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勇者もどき追放作戦⑥

 城門から奥へと伸びる石畳の大通り。その両側には、若干傾いた家々が並ぶ。石を積み上げられただけの外壁の家はどれも、お世辞にも裕福だとは思えないのは、マリが今まで恵まれた生活をしてきたからだろうか?


「今日の夕刻までに、荷物を受け取りに来てもらえないかしら!?」


「あいよ! 必ず来ます!」


 道に立つ、うさぎの耳が生えた美しい女性に声をかけるのは、質素な家の窓から身を乗り出す耳が尖った女性。神聖な雰囲気すら感じるその容姿は絵本で見た、エルフという種族かもしれない。その他にも、道には大小様々な種族が入り混じり、そのバラエティーは人種のるつぼと言われるアメリカで暮らして来たマリの目で見ても、あまりに新鮮に写る。


「セバスちゃん……、凄いね。色んな種類の人間が居るって聞いてたけど、これ程までとは思わなかった」


「ええ……。それに、やたら美形が多いですな。外見によって性淘汰が行われてるんですかねぇ」


「さぁ?」


「マリ! セバスちゃん! 早く早く! 家に案内するよぅ~!」


 街の様子に見惚れているうちに、コルルから遅れてしまっていたらしい。彼女に呼ばれ、マリ達は早足で彼等に追いつく。

 ゴブリンから救出してくれた事へのお礼をしたいらしく(なんと、一応マリとセバスちゃんが、彼女の救出に尽力した事は分かってくれているらしい)、彼女の家に連れて行ってくれる事になっている。異世界の個人宅に行く事に、少しドキドキする。


「彼を紹介したら、母ちゃん喜んでくれるだろうなぁ! ずっとアタシの結婚の事心配してくれてたからさ」


「私とさほど変わらない歳に見えるのに、大変だね」


「アタシ達の種族は十四歳で成人して、だいたい二年間に子供を作るから、今年で十八歳のアタシは、行き遅れ気味なんだよぉ~!」


「大変そ……」


 マリは十六歳なので、獣人基準でいくと、結婚しててもおかしくない。でも今子供をもちたいかと言われると、NOとしか思えない。色々やりたい事があるのに、子育てに追われたくない。


「簡単にでも式を挙げるから、よかったらマリ達も来てね!」


 知り合ってから一日程度の人から結婚式に呼ばれるというのは、普通なんだろうか? と思いはするものの、アレックスからの連絡を待ったり、情報を集めている間に空き時間が出来るかもしれないので、適当に頷いておいた。


「暇だったら出てもいいよ」


「本当!? 嬉しいなぁ! アタシたくさんの人達に祝福されたいんだ! カッコイイ彼を自慢したいってのもあるけど!」


 キャッキャと楽しげに笑い、飛び跳ねる様に歩くコルルはあまりに無邪気だ。それだけに、彼女の隣を歩く少年の無表情っぷりがやばい……。


(アイツ、アタシの言う通り、コルルの“お願い”を聞いたわけだけど、平然として、何か企んでるんじゃないの……? 普通もっと感情が表に出る気がするんだけど!)


 何も考えていなそうというか、完全に『無』なのである。本当に婿になるという自覚があるのか疑問だ。でもまぁ、コルルと結婚してくれたら、もう彼と関わらなくて良くなる。彼の不気味さに狼狽える事は今後無くなるのだ。


「ここがアタシの家だよ!」


 コルルが指差すのは、かなり亀裂の入ったボロい家だった。彼女はドアを開け、「かーちゃん。ただいま~」と声をあげながら、中に入って行く。その後ろを追いかけると、猫耳の生えた中年女性がコルルの頭を撫でていた。


「母ちゃん! 私、漸く花婿を探し出せたよ! この人と明日結婚してもいいかな!?」


(明日!?)


「いいわよ」


(簡単にOK出てる!?)


 異世界の流儀は分からないものの、娘が連れて来た男をよく調べてから結婚を認めるかどうか決めるべきなんじゃないかと思ってしまう。簡単に認めてくれた方が、マリにとっては好都合だが、それでも何か釈然としない気持ちになる。


(なんだかなぁ……)


 彼等が話し終わるのを待つ事二十分。


 マリとセバスちゃんの事を完全に忘れてしまったのか、母娘で明日の式の段取りをひたすら話し続けている。ゴブリンから救出した事への礼をしたいと言われていたが、若干メンドくさくなってきた。礼を期待してるわけではないので、もういいだろう。


「セバスちゃん、街の中に行かない?」


「そうですね! 少々飽き……、街に興味がありますから!」


 言葉に気を遣ったセバスちゃんに感心する。可愛いグッズを好んでいても心は大人なのだ。


 二人で家を出ると、セバスちゃんが感慨深げに空を見上げた。


「これで066氏とはお別れなんですねぇ」


「もしかして寂しいとか?」


「まさか! かなり迷惑をかけられたので、それはないです。ただ、同じ世界出身の者の数奇な人生を目にして、恨みを買わない方がいいなと思ったんですよ」


「何それ。その言い方だと、私がアイツに酷い事したみたいじゃない」


「いや、そういう事ではなくてですね!」


「別にいいけど! それより、冒険者ギルドに行こう」




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