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土の神殿へ⑤

 ずっと運転してくれていた公爵に声をかけ、停車の仕方を教える。道をやや逸れた所にキャンプカーを停めてもらってから、ソファセットまで誘導する。

 彼はテーブルに並ぶ料理の数々に目を丸くした。


「これはまた……、随分風変わりな夕食だねぇ……。見た事のない料理ばかりだよ」


「二人で作ったんだ。これらはね、私達の世界でも、独特な文化を築いてきた国の料理なんだよ。口に合ったらいいけど……」


 マリとしては完璧に思えた品々だが、改めてテーブルの上を見ると、質素で所帯染みてる感じだ。異国の貴人からしたら、そもそも食べ物だと認識出来てるかすら微妙かもしれない。もっとオーク肉の塊がドーンと存在感を示す様な料理にすべきだっただろうか?

 らしくもなく緊張していると、三つのグラスにミネラルウォーターを注いでくれていた試験体066と目が合った。


「マリさんの母さんが生まれ育った国の料理らしい……。日常的に家族で食べていたのかも……」


「う、うん。作り慣れてるし、自信あるよ!」


 マリ達の言葉に、公爵は鷹揚に頷く。


「なるほど、一番美味しく作れる料理という事か。僕をこの乗物に歓迎しようという心意気を感じられるね」


 公爵がソファに座ったので、マリと試験体066も向かい側に並んで座る。公爵はまずゴーヤ(もどき)チャンプルーの中に入っているオーク肉をフォークで刺した。日本食なのにフォークを出したのは、マリ以外の二人が箸を使えないだろうからだ。箸を強要したあげく、ゆっくりご飯を食べれなくしてしまうのは、マリの意図するところではない。


「これ、僕があげたオークの肉?」


「うん。私の世界に生息している豚っていう生き物に味が似ているから、豚肉料理風にしてみた」


「マリちゃん達の世界にも居るのか。実はこっちの世界にも居るんだよね」


「へぇ、普通の豚も居るんだ」


 彼の口にオークの肉が入る。マリはドキドキしながら咀嚼する様子を見つめてしまう。異世界の人間に、母の国の料理が受け入れられるのだろうか?

 公爵はふむ……、と首を傾げ、ゴーヤ(もどき)や豆腐を次々に食べる。


(え……、もしかして不味いの?)


 急に居心地が悪くなる。あんなに自信満々に振る舞ったのに、不味かったら馬鹿みたいじゃないか。しかし、マリの心配を他所に、公爵はニコリと微笑んだ。


「うん、美味しい! ただこれは大人向けの料理なんだろうね。苦味の良さを知る者にしか、受け入れられないかも。オークの肉を食べた時、他の食材から苦味が移ってしまっていて、失敗したのかな? と思ったんだけど、レアネーゴーヤと白いポヨポヨを食べたらいい感じに中和されていた。だから意図して苦味を全部消さない調理法なんだと知れたんだよ」


 彼はジックリと考えながら食べていてくれたらしい。適当に美味しいと言われるより、嬉しいかもしれない。


「この味を分かってくれたんだ! 良い味覚してる! 白いポヨポヨはたぶん豆腐の事だね。こっちのワカメご飯も食べてみて。これは隣の彼が混ぜてくれたの」


 白髪の少年は、眉根を寄せてチビチビとレアネーゴーヤ(というらしい)を齧っていたが、急に名前を出されたのが意外だったのか、慌てた様に背筋を伸ばし、コクリと頷いた。


(この人苦いの苦手か……。おこちゃま!)


「食べ辛かったら、残していいよ」


「食べれる……」


「あ、そう。こっちのオーク汁、アンタが剥いた里芋が入ってるから、こっちも忘れずに食べてよね」


「うん」


 この少年と話していると、不思議な生き物と接しているような感覚だ。まぁ、こういうのも悪くはないかもしれない……。


「白くてベタベタする食べ物、なかなかいいね! 腹にズッシリくる感じ! 黒いゴミが入ってるのは気になるけど、胃に入ったら何とかなるかも」


 公爵の言葉を聞き、マリはガクリとした。


(コイツら同じ間違いしてる! ていうか、ゴミだと思ってもそのまま食べちゃうんだ!? やば……)


「これはワカメっていう海藻! れっきとした食べ物なんだから。ゴミとか言わないでよ! ワカメに謝れ!」


「え!? ご、ごめん? って、通じないから! アハハ!」


「食べ物にゴミを混ぜるなんて思われたくないんだけどっ」


「そうだよね。ほんとゴメンね。でも、あーそうか。だから磯の香りがするんだね。こんなに細かくなってる状態初めてみるんだ」


「磯の香りがした時点で気付いてよ……」


 失礼な男達である。


「これ、オーク汁って言うんだっけ? 凄く好き……」


 白髪の少年は木製のお椀を片手に持ち、顔を綻ばしている。美味しい物を食べるとこういう表情になるのかと、マリはコッソリ驚く。


 他人を観察してばかりでも悪いので、マリも彼が剥いてくれた里芋を口に入れた。程よい味噌の味が感じられ、ネトネトな食感が相変わらず面白い。オークの肉は優しい甘みと、若干の野性味がある。でもそれがちょうどいいアクセントになっていて、控えめに言ってもかなりの上出来だ。


「いい感じの煮え具体だね。公爵も食べ……って、わわ!?」


 マリの話終わらないうちに、公爵がお椀をズズいっと差し出した。


「これ、気に入っちゃったよ! こんなに凄いオーク肉の食べ方があるとはね! おかわり頂戴!」


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