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デンジャラスな登山⑤

 腹の底に響く様な咆哮を聞きながら、マリは予想する。


「この先に居るのはアースドラゴン?」


 今ここを通り過ぎて行ったモンスター達は、どれもこれも怯えている様だった。アースドラゴンから逃げているんじゃないだろうか。


「どうでしょうね。……正直、私は引き返すべきだと思います。このまま先に進んだら、濃霧の中で、他のモンスターが逃げ出す程強大な相手と戦う事になるかと」


 セバスちゃんは彼らしい慎重な意見を言う。それに対して公爵は困り顔でリスクを提示した。


「今下に行ったら、逃げたモンスター達がウジャウジャいるんじゃないかな。どちらが危険なんだろう」


「それは、たしかに……」


 進んでも、退いてもバトルは免れられなさそうだ。

 そうした場合、何を優先するかといったら、やはり当初の目的だろう。


「進もう。僕達はそもそもアースドラゴンからアダマンタイトを得るためにここまで来たんだから」


 グレンも同じ考え方をしているのが分かり、勇気が湧いてきた。

 リスクの高さは最初から分かっていたんだ。今更尻込みなんかしてられない。


「GOだよ! アースドラゴンの身体についている鉱石を丸ごとうば……アレ……?」


 マリは宣言しようとしたのだが、霧に異変が起きている事に気が付き、口を閉じた。

 白かった霧が、煙の様に黒ずんでいたのだ。しかも色が徐々に濃くなる。見るからに不穏だ。


 ドワーフ達の話しでは、黒い霧の話はなかったはずなのだが、これは一体……。


――ザッ……ザッ……ザッ


 霧の向こう側から、軽やかな足音が聞こえてきた。二足歩行の生き物がこちらに向かってきているのだ。

 人間であればいいのだが、ドワーフ達に聞く限りだと、今この山に登っているのはマリ達のみ。

 足音の主が普通の人だなんて、期待できるはずがない。


 霧の中に人影が薄っすら見える。岩の影に隠れながら、その人物の様子を伺っていると、どうやら小柄で、猫耳の様な物が生えているようだ。


(獣人……?)


 二足歩行の生き物は顔の造作まで見て取れるくらいまで近くに来た。露わになったその姿に、マリは声を上げそうになった。

 獣人のコルル、もとい、グレンの元婚約者、改め、この世界の魔王その人だった。

 長い黒髪に、可愛らしい猫耳。口角が上がった唇はやたら楽しそうだ。

 彼/彼女は黒いドレスの裾を乱暴に蹴りながら歩いている。


「お? な~んか、覚えのある気配がするなぁ」


 黒髪の美少女はケタケタ哂う。

 この人物を相手に、隠れ続けているなんて出来るわけがなかった。

 マリは唇を噛みしめ、立ち上がる。


「コルルの身体から出て行ってくれる?」


「あぁ、お前。レアネーで会った可愛い娘か。会いたかったぜ。てか、前よりも、美味そうになったじゃねぇか。神族と混ざったのか?」


 魔王はペロリと小さな舌で唇を舐め、こちらに近付いてくる。

 この人はカリュブディスと同化した事を一目で見抜いたというのだろうか。ヤバイと思って一歩下がる。


「魔王。君との決着を付けさせてもらう」


 マリの前に立ったグレンに、魔王は鼻でわらった。


「死にぞこないが……。今ここで潰しとくかなぁ」


「ベルセアデス様!」


 上空に、コウモリの翼を生やした美女が浮かんでいた。魔王は彼女の声に「ん?」と顔を上げる。


「王都襲撃の準備が整いました。配下の者共のため、是非激励を!」


「あ~、そうだった。ったく、ダリィな……」


 今の会話がスンナリ飲み込めず、魔王と羽人間を交互に見る。


(王都襲撃って言ったよね? 配下の者共というのは、魔王軍!?)


「それ、本当!?」


「そうそう。忙しいんだよね。オレ」


 ニヤニヤ笑いながら、魔王は上空へと舞い上がった。

 行かせたら、これから王都が大変な目にあってしまうだろう。


「行くなぁぁああああ!!!」


「プッ……。ぜーんぶ終わったら、お前を愛人にしてやるよ。今は蜥蜴ちゃんと遊んでてな」


 魔王が黒い霧を晴らす。良く見える様になった山頂方面に、とんでもない生き物が鎮座していた。

 ドワーフの里全体を押しつぶせそうな程の大きさのドラゴンだ。


(あれが……、アースドラゴン? なんて大きさ!)


――オリハルコンは渡さない……


 頭に直接響くような声は、このドラゴンから発せられているのだろうか。

 人語を話せそうでも、全くといっていい程喜べない。その鋭い目には狂気の光が浮かび、意思疎通出来そうにないからだ。


「瘴気に耐性のあるドラゴンでも、オレにかかったら赤子の手を捻るかのごとく、簡単に堕とせちまうんだよなぁ。蜥蜴ちゃんよ、勇者くらいは殺っといてくれよ?」


 魔王は大笑いしながら美女と共に去って行ってしまった。

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