表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/156

街の解放と魔王の目覚め③

『ベルセアデス様……、ベルセアデス様……』


 どこかから、艶やかな女の声が聞こえる。

 ベルセアデスとは誰だったかと、寝ボケた頭で考え、やや暫くした後、自分の事だったと思い出す。


(誰かがオレを呼んでいるな。メンドクサイ。まだ寝ていたいんだ……)


 魂が引かれる様な感覚が不快で、抵抗する。

 この声に応じたら、闇の中から出て行かなくてはならないが、ベルセアデスは気が乗らなかった。


 嫌な記憶がフラッシュバックする。

 長い眠りにつく前、“勇者”と呼ばれる男に聖剣で心臓を貫かれた。白い髪にアメジスト色の瞳。自信満々に笑うその顔を思い出せば、イライラした感情を思い出す。


(あーゆう、心を病んでるくせに、正義漢ぶる奴、ほんっと胸糞わりー)


 心根が黒く染まった男だったのに、“勇者”というだけで、人々に支持されていた。

 人間はどいつもこいつも、肩書きを重視しすぎるあまり、内面を軽視するのだ。バカバカしいにも程がある。


 前の“器”が破壊された時も、“勇者”は仲間を捨て駒にして、自分をおびき寄せた。あんな奴に破壊された事に、白けてしまい、虚無感が半端じゃない。


 今、自分を引っ張る力はとても弱い。使用した“贄”の質がイマイチなのだろう。これくらい微弱なら無視していい。


『ベルセアデス様。貴方様の為に用意した“器”は、極上の美少女でございます。黒髪に猫耳。きっと気に入って下さいますわ』


(むむ……)


 なかなか魅力的な事を言ってくれる。

 何を隠そう。ベルセアデスは美少女とモフモフが大好きなのだ。この二つを目の前に吊るされてしまうと、容易く心が揺らぐ。前回勇者の策略に嵌ってしまったのも、この二つにグラついてしまったからに他ならない。


(でも、なんで“器”をオレ好みに? オレ自身が可愛くなったら、存分に愛でれないような??)


 若干モヤモヤしつつも、『極上』の容姿には興味津々だ。一目見たいと思ってしまう。


 ウッカリそういう思考になったからなのか、ベルセアデスの魂はいとも容易く上昇を始める。


(あー、誘惑に負けてしまったな)


 起こそうとしている者は、ベルセアデスの好みを調べ上げている様だ。少しだけ感心する。


 魂はひたすらに上昇し、光の中に放り出される。すると急に、自由が制限される様な感覚になった。粘土かなにかの様に四肢が重く感じられる。腕や足に柔らかな布の感触があり、自分が横たわっているのを理解する。

 硬く閉じられた目を苦労して開くと、眩しい光がベルセアデスの身体に降り注いでいた。


「朝の……光……?」


 口から出た声音にギョッとして喉を抑える。鈴を転がす様な可愛らしい声。本当に自分が出したのだろうか?


「女の……声……。あぁ、今回は女の身体だったな」


 独り言を呟く声にまだ違和感を感じつつ、身を起こし、視線を下に向ける。

 漆黒のドレスを身に纏っていた。

 そして胸は……無い。


「ツルペタッ! 鏡とか無いのか?」


 キョロキョロと周りを見回すと、奥に姿見があった。

 寝台を下り、動きの鈍い身体でそこまで歩く。自分の姿を映し、気分が高揚する。

 艶やかな黒髪ロングに、吊り上がった目。頭部の黒い猫耳と、金色の瞳の組み合わせは、まるで黒猫だ。唇がアヒル口なのがとても可愛い。

 ベルセアデスは身に纏うドレスの裾を持ち上げ、クルリと回転する。


「媚び媚びな感じがまたいいな。もっと胸が大きかったら最高だったが、まぁ、これはこれで__」


__ドガン!!


 近くから聞こえてきた破壊音に、ベルセアデスは眉を顰める。人のお楽しみを邪魔するとは、無粋にも程がある。


「うるせーな」


 足音はこちらに近付いて来ている。複数人居て、友好的な感じではない。


「そう言えば、オレを呼んだ奴ってどこに居るんだ?」


 呑気に頭をボリボリかいているうちに、部屋の扉が吹っ飛んだ。礼儀という物を知らない奴等らしい。


「よーこそ」


 女っぽく、足を引いてお辞儀してやると、入室してきた男女五人が、狐に包まれた様な顔をした。

 先頭に立つのはつるっ禿げのオッサンで、後方に女の姿もある。色黒の肌に、綺麗な瞳をしていて美しいが、残念ながらベルセアデスの好みじゃなかった。


「もう五歳若かったら、いい線言ってたんだけどな」


「何言ってるんだぁ? お前、魔人の側近の獣人か? 魔人を倒したし、もう魅了の術は溶けてるはずなんだが」


 つるっ禿げの男が、鋭い視線でベルセアデスを見ながら、近付こうとする。


「ナスド、近付かない方が良さそうだ。この娘の魔力と瘴気、ただ事じゃない……」


「た……確かに……。お前は一体?」


 ベルセアデスの姿を観察し、困惑する人間達に、思わず笑いを漏らす。


「お前達、旨そうなエーテルを持ってるな。朝ご飯にちょうど良さそう」


「何だと!?」


「新しい器を得たベルセアデス様の、初めての飯になれるんだ。光栄に思えよ?」


「ベルセアデス!? ナスド! こいつは魔王だ! 下がれ!」


 ベルセアデスが放った衝撃波は、女が咄嗟に張ったバリアに防がれる。ぶつかり合う二つの力の余波で、窓や壁がビリビリと悲鳴を上げる。


「いつまで防げるかな……?」


 女の必死な形相を眺めながら、魔王ベルセアデスはニタリと笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ