りなく完治に近付いたはず……」


「ふぅん。じゃあ、もうアンタに気を遣わなくていいわけだ?」


「……適当に扱ってくれていいよ」


 苦笑をこぼす彼につられ、マリも口元が緩む。この感じだと、また元通りに接する事が出来そうだ。少し安心はするが、先日の一件を流すのはあまり良くない。


「あのさ、今日日付変わってから、二人でちょっと話せない? セバスちゃんと公爵が寝てから」


 口にしてみてから、何やら別の意味合いが含まれていると思われそうな言い方だったと気が付き、慌てふためく。


「別に! 普通に話をするだけだから! 他の人が居ると、真面目に話し辛いじゃん!?」


「……分かった。ソファで待ってる」


 彼は世間ズレしてないらしく、深読みしなかった様だ。少しホッとする。



 朝六時から夜七時まで運転を交代しながらキャンプカーを走らせ、レアネーから王都までの道を半分程まで進む事が出来た。

 セバスちゃんと公爵の性格が明るいからか、それとも、これから向かう場所が大都会だからか、車内は常に雰囲気が良く、閉鎖空間なのに、息が詰まらない。


 マリは一日のうち、かなりの時間をうたた寝してしまった。レアネーでかなり疲れていたらしい。


 ストレスフリーな1日を過ごし、気がつけば時計の針が零時を示していた。

 大人達が寝静まった車内のキッチンスペースで、マリはミルクパンで作ったホットココアを二つのマグカップに注ぐ。

 泡立つ表面にマシュマロを二つ浮かべると、急に可愛い飲み物に変身だ。

 カップを持ち上げ、ソファーまで行くと、白髪の少年が眠たげに腰掛けていた。


「眠い?」


「……大丈夫。マリさん、外に行かない? 何日間も車内に居たから、身体を動かしたい……」


「いいね。そうしよう」


 二人でキャンプカーを抜け出す。深夜の空気は冷んやりしていて、ジャケットを羽織ってくれば良かったと後悔する。


「足元気をつけて……」


「暗くて周りが全然見えない」


「うん。でも星が良く見える」


 辺りは深い闇に包まれている。立ち止まった少年にならって夜空を見上げると、驚くほど星々が煌めき、言葉を失う。

 大都会で育ったマリは、これほどの星空を見た事がないのだ。





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