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000:レアカード

 この世界にはコレクターと呼ばれる人々がいる。

 一般人から彼らは理解されないことが多い。誰が見ても価値あるものならばそのような偏見はそれほどないだろう。素晴らしいものを手元に置きたいという考えは大多数の人間が持ち合わせる欲であるからだ。

 しかし、コレクターの中には用途不明のガラクタのようなものを集めたり、お菓子の付録であったり、空き缶などのよくわからないものを集める人もいる。


 俺もまだまだ未熟な身ではあるが、そのコレクターの一人なのだろうと思う。

 俺が集めているのはカード。コレクターとしては多分一般的な方だと思う。

 流行りのゲームカードであったり、古いクレジットカードあったり様々ではあるが、俺はどうやらカードというものが好きだったらしかった。


 なぜ集めようと思ったかはわからないが、ふとした時には既に数十枚のカードが手元にあった。それに気づいてからはどんどんと枚数を増やしている。


 カードであれば何でもいいわけではないが、レアなものであったり美しいものであったりすれば大体欲しくなってしまう。


 例えば今俺が持っているこのカードのように。


「ふふ、ふふふ」


 顔のニヤケが止まらない。まさか古ぼけた古書店で、こんなレアな遊技王のカードが投げ売り同然で売っているとは。かなり前の大会の一次突破で配布された千年原始人のウルトラレア、それがまさか2万円ぽっきりで売られていようとは。


 たまたま財布の中に2万円が入っていたのは運命としか言いようがない。

 大学に入学したての学生には些か痛い出費ではあるが、このカードが手に入るのならば全く惜しくはない。


「ふつくしい」


 多分今の俺は知人には見られたくない顔をしていると確信している。一歩間違えば怪しい薬をキメているように見られて通報されるかもしれない。

 だが、得てして人間とはそんなものではないだろうか。欲しいものが手に入ったのならばニマニマするのが人間というものだろう。


 財布の中には最早札はなく、小銭が幾らか入っているだけ。まぁ、今日は講義も終えているし、後は家へ帰るだけだ。家の近くの郵便局で一、二万ほど下ろしておけば問題ない。


 やっぱり遊技王のカードはモンストロカードが秀逸だ。魔法系カードも勿論カッコいいが、個人的にはモンストロカードの方が素晴らしいと感じる。あとモンストロカードの方がレアカードが多い。


「ん?」


 飽きずにカードを眺めながら信号待ちをしていると、凄まじいエンジン音が耳に入る。気になった俺は右側を見ると、そこにはなぜか速度を緩める気配のない黒塗りの高級車が走っていた。


 不幸なことに進路がこっちを向いている。運転手は、何があったのかハンドルに上半身を預けており、どう見ても意識がない。


「おいおい、まじかよ」


 急いで離れようとした時、隣に女の子がいることに気づく。その視線は右手に持っている携帯に注がれている。

 イヤホンで音楽を流しているのか、これほどの音にも関わらず車に気づいてない。到達までもう数秒もない。


 早く逃げないと間に合わない。

 でも俺が逃げれば彼女は。


 後方から車のエンジン音が迫る。もう間に合わない。俺は助かってくれと願って女の子を歩道へと突き飛ばす。


「ッ!」


 その瞬間、俺の身体を衝撃が駆け巡る。同時に脳内にこれまでの人生がフラッシュバックした。何の変哲もない人生。少しだけ人と違うのはカードを集めていたということ。ただそれだけだ。


 視界がブレる。地面が近づく。

 幸いなことは痛みがなかったということだけ。


 最後に視界に映ったのは俺の手から飛んで行った千年原始人のカードだった。

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