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土の神殿の大神官④

(この人って、戦うのが嫌いなのかな?)


 微妙な態度をとる少年を見て、マリは何となくそう思った。

 思い返すと、彼は今まで人間や、モンスターに危害を加えてはいなかった。魔法という特殊な力を、治癒や防御に使っていた。


(いつか、その訳を聞いてみよう)


 彼の横顔を見ながら、マリは会話に困った時にでも、それとなく持ち出そうと思った。


「悪いがもう二時間程考えさせてほしい。土の神殿は他の神殿に比べ、人員に恵まれているわけではない。勿論、瘴気を浄化出来る者も居るが、現在俺含めて二十五名。レアネー市に行っている間、この神殿に残す人員の事もあるし、そう簡単に返事は出来ぬのだ」


「なるほどね。出来るだけ急いでほしいけど、君にも事情があるようだ。しょうがないから待ってあげるよ」


 エイブラッドは公爵に一度嫌そうな顔をしてみせてから、視線をマリに向けた。何か気になる事でもあるのだろうか?


「マリ・ストロベリーフィールド嬢。少し二人で話をしたい。時間を貰っても?」


「えー……」


 初めて会う男と二人になるのは、さすがのマリもあまり気が進まない。口をひん曲げると、側に座っていた公爵が笑い声を上げた。


「マリちゃん。エイブラッドは真面目な男だよ。二人きりは嫌かもしれないけど、それだけ重要な事を伝えたいんだと思う。よければ話してやってくれない?」


 エイブラッドに毛虫の様に嫌われているにも関わらず、公爵はマリに、彼との会話を勧める。エイブラッドとマリが話をする事に、何らかの価値があると考えている様だ。マリは渋々頷くしかなかった。


(異世界ってこういうところ、デリカシー無いな。セバスちゃんが居たら庇ってくれたのかな)


 しょうもない事を考えながら、エイブラッドの後に続いて応接室を出る。


 彼はマリを連れ、人力エレベーターで最下層まで下りた。


 上を見上げてみると、各層の明かりが幻想的に揺れている。その光景は、神殿という神聖な場であるにも関わらず、魔界染みた魅力があるようで、見入ってしまいそうだ。

 そんなマリを気に留めず、エイブラッドはスタスタと通路を奥へと進んでいっていた。マリは軽くため息をつき、彼をノロノロと追いかけた。


 日本の神殿等に置いてある、灯篭によく似た照明装置が狭い通路を照らす。神殿内部は窓が無いため、照明に頼らないと移動すらままならないだろう。


(こんなに火を使ってるのに、酸素は薄くないかも? 換気システムみたいなのがあるのかな?)


 足の早いエイブラッドに小走りで付いて行っているのだが、呼吸は苦しくない。めんどくさい状況ではあるが、この神殿自体は、神秘的だし、仕組みをもっと知りたいとすら思う。


 足元はいつしか整備されていない、ただの土になっていた。壁も剥き出しの岩だ。


(洞窟……?)


 人どころか、生き物全ての気配が薄い。二人分の足音のみ反響する、異様な静寂。

 この男はどこに連れて行こうとしているのだろうか? 改めて不気味に思う。黙ったままなのは、流石に失礼だ。


「あのさぁ、なんで何も話さないの?」


「もう少しで着く」


 問いかけに対して、ストレートに答えを返してくれない人間は胡散臭い。マリはだんだん腹が立ってきた。


「いい加減にしてくれる? そんなんだから……__」


 話している途中で、何か特殊な感覚の空気の中を通り抜けた。肌が、ヤスリの様にザラリとした何かに触れたのだ。ハッとして今通ったところを見るが、何も無い。


「今、貴女は聖域に足を踏み込んだ。通常であれば、土の神官でなければ入る事が出来ない__土の神殿の心部。ここまで付いて来れたのだから、貴女は『選定者』で間違いないのかもしれない」


「私を試したの?」


「すまない」


「あんた、鑑定とかいうのが出来るんでしょ? こんな面倒な事しなくても、自分で調べれば良かったじゃん」


 マリの口調は自然厳しくなっていた。これで、聖域とやらに入れなかったら、一体どうなっていたというのだろう? 想像するだけでも恐ろしい。


「自分の力よりも、神の審判に頼りたくなった。それだけ『選定者』は我々聖職者にとって意味ある存在なのだ」


「具体性に欠ける説明だね」


「貴女は、適当な事が苦手なのだな。長くなるが、説明しよう」


「宜しく」


「約1000年前、この地は魔族に占領されていた。それを憂いた当時高名だった術者二名が、それぞれ異世界から勇者を召喚した。しかし神々の力が二人の勇者それぞれに分散した結果、魔族への対抗力は限定的なものになったらしい」


 エイブラッドの低い声が、呪いを紡ぐ様に、不気味に反響する。

 話を聞きながらマリは、その1000年前にあった事が、今の状況に似ている事に気がついた。彼はこれからマリに何を伝えようとしているのだろうか?


「四柱の神々は考えた。より相応しい者に力を集約させるべきだと。しかし、彼らは神の身、地上に降り立ち、勇者達の行動を観察し続けるのは難しい。だから一人の女に選ばせる事にしたようだ。神の声を届ける選定者__それは当時、四大元素を取りまとめる、最高神官に就いていた者だった」

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