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食材ゲット④

 マリは泣き声が聞こえる方向へとズンズン進む。

 蛍光ピンクに発光する巨大なツタや、ちょこまか動く手足の生えたキノコ。不思議な生き物ばかりだ。

 椿に似た、肉厚の葉の隙間から光が漏れている。


(この向こうに、泣き虫女がいるみたい……)


 会っても大丈夫な存在なのだろうか? ここから出て行く前に、隙間から覗いてみようと、身を屈める。


「何故こんなに油まみれなのじゃ! 妾が特別な存在じゃなかったらとっくに血管が詰まっておったぞ! 馬鹿者どもが! うぅ……残したいのぅ。でもこれを作った者が傷つくから残せぬのぅ……」


 怒ったり、シンミリしたり、コロコロと感情が変わっている。要するに、不味い物を食べる義務があって、苦しんでいるらしい。


「口に合わないなら、食べなきゃいいじゃん」


「誰じゃ!?」


 心で思ったことをウッカリ口に出してしまった。鋭い声色で誰何を問われ、ギクリとする。


(もう少し様子を伺おうと思ったのに……。仕方がないな)


 肩を竦め、椿の枝を押し退ける。向こうから漏れていた光は、眼を焼く程に強く、マリは慌てて空いていた左手を目の前に翳す。


 指の間から見えた光景はあまりに浮世離れしていた。


 黄金色に輝く苔の絨毯の上にペタンと座るのは、半裸の少女。

 金色の上に散らばる長すぎる髪は絹糸の様に艶やかで、根本から毛先にかけて白から優しい萌葱色のグラデーションに彩られている。

 これでもか、という程に見開かれた目は、瞳の色が桃色。バランスよく配置された小ぶりの鼻と桜色の唇。学校で美少女達を見慣れているマリをも魅了する、圧倒的な美しさだ。


 おっさん染みた目で少女を眺めるマリを恐れたのか、目の前の少女は恥ずかしそうに身体を隠した。


(可愛いすぎない? 私、性別男だったら、たぶん犯罪者になったね!)


 抱きつきたくなる、危険な衝動に戸惑いつつ、ゴホンと咳払いする。


「お主……、よく見たら昼間の娘っ子じゃな」


 少女は先に我に返ったのか、硬い声で話しかけてくれる。

 どうやら、今日彼女と会った様だ。だが、まるで記憶にない。これ程の美少女をみかけたら、絶対に憶えているはずなのに。


「人違いじゃない? ていうか、アンタ誰?」


「妾が人違いをするじゃと!? 勝手に人の寝床に入って来たり、ボケ老人扱いしたり、失礼な娘っ子じゃ! お主が先に名を名乗れぃ!」


 少女は声を荒げ、黄金の松ぼっくりをマリに向って投げつけてくる。意外に早く飛んでくるそれをマリは身を屈めて避ける。


(見た目上品なのに、中身猿か!)


「今、めちゃくちゃ失礼な事考えたじゃろ!」


「別に~。私はマリ・ストロベリーフィールド」


 少女は訝しげな眼差しでマリの顔をジッと見て、「ケレースと呼べ」と名乗った。


「セカンドネームがいちご畑なのだな。可能性を感じなくもない」


 セカンドネーム如きに何の可能性もないと、突っ込みたくなる気持ちを抑えて、非礼を詫びる。


「普通に眠っただけの筈なんだけど、どういうわけか、アンタの寝床に来ちゃったみたいだね。プライベートな時間を邪魔してごめん」


「エイブラッドが連れていた娘なのだから、悪い人間ではないのだろうな。お主は恐らく夢を渡り、ここまで来た」


「夢を、渡る……?」


「夢の中で、自らの望む者に会いに行ける能力の事よ。もしかすると、昼に妾の神力に触れ、引き寄せられたのかもしれんの」


 少女の話の中に、引っかかる点が幾つもある。まず、一点はエイブラッドの事だ。まるで普段から付き合いたいがあるかのような話し振りだ。そしてもう一点は、神力。この少女はただの人間ではないのだ。二つの事項から導き出せる答えは、一つしかない。


「もしかして……土の神?」


「そうじゃ。さっき草の間から出て来た時に気づけ!」


 マリは驚き、もう一度少女を観察する。人間離れした美しさも、神だと知ってしまえば、妙に納得出来る。


 ふと、彼女の頰に目が止まる。濡れているのは、さっきまで泣いていたからなのだ。神様なのに、何故泣かなければならないのだろう?


「アンタ、神様のくせに、さっき泣いてなかった?」


「激マズのお供え物を嘆いておったのじゃ! 何故バカ舌の持ち主に御供え物を作らせる! 妾は悲しい!」


 彼女の側にある、紫水晶のテーブルの上には、ゴージャスな食器が多数のっている。食器の中身を作ったのは、土の神殿の神官かもしれない。


(そういえば、土の神殿で食べた昼食、不味かったな)


 神殿の料理担当の腕は相当悪いとみて間違いないだろう。土の神様は毎日これを食べているのだろうか?

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