デンジャラスな登山⑧
アースドラゴンの外皮に付いていたアダマンタイトは、ボロボロと剥がれ落ちる。
露わになったアースドラゴンの皮膚は、ピンク色と黄色のボーダー模様をしていて、非常にファンシーだ。
――今のバチバチは……気持ちがいい。癖になるな……
身を震わせ、身体に残ったアダマンタイトを振り落としたアースドラゴンは、変態的な事を言い出した。
もしかしなくても、ボールダーの欠片の加工物を食べた時に、体中でスパークした感覚を気に入ったんだろう。
(ニューヨークでもパチパチと弾けるキャンディは根強い人気だけど、幾らなんでもあんな花火みたいなのを体内に入れて気持ちがいいとか……。モンスターってよく分からないな)
――ふむ……。身体を蝕んでいた毒素までも消え去ったようだな。アレを創ったのは、お前か?
アースドラゴンの瞳がマリを映した。そこにはもう狂気の色は見て取れず、健全な輝きを宿している。
「そうだよ。ボールダーの欠片を錬金術で加工したんだ。気に入ってくれてよかった。ねぇ、頼み事があるんだけど」
――何だ?
「そこに落ちているアダマンタイトを私に譲ってくれない?」
――これを手に入れてどうする?
目を細めたアースドラゴンがユルリと立ち上がる。
彼または彼女を貫いた光の楔は既に消えていて、巨体を地面に縫い留めるものは何もない。
再び暴れださないかと心配ではあるが、マリは不安を吹き飛ばす為にも、殊更大きな声を張り上げた。
「この世界を救うために使うんだ! 浄化の為のオーパーツを創りたい!」
――なるほど……儂に食わせた物と同じ手法で創り上げるつもりなのだな。
洞察力の高さに驚く。
たったこれだけの会話で、アレコレと理解出来てしまうだなんて、今まで遭遇してきたモンスターとは一味も二味も違う存在のようだ。
「協力してほしい!」
――大昔……。
儂はこの山に登って来た女に倒された。
そ奴は儂の身体についていたアダマンタイトを根こそぎ奪い取ったばかりか、少々面倒な事を儂に命令しおった。
そ奴の名は――
「カミラ?」
――そうだ。
「何を命令したのか教えて!」
――『遠い未来、必ずアダマンタイトが必要になる時が来る。来たるべき時の為に、またアダマンタイトを集めよ』と、そして
『優れた錬金術師が現れ、お前を倒したならば、アダマンタイトを譲り渡すようにと』と命じたのだ。
前世の自分は、過去に起こりうる事を予測し、手を打っていた。ドワーフの里で入手した金塊の時もそうだったが、このドラゴンに対しても働きかけていた。
(有能すぎでしょ。流石は前世の私!)
夢の中でカミラの内側に入っただけに、感慨深い気持ちになった。
「アダマンタイト、私が貰って行ってもいい?」
――譲り渡そう。あのパチパチの加工物を喰らい、お前の実力の高さを理解した。風が止んだこのタイミングで来たのも運命的なものを感じる。これを使って世界を救え。
「有難う! そんで、あのさー! 悪いけど1000年後の為にまたアダマンタイトを集めといて!」
――ブアッハッハ!!
アースドラゴンは空気を揺らす様な豪快な笑い声を上げた。
なかなか気の良い人格をしている。
マリとアースドラゴンの会話が終わったのを見計らい、グレンが疑問を口にした。
「マリさん。アダマンタイトは予定通りにエコバックに詰める?」
「うーん……やっぱりこのペラペラの布だと危険なのかなー」
エコバックは一人一袋持って来たのだが、リュックから取り出し、改めて見てみると、いかにも頼りなさげだ。
王都で、大きめの皮袋を買っておくべきだったと後悔してしまう。
「アダマンタイトを斜面に転がして運んでみる?」
斬新な提案をしてくれたのは公爵。
面白いとは思うが、そんな事をしたら結構な数が無くなりそうである。
どうしたもんかと頭を悩ますと、意外なところから声が上がった。
――お前達を背に乗せて、下界に運んでやっても良い
周囲に落ちているオリハルコンをバリバリと食べていたアースドラゴンが、その一翼を上げている。
人間が挙手している感じだろうか。
色々ツッコミたくなるのを堪える。
「頼むよ!!」
アースドラゴンを完全に信用するかどうかという問題はあるが、ドワーフの里に迫っている危機の事を思うと、一刻も早く下山すべきだろう。
◇
四苦八苦してアダマンタイトをアースドラゴンの背に乗せ、セバスちゃんが持って来てくれていたロープで括り付ける。マリ達も乗り上がると、巨大な翼がバサリ、バサリと羽ばき、上空へと上昇していく。
アースドラゴンの身体は大丈夫なのかと、先程カリュブディスの攻撃にやられた部分を見てみると、黒く溶接された様になっている。食べたオリハルコンで塞いだのかもしれない。
「うわぁぁああ!? 凄いスピード!! ちょっと速度を落としてくださいよ!」
セバスちゃんが泣き言を言う。
確かに掴まる物がないドラゴンの背中はかなり不安定なので、ちょっとした恐怖感はある。
ちなみにマリは遊園地の絶叫マシーンを好んでいるので、割と楽しめている。
アースドラゴンの身体はグングンとドワーフの里に近付く。
登山口のかなり近くに、何かがひしめいていた。
「うわ! あれって、山頂付近に居たモンスターじゃないかな!?」
「もうあんなに下りていたのか……」
マリとグレンは下を見て驚く。
――ちょっと助太刀するか
アースドラゴンの身体は僅かに傾き、モンスターが多数いる方に急接近した。
通り過ぎ様に、アースドラゴンは大量の巨石の雨をモンスター達の上に落としまくった。
「いぇーい!! いいね!!」
あっという間に殲滅される様子が爽快で、マリは歓声を上げた。
もうすでに肉眼でドワーフの里の様子が見て取れる程の距離だ。
族長を始め、武器を担いだドワーフ達が唖然とした表情で此方を見上げていた。
「族長ー! 戻って来たよ! アンタ達は無事!?」
マリが声を張り上げると、ドワーフ達は満面の笑顔でピョンピョンと飛び跳ねた。




