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レアネー市救出作戦②

「マリさん、何か鳴った……」


「あ! 炊飯器使ってた!」


 カリフォルニアロールを大量に作るため、ご飯を五升炊こうとしている。普段だったら、なるべく美味しいご飯を炊くため、土鍋を使っているのだが、今回は流石に多すぎるため、一升炊きの炊飯器を利用する事にした。


 炊飯器の蓋を開けると、大量の湯気が顔を直撃し、思わず目を瞑る。だけど怯んではいられない!

 炊き上がったご飯を炊飯釜から寿司桶にセッセと移し、カウンターに運ぶ。お酢の瓶を掴んだ時、マリの横顔に視線が刺さった。その方向を向くと、エイブラッドが興味深そうな表情でマリを観察していた。


「エイブラッドさん、暇してるなら手伝ってよ」


 自分が汗を流して働いているというのに、涼しい顔で立っていられるのはあんまり良い気分じゃない。見るなと文句を言うんじゃ、自分の印象が悪くなるだけだし、巻き込むのがベストだろう。


 手招きすると、エイブラッドは嫌そうに近付いて来た。


「手伝うといっても、さっきから貴女がやっている作業を一つも理解出来無いのだが」


「大丈夫大丈夫。白いご飯に、酢を330ミリリットルくらい入れて、しゃもじで混ぜてくれたらいいだけだから」


「は……? ご飯? お酢?」


 耳慣れない単語に混乱しているのだろう。マリは少し反省した。彼の眼の前で、計量カップに酢を注ぐ。


「これがお酢。ほら、目盛の300を少し超えたくらいでしょ? このくらい計って、白い……ご飯っていうんだけど、この上に満遍なくふりかけて」


「なるほど……。ビジョンが出来てきた」


「それから、さらにこの木のシャモジっていう調理道具で、切る様に混ぜてね」


「偏らせてはダメという事なのだな。切る様にというのは、潰さぬ様にか!」


 理解力は高いらしい。マリは「うむ」と頷く。酢飯は彼に任せてしまっても問題ないだろう。

 マリはシンクで炊飯釜を洗い、水に浸しておいた米を入れ、再び炊飯器にかける。


(ふぅ……。思ったより大変だな。手伝ってくれる人達がいて良かったー)


「これでいいか?」


 自信なさげに聞いてくるエイブラッドの元に行き、スプーンで桶の中の酢飯を掬い取る。パクリと食べるとちょうどいい感じだ。几帳面そうな彼にはピッタリな作業だったのかもしれない。


「ん。バッチリ! 次のご飯が炊けたら、また頼むよ!」


「まだあるのか!?」


「どんどん行くよ!」


 酢飯や、具材は揃った。一度形にしてみようと、マリは巻き簾を広げる。その上に酢飯を敷き、海苔を被せる。端っこにキングクレイフィッシュの身とアボガド、マヨネーズを乗せ、クルクルと巻く。仕上げにギュッと抑える様にしてから、巻き簾を取り去ると、一本の白ご飯の棒が現れた。それをさらに包丁で一口大に切り分ける。


「それが完成形……?」


 白髪の少年が、近くに寄り、マリの手元を覗き込む。


「味見してみたい?」


「減ってもいいの……?」


「手伝った人には特別に食べる権利をあげるんだ!」


「やった……」


 切れ端部分を少年の口に放り込んでやる。いきなりの事に驚いたらしい彼は目をパチパチとさせた。慎重に噛み、ゴクリと飲み込んだ後、顔が綻んだ。


「……美味しい。初めて食べたかも」


「自分で処理したアボカドが入ってるから、余計に美味しいんじゃないかな」


「そうなのかな? そういうのは良く分からない」


 相変わらずフワッとした回答だ。マリは少し可笑しくて吹き出す。


 手持ち無沙汰なのか、再びノコノコと表れたエイブラッドにカリフォルニアロールを鑑定してもらうと、無事に浄化作用が認められた。マリはレアネー市に着くまでの間に出来るだけ量産しようと、気合いを入れ直したのだった。

 

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