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土の神殿の大神官②

 赤茶色のドームに近付いて行くと、入り口付近の様子が良く見えた。道が平らに整備され、その所々に、古めかしい鎧に身を包んだ者達が立っている。


「あの人達って、神殿で働いているの?」


 マリが鎧の人物達を指差し、質問すると、少し前を歩いていた公爵が頷いた。


「彼等は神殿騎士だよ。土の神殿に所属しているんだ」


「神殿は神聖な場所だと思ってたんだけど、あんなに武装した人達が必要なんだね。ちょっと意外だな」


「レアネーに現れた様な、高位の魔族は、人々の神への信仰心を嫌っている。瘴気は神の加護が薄い者ほど侵されやすいものだからね」


「神を降ろす神殿は……。魔族が忌む場……。攻撃の対象になりやすい」


 公爵の言葉をついで、白髪の少年が、神殿という場所の持つ危うさを教えてくれる。この世界は、神との距離がかなり近いという事なんだろう。そして加護の有る無しの違いは、人々の信仰心の有無と紐ずくらしい。


「この世界の宗教は、大切な意味を持つのか」


「そういう事! 敬虔な者は瘴気へのバリアとも言える加護を得られるのさ! 神に祈るだけでも瘴気を払えるんだけどね」


「なんか……お手軽だね」


 会話を交わしながら歩いていく。土の神殿へと続く直線の道に差し掛かると、神殿騎士達が鎧をガチャガチャ鳴らしながら駆け寄って来た。


「そこの者達! 止まれ!」


 野太い声を張り上げられ、マリは不快感に眉根を寄せる。


「この先は土の神殿! 選ばれし者のみ通行を許す!」


 マリ達を威嚇するような態度のオッサンに対し、公爵は「まぁ、落ち着いて」と、穏やかな声で宥める。


「僕はここ、フレイティアを治める立場にあるイリア・ダルザスだ。フレイティア公爵位を持つと言った方が伝わりやすいかな? 土の神殿の大神官エイブラッド殿に面会しに来た。通してもらおうか」


「なんっ……ですと!? 確かに……聞く話によると、公爵は二十代後半の美丈夫と聞くが……。ぐぬ……、だ、だが、そんな怪しい者達を連れて訪問するなど、有り得ない、様な……。証拠は、証拠はお有りですかな!?」


 フレイティア公爵のネームバリューは絶大な様で、マリ達に偉そうに振舞っていた神殿騎士の言葉遣いが敬語に変わっている。しかし、ダウンジャケットにジーパン姿のマリと、相変わらず入院患者の様な服装の白髪の少年を連れているという事が胡散臭さを醸し出しているらしく、すんなりと公爵の言葉を信じなかった様だ。そんなオッサンに公爵はめんどくさそうな表情をし、右手を前に突き出した。


 彼の手の平から、黄金の炎が生み出される。その炎は不思議な事に、一羽の鳥の形になった。


「フレイティア領主である証だよ。僕にしか使えない魔法さ。生きているうちに一度でも拝めた事を有り難く思うがいい」


「な、なんと!! 確かに、その黄金の可愛い小鳥は領主様の証と聞く! 貴方様は正真正銘の公爵様に違いあるますまい! ご無礼の数々、失礼致しました! お前達! 何をボサッとしておる! さっさとエイブラッド様にお伝えするのだ!」


「「了解致しました!!」」


 三人の神殿騎士のうち、下っ端らしい二人が転がる様にドームに向かって走って行く。今のやり取りから察するに、公爵という立場は、神殿という組織に対しても絶大な影響力を持つのだろう。


「公爵って凄い人なんだね。新しい物好きの暇人なのかと思ってた」


「新しい物好きの暇人で間違いはないよ。有事の際は、爵位を活用しているだけ」


 神殿騎士は、公爵と気軽に言葉を交わすマリの姿を上から下まで観察している。たぶん、どういう態度で接するべきか値踏みしているのだろう。この人物にとって価値ある自己紹介なんて出来ないだろうから、マリは知らんぷりした。


「土の神殿にご案内致します。神官達は現在会議中ですので、もしかすると暫しお持ちしてもらうかもしれませぬ」


「構わないよ。案内して」


「かしこまりました!」


 先を歩くオッサンの後を三人でついて行く。なんとなく試験体066の様子が気になり、後ろを振り返ると、彼は空を見上げていた。


「どうかした?」


「……鳥が、忙しそう……」


 なんという不思議ちゃん。マリは「あ、そう……」としか返せなかった。しょうがなく空の様子を確認すると、近くの森の上空に多くの鳥が旋回していた。


(なんだろ……?)


 確かに少し様子がおかしい気もする。見ている間に、鳥達は、一斉に飛び去った。



 土の神殿は、外側より内部の方が凄かった。地上に出ていたのはほんの一部だけで、地下に向かって広大な空間が広がっていたのだ。マリ達は神殿の下働きらしき者達の人力エレベーターでかなり下の階まで下ろされ、応接室に通された。

 美しい少年が運んで来た、ハスの葉のお茶に似た味の飲み物を楽しむ事三十分程で、応接室のドアが開いた。

 現れたのは、巨大な帽子を被った男だ。帽子の上部にプロペラの様な装飾品がのっていて、回転して飛んでいかないかと心配になる。


「貴様……どの面下げてっ!」


「やぁ、エイブラッド! 久しぶり。素敵な衣装だね!」


 この人物が土の神殿の大神官エイブラッドらしい。帽子から視線を下げると、ナイフの様に鋭い顔の持ち主だった。

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