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火の神殿へ④

「そのイヴンナ山に登るためには、まずどこに行ったらいいの?」


 マリの問いに、アウソン大神官は長いアゴヒゲを撫でながら答える。


「ドワーフの里付近に登山口がありますぞ。入山に関してはドワーフ達が管理しています」


 ドワーフの里には、オリハルコン製の剣を入手する為に行きたいので、これはなかなか好都合かもしれない。


「んんん……。アースドラゴンは古来より、ハリテクトリ候領の鉱物を喰らい続けていたそうですな。しかし、金属加工を生業(なりわい)とするドワーフ族はそれに危機感を覚えたのです……」


「鉱物資源が枯渇してしまうから?」


「ええ、ええ。だからドワーフ族はアースドラゴンと協定を結びました。年に一度、不純物が入っていない良質のオリハルコンを提供する代わりに、鉱山を食い荒らさないようにと。これのお陰で、現在でも採掘業を行えているんでしょうな」


 大神官が語るこの地の歴史に思いを馳せる。

 モンスターとの共存なんて、元の世界では考えもしない事だったが、こちらの世界では昔から衝突が絶えなかったのだろう。アースドラゴンが人語を理解出来たのは、ドワーフ族にとって不幸中の幸いだったのかもしれない。


「それにしてもさ、不純物無しのオリハルコンって、かなり硬そうだよね。それを食べて……消化するの? アースドラゴンの消化液はかなり酸性なんだろうね」


 マリが素朴な疑問を口にすると、公爵が答えてくれた。


「先日遭遇したボールダーもそうだったように、モンスターは人間の身体の構造と同一ではないんだよ」


「フレイティア公爵の言う通りですぞ。伝え聞く話によると、アースドラゴンは喰らった鉱石を外皮とするようなのです。イヴンナ山に居る個体は、カッチカチなんでしょうな」


「うわぁ……。それ、倒せるのかな」


 アウソン大神官の話が本当なら、イヴンナ山に居るアースドラゴンは、ドラゴンの形をしたオリハルコンという感じだろうか。ごく普通の攻撃ではビクともしなそうな気がするのだが、その辺どうなのだろうか。

 肩を落とすマリに、モイスがヘラヘラと笑いかける。


「楽観的に考えましょ。マリ様。アースドラゴンを倒さなくても、身体の表面にアダマンタイトがくっ付いてるかもしれまへんやん。隙を付いてちぎり取ったらよくないです?」


「そんな事したら、怒って、襲われるよね?」


「そうですやろなぁ」


「結局倒さなきゃいけないじゃん」


 何という適当さだろうか、マリは腹が立ち、モイスを睨んだ。

 マリ達のやり取りに、公爵は笑う。


「ププ…‥‥。まぁ取りあえずさ、マリちゃん。アースドラゴンに関しては、一度ドワーフの里に行って、聞き込みしてみよう。モイスは、ドワーフの族長に連絡を入れてくれるかな?」


「やっときますわ」



◇◇◇



 翌朝、トマトやパプリカの煮込み料理シュクシュカを食べながら、マリは昨日の話をセバスちゃんやグレンに伝える。


「アースドラゴンの外皮って、メチャクチャ硬いみたい。私達って普通のドラゴンとも戦った時ないけど、大丈夫なのかな」


「僕は倒した事あるよ」


 グレンはそう言い、シュクシュカを乗せたパンを口に運んだ。


「え、何時? もしかして前の勇者の記憶?」


「いや。僕自身の経験。王都の近くにあるダンジョンの下層にドラゴンが居るんだ」


「王都に居た時にグレンが通ってた所だよね? 思ってたより歯ごたえある所なんだね」


 知らぬ間に戦闘経験を積んでいたグレンに、マリは目を丸くする。


「僕が学生の時に、実習でそこに行った事があるけど、ドラゴンは居なかった気がするな」


「公爵さんはたぶん正規ルートを通ったんじゃないかな。脇道に入らないと遭えないと思う」


「なるほどね」


「マリさんの話を聞くと、アースドラゴンはかなり癖がありそうだけど、倒すのは不可能ではない気がする」


 ドラゴンを倒した事があるグレンが言うのだから、なんとかなるのかもしれない。

 

「私はあまり気が進みませんけどね……」


 そう言ったセバスちゃんを見ると、実に嫌そうな顔をしている。彼はアニオタだし、アレコレゲームをやっているので、ゲームの恐ろしさをマリ以上に感じてそうである。


(でもなぁ……。アダマンタイトはゲットしなきゃいけないわけだし。避けては通れなそう)


 アースドラゴン以外の話題に出しながら、ノンビリ料理を食べていると、ドンドンとキャンプカーのドアが叩かれた。


「もうモイスが来たかな」


 今日は火の神に会う予定になっている。モイスがキャンプカーまで迎えに来る約束になっていたが、今は朝の7時なので、思っていたよりも来るのが早い。

 セバスちゃんがドアを開けると、中に入って来たのはやはりモイスだった。


「おや? もう朝食を食べているんですか? ご一緒出来たらと思ったんやけど」


 どうやら朝食目当てで、早めに来たらしい。まぁ、料理を気に入ってくれているのだろうから、悪い気はしない。

 マリはしょうがなく彼の分の皿を取りに行った。


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