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脱走した魔法使い③

 宮廷魔法使いと再会したポイントから更に半日程キャンプカーを走らせると、車外にはスケルトンやゾンビ等のアンデッド系のモンスターが増え始めた。


「ここはもう王都と目と鼻の先、このモンスター共は魔王に呼び起こされ、彼の元に向かっているのでしょう」


「そうなんだ。見た目がちょっとキツいなぁ」


 窓の外を見ながら教えてくれるのは、宮廷魔法使いだ。名前を聞いてみたところ、ヘイム・センテリスというらしい。公爵によると、ヘイムはこの世界で一番の魔術師なのだそうだ。

 そんな有能な人物を彼自身の原因ではないにもかかわらず、牢屋に入れてしまうだなんて、この国の上層部は色々酷い。


 森を抜け出ると、王都を囲む城壁が見えてきた。

 セバスちゃんから借りっぱなしの双眼鏡で城壁塔を見てみると、鎧を身に纏う騎士達の姿を確認出来、まだ王都が魔王の手に落とされていないのが分かる。


(良かった。まだ間に合う)


 目標地点が見えたからなのか、キャンプカーはいっそうスピードを上げた。

 程なくしてたくさんの人々でごったがえす城門前に着いた。

 ここでキャンプカーを下りるのはグレンと公爵のみ。

 ヘイムは車内で隠れている事にし、マリとセバスちゃんは荷物運びを手伝う。


 先程公爵が使い魔で連絡してくれていたからか、フレイティア公爵家の使用人が城門の外まで馬車で迎えに来てくれていた。

 荷物をその馬車に運び込み、その場で二人に一時の別れを告げる。


「じゃあ、くれぐれも命だけは大事にしてね」


「うん……。有難うマリさん。君に作ってもらった惣菜、ちゃんと食べるから」


「アンタは公爵の邸宅に滞在するから、要らないかもって思ったけど、つい作っちゃった」


 今日は自分が運転しない時はずっと料理を作った。ただの自己満足にすぎないが、何故かやらずにいられなかった。


「それとこれ、今は王都内が荒れているから使える所が少ないかもしれないけど、必要な時があるかもしれないから」


 グレンに差し出した皮袋に入っているのは、この世界で三ヶ月は暮らせそうな程の金貨だ。

 今まではマリが彼の必要そうな物を買ったりしていたので、グレンは必要性を感じていないのかもしれないが、やはり自由に使えるお金は重要だ。マリ自身に何が起きるかも分からないし、暫く暮らせそうな分を持っていてほしい。

 そんなマリの気持ちが伝わらないらしく、グレンは微妙な表情をして、受け取ろうとしない。

 しかしそんな彼に代わり、公爵が受け取って、グレンに握らせてくれた。


「グレン君。遠慮は美徳にならない時があるんだよ。逆に相手を傷つける可能性があると覚えておくといい」


「……そうなんだ」


「そうだよ! 有難う公爵。これ、公爵の分。金持ちだから要らないかもしれないけど」


 公爵にもグレンと同額渡す。


「受け取っておくよ。マリちゃん達も気を付けてね」


「うん! またね!」


「お二人とも、王都の事を頼みましたよ!」


 四人でハグや握手をかわしてから、マリ達二人だけでキャンプカーに戻る。


 セバスちゃんの運転でキャンプカーは出発し、城門前に立つ二人が遠ざかる。

 マリは窓から身を乗り出し、彼等にずっと手を振った。二人の姿がだんだん小さくなり、見えなくなっていくのが信じられないくらいに寂しく感じる。


(ちゃんとまた会えるよね……? 早いとこやる事やって王都に戻ろう)


 キャンプカーがカーブし、城壁が山の影に隠れて見えなくなる。

 ガッカリとした気持ちを持て余し、ため息をつきながらスマートフォンを取り出す。

 少しだけゲームでもしたら落ち着くかもしれないと思ったのだが、画面上には、メッセージが二件入ったと表示されていた。

 メッセージボックスを開いてみると、父とアレックスからだった。


(あ、やっぱり別の世界に送れてたんだ! てか、アレックスはともかく、なんでパパから??)


 取り敢えず父からのメッセージを開いて読んでみる。


“トモコがお前が送ってきたメッセージを見せてくれた。自分は返信出来ないないので、私に返事を返してほしいと。元気そうで何よりだ。南米に行っていると言っていたが、本当は別の世界に行っているのだろう。私も昔行った事があるのだが、厳しくもいい世界だと思うぞ。細かい話はお前が戻ってから聞くとしよう。どうか無事でいてくれ”


「そっか……。ママはレベル30以上じゃないから、メッセージを返せないんだ。ていうことは、逆にパパはレベル30以上なのか。なんなんだあの人」


 文章から察するに、両親は全てお見通しらしい。

 帰ってから説明が楽になるのは助かるが、父が異世界に行っていたという事実は、以前見た夢の裏付けでもあるので微妙な気持ちになった。


“帰ったら、言いたい事があるから覚悟しといてよ”


 マリは手早く文章を打ち、父に返信した。


 


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