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水の神殿で残る雑務⑥

 夕方近くにキャンプカーを訪れたアリアの話によれば、水の神は結局リザードマン達の行いを許し、その信仰心を受け入れる事にしたらしい。

 水の神殿とリザードマン達の関係も以前通りとなり、今夜は関係修復を祝い、リザードマンの里で宴が開かれる。イドラを始め、水の神殿の神官達はこぞって参加するし、マリ達にも声がかかった。しかしマリは日中の出来事にショックを受けているし、身体も何だかおかしな感じがして、宴どころじゃなかった。

 そのため、セバスちゃんやグレン、公爵を宴に送り出し、マリはキャンプカーでのんびりしている。


 キャンプカーの運転席に座り、セバスちゃんに出してもらったハンバーガーをモグモグと食べる。空になった包み紙をグシャグシャに丸めてから、カーナビを操作し、マリのステータス画面を開く。実のところ、キャンプカーに一人残ったのは、ステータスがどうなっているか確認する目的もあった。

 マリは、表示された内容を見て、口を押さえた。


{名前}マリ・ストロベリーフィールド

{ジョブ}選定者(半神半人ver)

{レベル}26(但し、カリュブディスに身体の支配を明け渡したら74まで上昇)

{スキル}キャンプカーマスター、錬金術、スキル喰い、記憶再生


「半神半人……? もう普通の人間じゃないって事?」


 ジョブ名を見て、衝撃を受け、更にレベルの括弧書きを読んで、血の気が引いた。カリュブディスに身体の支配を明け渡すという但し書き、これはそうされる可能性があるという事を示すだろう。


「私、無事にニューヨークに帰れるのかな……、ていうか……この姿のまま帰ったらヤバくない?」


 怖くなってきて、カーナビを見たくなくなった。もう寝てしまおうと、運転席を立ち上がる。

 私室に向かっていると、キャンプカーの入口のドアが開かれた。

 中に入ってきたのはグレンだった。リザードマンの里での宴に行っていたはずなのに、何故ここにいるのだろうか。

 彼はマリの顔を見て、少しだけ口を開けた。意外なモノを見たとでもいうように……。


「……マリさん?」


「何驚いてんの? まだ私の瞳の色、見慣れないわけ?」


「……」


 つい攻撃的な口調になってしまった。マズイと思ってソッポを向くが、何故か右腕を掴まれ、引っ張られた。


「わわ!?」


「散歩に付き合って」


「この時間に?」


「……うん」


 散歩するような気分じゃないが、手を振り解く気力が湧かず、しょうがなく引かれるにままに足を動かす。

 二人無言のまま、キャンプカーを出て、塔の周りをグルリと歩く。

 海は暗いし、神殿も静まり返っている。眠たそうな神殿騎士が二人に気がついて頭を下げてくれるのに、お返しする。何の楽しみもない散歩はいつまで続くのか。これじゃあ、騎士達に変に思われるだけだ。


 グレンは建物の裏手から続く階段を下る。階段は半分ほど海の中に浸かっていて、これ以上は進めない。そこまで来て、漸くマリの腕は解放された。

 グレンが何を始める気なのかと観察していると、手を海水に浸してみている。

 これが目的だったのだろうか? なんだか気が抜けてしまう。


「あんなにずぶ濡れになったのに、まだ海水に触れたいんだ?」


「……一度酷い目に会ったからって、興味は失われない」


「寛容なことで」


「一人だったら、そうじゃなかったかも……」


「ふーーーん」


 立ったままだと、座っているグレンと話しずらいため、マリも階段に座る。

 海面と視線が近くなり、階段の様子がよく見えた。

 ヤドカリが歩いていたり、水に浸った場所に幾つも貝が張り付いていたりしている。

 そして、寄せては返す波が階段を濡らしていくのも、穏やかな波音と相まり、マリの心を癒していった。

 月の光で煌めく海面は、なかなかの見応えだ。


 隣の彼は、靴を脱ぎ、海に足を浸している。


「何でリザードマン達の宴から抜けて来たの? つまんなかった?」


「うん。ちょっと想像していたのと違った……かな。違和感を感じたら、キャンプカーに戻りたくなってた」


「違和感ー? もっと我慢強い奴だと思ってた」


「…………出掛ける前に、マリさんの様子が変だったから、気になって仕方がなかった。一人で残ってるのを想像したら……いつのまにか舟に乗ってた」


「何で言い直すんだ」


 半眼でグレンを睨むが、彼はマリから目を逸さなかった。


「ちゃんと言わないと、通じないのが分かってきたから……。ついでに言うけど……、瞳の色が変わったくらいで、マリさんに対する感情は変わらない。さっき驚いたのは、君の顔色が酷かったからだよ」


 大きな手が頭に乗せられ、ワシャワシャされる。

 最近親にもされなくなったのに、何でグレンがするのかと戸惑うが、悪い気分じゃない。


(その手、さっきまで海水に浸してたような……。まぁ帰ってから洗えばいいか)


 小さな事を気にしない方がいいかもしれない。

 グレンの言う様に、瞳の色が変わったくらいで、他人はあんまり気にしないだろう。自分が拘ったとしても時間が勿体無い。ステータスの内容も、案外なんともない可能性がある。

 自分の事にいっぱいいっぱいで、他人を拒絶していたら、きっと一人ボッチになってしまう……。


 そう考えられる様になると、今一緒に居てくれるグレンが有り難く思えてきた。


(グレンは有難い存在だよね。全く。あーそう言えば、グレンってどんなスキル貰ったんだろ? 聞いてみるかな)


「グレンも水の神に“記憶再生”スキルを貰ったの?」


「いや、僕が貰ったのは、“逆再生“スキルだった」


「逆再生?」


「うん。さっき試してたけど、僕の魔力だと、5秒時間を巻き戻すのが精一杯だった」


「時間に働きかけるスキルなのか」


「バトルに利用したら、かなり優位に立てるかもしれない」


 そう言ったグレンが浮かべたのは、少し自信を感じさせる笑顔だった。


(そんな表情も出来るのか)


 マリは頭に乗せられたままの彼の手を掴み、両手で握りしめる。


「マリさん?」


「変な生き物と合体したから、近くに居る人間の手を掴まないと気が済まなくなった」


「……マリさんて……ホント面白い人だね」


 カリュブディスに勝手に合体させられたのだから、適当な言い訳に使うくらい許されるだろう。


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