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デンジャラスな登山②

 午前6時

 ドワーフの里近くにある登山口で、マリ達はドワーフ族の族長とその家族に見送られる。


「――悪いな、アンタ達に付いていけなくて。俺達は鉱山と里を守るのに手いっぱいなんだ」


「無事に帰って来てね!」


 口々に別れを告げるドワーフ族の父娘に、マリは頷いてみせる。


「うん。オリハルコンの剣を宜しくね」


 手を振って山に踏み入ろうとしたが、後ろからしわがれた声が聞こえ、足を止める。振り返ると、プタマが杖を翳し、何事かを唱えていた。


(プタマさん、何やってんだろ?)


 彼女の杖の先っぽがキラリと光った瞬間、マリの身体の周囲を不思議な空気が包み込む。


「うわ!? 何したの?」


「中レベルまでのモンスターに感知され辛くする術をかけさせてもらいました。皆様どうかご無事にお戻りください」


「へぇ……。有難うプタマ! 行ってきます!」


 マリに続き、セバスちゃんやグレンも彼女に礼を言い、今度こそ出発した。


 ジャリ、ジャリと地面を踏みしめる。

 植物があまり生えていない斜面は、人が踏み固めて出来た道が先へと伸びている。

 マリはニューヨークの自宅から登山用の靴を持ってこなかったので、普段と同じスニーカーを履いているのだが、これでこの先大丈夫だろうか。


 ちなみに、セバスちゃんは執事用の革靴だし、グレンと公爵はこの世界で売られているブーツを着用しているので、靴底のグリップ力が一番安定しているのはマリだったりする。

 それなのに下手によろけると舐められそうなので、マリはノシノシと体重をかけて進む。


(それにしても、グレンにブーツ買っておいて良かったな、下手するとサンダルで登山するはめになったし)


 前を歩く男の足元をジロジロと見ていると、後ろに居る公爵が溜息をついた。


「はぁ……。モイスってば、登山が嫌だから架空の用事を思い出したんだろうね」


 そうなのだ。プリマ・マテリアのモイス・ソニシアは昨日ドワーフの里で夕食を食べた後、徒歩で火の神殿へと戻って行ってしまった。彼の力を少なからずあてにしていたマリはガッカリしている。

 だけど、出発早々愚痴って他の人のモチベを下げるのは良くない。


「今って、特殊な状況だし、本当に忙しいのかも。……まぁ、アンナ奴いなくても私達四人いればなんとかなるでしょ」


「心配は要りませんよ。マリお嬢様。銃弾をたんまりと持って来たので、どんなモンスターが襲い掛かって来てもハチの巣にしてやれます」


 最後尾を行くセバスちゃんがニカリと笑いかけている。彼は大荷物を背負っていて、元々太い体形が、さらに膨張して見える。

 銃火器の他に、テントを始めとするアウトドア用品を持っていて、荷物の重さで転がり落ちないかと心配だ。


 彼を見ているうちに自分の荷物まで重く感じられ、背負いなおす。自分用の寝袋や衣類、瓶に入れた総菜や食材等しか入ってないので、セバスちゃんの荷物よりは軽いのだが、なかなか慣れない。


 先頭を歩くグレンが振り返る。


「マリさんの荷物、僕が持つ?」


「え!? じ、自分で持てるから大丈夫だし!」


「……そうなんだ」


 マリと同じくらいの荷物を背負っている彼に、更に押し付けたくはない。何故か残念そうな顔をしたグレンは前を向き直り、再び歩き出した。



 山は静寂に満ちている。

 四人が地面を踏みしめる音を聞きながら、言葉少なく三時間程登り続けると、見晴らしの良い場所に出た。かなり下の方にドワーフの里の小さなドームがたくさん見える。


(ドームが結構小さく見えるな。それなりの高度まで登れたのかな?)


 ちょうどいい場所なので、マリ達は休憩をとる事にした。

 水筒に入れたお茶を飲みながら、下界の風景を見たりしていると、ザザザ……と何かが這うような音が聞こえてきた。

 音の主はマウンテンサーペントだった。巨大な蛇の姿をしたモンスターと遭遇するのはこれで6度目。

 出発時にプタマがかけてくれた術がかなり強力なのか、今まで行き交ったモンスター達はマリ達を感知していない。

 グレンや公爵に聞いた話だと、マウンテンサーペントはBランクのモンスターらしいのだが、邪悪な姿を見ていると、結構際どい気がした。果たしてどの位のランクまでプタマの術が有効なんだろうか。


「この山ってさ、アースドラゴンの他にも強力なモンスターが居るって話だったよね?」


「……うん。ドワーフの山師さん達の話では、Aランク以上のモンスターも徘徊して――……あ、ちょっとこっちに来て」


 グレンが途中で話をやめ、大きな岩の影に移動して手招きする。

 ちょうど大岩の影になっている場所に四人で入ると、グレンは上空方向を指さした。岩を貫通した向こう側に何かが居るらしい。

 マリは岩の影からそっと空を見上げる。


(うっわ! あれって、翼が生えた恐竜!?)


 何を警戒しているのか分かった。〇スト・ワールドに出ていた恐竜に酷似したモンスターが複数匹上空を飛んでいるのだ。


「あれって、強いモンスター?」


 小声で訪ねてみると、公爵が頷いた。


「ワイバーンはA⁻~B⁺位の強さだね。運が悪いと術が見破られてしまうかもしれない」


「マジか……」


 これから先は気を引き締めた方が良さそうだ。

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