新たな冒険①
レアネー市をグルリと取り囲む城壁。その真南に位置する城門前には、朝が早いにもかかわらず、大勢の市民が集まっている。人垣の中央にあるのは、一風変わった大型の乗り物。
その窓から身を乗り出し、ふてぶてしい笑顔で手を振る少女は、このレアネー市の救世主マリ・ストロベリーフィールドだ。
精肉業を営むサティ・デアセトはこの街を立ち去ろうとする彼女を、誇らしい気持ちで見守る。
短い期間しか関わっていないが、彼女は大物になるだろうと確信しているのだ。
二十年程前に傭兵として各地を回っている時も、彼女程鮮やかに人助けをする者は居なかった。
おそらく何か特別な力を持っている。ここに集まっている者達は皆それを感じ、これから始まる伝説除幕の登場人物になろうと目論んでいるのだろう。
(まぁ、それは俺も同じだがな!)
サティは静かに走り出す乗り物を眺めながら、ククッ、と一人笑い声を漏らした。
すると、何やら後方の住民達が、大きく騒めいた。振り返ってみると、人垣が割れ、一人の青年が必死の形相で馬を走らせて来るところだった。
(確か公爵の従者だったか?)
成り行きを観察していると、彼は乗り物に並走した。
「公爵! 何故貴方まで王都に行くんです!? 仕事が山積みですよ!」
「君は有能だから、少しの間なら任せてもいいかなって思ってさ」
何度か仕事を共にした事にある美丈夫が窓から顔を出し、従者に苦笑いを向けている。彼が車内に居るのは分かっていたが、まさか、何も言わずに王都に行こうとしているとは思わなかった。相変わらずの自由人である。
「サボりたくなっただけでしょう!?」
「アハハ! そんな事無いって! セバス君、もっとスピード上げて! 100キロ位に!」
乗り物は憐れな従者を置き去りにし、あっという間に小さくなっていった。肩を落とす彼が少々気の毒である。サティは彼に近付き、思いっきりその背中をぶっ叩いた。
「痛ぁぁ!!」
「おい、従者! 元気出せよ! 俺達が手を貸してやっからよぉ!」
サティに続き、他の市民達も「そうだそうだ!」と声を上げる。
街は元に戻りつつある。未だに復旧しきれていない行政機能や経済機能は、残った者達の努力で幾らでも改善出来るだろう。
(この街の代表としてしっかりフォローしてやれよ! 市長よぉ!)
◇
「公爵、大丈夫なの? チェスターさんが凄い焦ってたけど」
マリは窓から乗り出していた上半身を車内に引っ込め、公爵に話しかける。
「大丈夫大丈夫。ウチの市民は優秀な人材が多いからね。というか本当はチェスター君にも付いて来てほしかったんだけど、頼んだら、絶対拒否されるだろうし、僕の王都行きも妨害されるだろうから、黙って来ちゃったんだよ」
「後で困っても知らないよ……」
恐らく、公爵が付いて来てくれたのは、マリ達の身分を保証するためなんだろう。国王への謁見を許されてはいるが、いきなり押し掛けていっても、不審がられるだけだろうし、運が悪かったら不敬罪に問われるかもしれない。
公爵が間に入ってくれたら、たぶんその辺がスムーズなのだ。マリ達からしてみると、有り難さしかない。
「マリちゃん、昨日エイブラッド達を送って行ったよね? 何か言ってた?」
「公爵に大金を請求するってさ」
「言い値は怖いなぁ!」
土の神殿の面々は、浄化活動が終了した後、一日だけ休養して神殿に戻った。まさか馬無しの客車で放り出す事なんて出来ないので、そこは責任持ってマリ達が送り届けたが、術者達の嘆きようが凄かった。マリの料理を気に入りすぎてしまったらしい。エイブラッドに神殿で働かないかと持ちかけられもしたものの、マリにその気は無いので断った。
(あの辺の食材が美味しいのには惹かれるんだけどね。ケレースの為にも、エイブラッドさんは本腰入れて料理人を探さないとだな)
昨日の出来事を思い出しながら、ミネラルウォーターをグラスに注ぐ。
キャンプカーの前方に行くと、セバスちゃんが鼻歌を歌いながら運転していた。
「はい。飲み物」
「おぉ! 有難うございます」
「王都への道はカーナビに表示されてたよね?」
「ええ。昨日カーナビを表示してみて驚きました。本当にどういう仕組みなのか……。王都だけじゃなく、選択肢がかなり増えてます」
「もしかして、私が地図を見たからかな?」
「ふむ……。あり得ますな。このキャンプカーはマリお嬢様のスキルに強く関連しているようですし」
「このスキルでどれだけの事が可能なのか、気になるな~。あれ? こんなボタンあったっけ?」
「おや?」
カーナビの画面中央に、さぁ押せ、と言わんばかりに点滅するボタンが表示されている。“ROOM”と書かれているが、どんな機能なのだろうか?
躊躇なく押してしまうと、キャンプカー後方からウィィィンと機械音が聞こえてきた。
「作動音が聞こえましたね」
「私、見てくる!」
ソファで寛ぐ公爵の前を通り過ぎ、後ろの方へ走る。
記憶よりもドアの数が増えていた。
というか、通路自体が明らかに長くなっている。
不思議に思いながら、マリの部屋の隣に現れた新しいドアを開けてみると、中に簡素なベッドや机等が置いてあった。
「嘘!? 新しい部屋が出来てる!?」




