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害獣からの身の守り方③

 コルルはマリ達の返事に嬉しそうに頷いた。


「やっと私も結婚して立派な獣人の女性になれるんだな~! 気合い入れなきゃね! さ、帰ろ!」


 彼女は試験体066の腕を掴み、マリ達に手を振った。それを見ながらマリは複雑な気持ちになっていた。


(信用か……。出会いは最悪だったわけだけど、何度もフォローしてもらってるな。このままアイツがこの街を出れなくなっても、後でから私、後悔しないのかな?)


 彼が以前言っていた『自由がほしい』という言葉が、今更ながらズッシリと重みを増す。


(でも、コルルから結婚したらどうなるかについて聞いてるだろうし、それでも結婚する意思があるんなら、もう私がアレコレ考える必要なんてないんじゃ? うーん……、でもなぁ……)


「あ、あのさ!」


 つい呼び掛けてしまう。何を言うかも決めてないのに……。


 やっぱり結婚はやめた方がいいとでも言えばいいのだろうか?


 でもキョトンとした顔で振り返ったコルルの目を見てしまうと、とてもそんな事は言えなかった。


「……お幸せに」


「うん! 有難う!」


 白髪の少年も何か言いたそうな、物憂げな表情をしていたが、彼もまた何も言わなかった。


 微妙な空気に気づく事もなく、コルルは再び手を振り、試験体066と夕陽に向って去って行く。

 二人の背中をマリとセバスちゃんは並んで見送る。


「結構お似合いかもしれませんね。あの二人。066氏も彼女の様な明るくて可愛い子と一緒になったら幸せになれるでしょう」


「そーだね」


 セバスちゃんは多分、マリが気にしなくて良いようにそう言ってくれてるのだろう。もう結婚する流れになってるのだから、向こうに任せたらいいと思ってそうだ。確かにもう今更なのだ。口を挟むなんて野暮すぎる。


 マリは肩を竦め、セバスちゃんに、人間に対して電気柵の危険性を伝えられる様な貼り紙を作る様に言ってからキャンプカーに引っ込んだ。



 あくる朝、いつもより少し遅い時間に目が覚めたマリの身体はどういう訳か力が漲っていた。


(あれ? なんだろ?)


 朝はいつも怠いのに、シャキッとしている。ピョンとベッドから降り、手早く身仕度を済ませる。部屋から出てみると、卵とベーコンが焼けるいい臭いがした。キッチンの方に目を向けると、セバスちゃんが背を丸めて調理しているのが見える。

 朝食を用意してくれているのだろう。そんな彼に近付き、声をかける。


「グッモーニン。セバスちゃん。朝食作ってくれてたんだ」


「おはようございます。マリお嬢様。目が覚めたら妙に身体が軽くて、大人しくしてられなかったんで、朝ご飯を作ってみました」


 彼が持つフライパンを覗き込むと、やや形が崩れたベーコンエッグが焼けていた。冷蔵庫の中の烏骨鶏の卵を使っているだろうから味は保証されている。食べるのが楽しみだ。


 そこも重要だが、今は身体の違和感の方が気になる。


「アンタも力が湧いてくるんだ? 何でだろ?」


「もしかしたら、アレのせいかもしれません」


 セバスちゃんはコンロの火を止め、キャンプカーの出口の方に向かう。開け放たれたドアから見えた光景に唖然とする。


 黒い山が出来ていた。


 アレは一体なんなのだろうか? 土か? いや、それにしては黒すぎる。微妙に動いている様に見えるのは気のせいだろうか?


 セバスちゃんに続き、外に出る。黒い山に近寄ってみると、それは大量のコウモリだった。


「うわ! もしかして電気柵に触れて感電したの!?」


「恐らく……。コヤツらを倒した事で、我々はレベルが上がったみたいでした」


 急いでキャンプカーの中に戻り、カーナビの画面を見てみると、確かに二人のレベルが上がっていた。レベル3からレベル7。電気柵でコウモリを倒したから、マリ達のステータス上で経験値的なのがゴッソリと入ったとみていいだろう。


 それにしてもこんなに簡単にレベルが上がっていいのだろうか?


 キッチンカウンターに戻ると、セバスちゃんがベーコンエッグやオートミール、緑のスムージーを並べていた。マイペースな男である。


「うーん……。レベルが上がったのは嬉しいけど、あの死体どうしようね。コルル達の結婚式の前に冒険者ギルドに行ってみない? 窓口で対応法を教えてもらえるかも」


「そうですね。まだ八時前ですし、冒険者ギルドに行く時間はあるでしょう」


 カウンターに二人で並んで座り、シンプルながらも美味しい朝食を食べてから、適当なパーティードレスを着て出掛ける。

 冒険者ギルドに着くまでの間、昨日よりも更に注目を浴びる事になったのは、マリの真っ赤なアメリカンスリーブのドレスが過激に見えたからかもしれない。


 冒険者ギルドの受付で今朝の事を話してみると、冒険者ランクDの討伐対象のモンスターに外見の特徴が似ているらしく、ギルドの担当者に現地で判定してもらう事になった。


「むむ! これはビッグバットです! 討伐依頼対象で間違いないのですね。これ程大量に仕留めていただいていたとは! コイツは夜な夜な人や家畜を攫って、血や内臓を抜き取ったりするんですが、ここ二週間程の間にレアネー市近郊の森の中に巣を作りやがってですね、大変な被害を被っているんです。一体一体は弱いですが、集団で固まって動くので駆除しきれないでいたんです。いやぁ、助かりました!」


 凄い勢いで喋るギルドの者の話に口を挟む事もままならず、頷き続ける。


「一匹で銀貨5枚の報酬なので、ええと……ひい、ふう、みい……四十匹くらいいるんですかね? 金貨二十枚は確定でお支払いします。綺麗な状態のままなので、羽根も取れそうですし、もう少し上乗せ出来ますね。午後からまたギルドにお越し出来ますか?」


「分かった。また後で宜しくね」


 ゴールドインゴッドを換金した時に思ったのだが、だいたい金貨一枚が100ドル程度の様なので、電気柵を設置しただけで一晩で2,000ドル稼いだ事になるようだ。

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