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食材ゲット①

 姿をくらませた少年をひとまず放置し、黄金色のキングクレイフィッシュの検分が始まる。


「この堅い甲殻は、もしかすると防具の素材として使えるかもしれないよ。エイブラッド、鑑定結果はどう?」


「これは……鋼鉄よりも堅い。職人に持って行ったらいい値が付くだろうな」


 公爵とエイブラッドが処分法を話し合っている。マリは先ほど自分がした主張を彼等が忘れていないか確認するため、念押しする事にした。


「ザリガニの肉は、私が持ってくからね?」


「忘れてなどいない。そもそもザリガニを倒したのはあの少年なんだから、肉どころか、この甲殻も全て貴女達が持って行くべきものだ」


「え……、あ、有難う」


 こんなデカい甲殻がキャンプカーの中に入るのかと顔が引きつる。だけど、それとは裏腹に、エイブラッドの話の中に、マリの心を温めた言葉があった。


(もしかして私、試験体066と仲間扱いされた事が嬉しかった……? う~ん……)


「マリ・ストロベリーフィールド嬢。あの少年を連れ戻してくれないか? 肉を取り出そうにも、これだけ甲殻が硬いと難儀するんだ。彼に解体を頼みたい」


「分かった!」


 マリは少年が走り去った、森の奥の方に歩みを進めた。



 森の中は、長い年月を経たであろう大木が並び、雑草が生えていない事で辛うじてそうと分かる様な、野趣あふれる小道が続いている。10分程歩き、錆だらけの柵をよじ登って越える。たぶん、この柵が神殿と外部を隔てていると思われるが、あまりにザルすぎる……。


(不法侵入し放題って感じ……)


 セキュリティーが甘いから、あんな巨大なモンスターの侵入を許してしまうのだ。お陰で食材が手に入ったのはいいが、管理的な面にはちょっと呆れてしまう。神殿はどうでもいい。今は少年の捜索に集中しないと見つけられなくなりそうだ。そう思ってから「アレ?」と首を傾げる。


(なんで私、アイツがいる方向が分かるんだろ? 何の痕跡も残ってないのに)


 

 姿どころか、足跡一つ残ってない。それなのに自分の直感染みた何かがコッチだと知らせる。足が向く方向に歩けば、きっとあの男がいる。確信が怖い。


(深く考えないでおこ……)


 この世界に来て、不思議な事が起こりすぎている。自分自身さえも理解出来ない時が多くなり、そのうちキッチリと向き合わなきゃいけないのかとも思う。でも今は気楽に考えていたい。


 さらに神殿を離れると、そこかしこに、小さな野生動物の姿が見えた。図鑑でも見た事のない動物ばかりだ。


(襲い掛かってきたら、張り倒してやる!)


 不思議な生き物達に睨みをきかせながら、太陽と逆の方向に歩いて行く。暫くしてから、森を抜けて直ぐのところに、上下共に青い服を着た後ろ姿を見つけた。


 少しホッとした気持ちになりながらも、逃げられないよう、なるべく静かに近付いて行く。

 20m程位まで距離を詰めると、声をかける前に少年が振り返った。マリの気配に気づいていたらしい。



 悪戯が失敗した様な面白くなさを感じたが、それを伝える程に彼と仲良しなわけでもない。


「そんな所で何やってんの?」


「向こうに、食べ物がたくさん置いてある場所があるなって……」


 彼は長い指を前方に向けた。


「食べ物?」


 森を抜けて、彼の隣に立つと、近くで青空市場が開かれていた。


「近くに市場があったとはね」


「市場……」


 彼の視線は、前方に固定されている。興味があるのだろうか? 何となく直ぐに神殿に戻ろうとは言い辛い感じだ。


「行ってみる?」


「うん……」


 頷く彼の目は、好奇心に溢れている。それを見て、言ってみて良かったと思えた。


「それじゃあ、レッツゴー!」


「ゴー……?」



 二人で青空市場の中に入って行く。地面に直接ぺったんこになった麻袋を敷き、その上に食材やパン等が並べられている。市場の売り子もチラホラ見える客達も、質素な服に身を包んでいるためか、売られている果物や野菜がより一層色鮮やかに見えるようだ。


「やっぱさ。土の神殿の近くだから、土壌が良かったりするのかな?」


「……土壌が良いって、どういう状態の事を言うの?」


「窒素やリン酸がたくさん含まれているとか。あとはそうだな~。PH値とか? あ~でも、植物によって適正がそれぞれ違うから、なんとも言えないか!」


「奥深そう……。土が気になる理由は?」


「いい土壌で育てられた農産物は美味しいのかなって思ったんだ」


「つまり、ここで売られている物の味がいいって事?」


「そう! 何か買いたくなってきたな。アンタも欲しい物有ったら気を遣わず言っていいよ」


 マリ達の服装が珍しいからなのか、二人は市場の人々の注目を集めている。それを知らんぷりしながら、二人で店舗を見て回る。


「これ、記憶の中にないけど、僕達が来た世界でも育てられてる?」


 少年が指さしたのは、色とりどりの身がミッチリとついたトウモロコシだ。一本に、赤、黄色、ピンク、紫等、様々な色がランダムにくっつき、見てるだけでも楽しい。たぶん彼はこの派手な見た目から、この世界特有の種類だと思ったんだろうが、甘い。


「これ、たぶん私達の世界で言う、グラスジェムコーンっていう種類のトウモロコシと同じだと思う。ニューヨークでも買えるよ!」


「へぇ……。見てると目がチカチカして楽しい」


「私もこういう、変わった見た目の野菜好きだよ。買って行こう。おばさん、それ二十本ちょうだい」


「はいよ! 大量に買って行ってくれるのは嬉しいね。おまけにこれを付けてあげる」


 売り子の女性が手に取ったのは、黒い卵型の食材だ。レアネーに戻ったら市場で調達できないかと思っていた果物の姿に、マリは喜んだ。


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