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カレーとハヤシは似ている

カレーとハヤシは似ている




 眼の前に、2つの皿が並ぶ。

 片方はカレーライスで、片方がハヤシライスだ。


「どっちがどっちか当てたらダッツあげる」


 母からの挑戦状だ。僕は口車に乗せられ、この並べられた2つの皿の内容を言い当てるという、超難易度のクイズに挑む事にした。




 カレーとハヤシは似ている。

 今このテーブルの上に並んでるのがそうなのだが、正直差が判らない。

 意図的に似せて作ってあるのか、色どころか輝きまで瓜二つだ。

 なんて無駄な事を!


 ともあれ、これを当てないとダッツにありつけない。


 問題を解くにあたって、ルールは2つ。

 1つは、回答するまで食べてはいけない。

 もう1つは、近くで匂いを嗅いではいけない。


 両方それをしたら直ぐ解るから当然だから仕方ない……けど、そのせいで差がさっぱり分からない。

 本当に違いがあるのか疑わしいほどだ。


 カレーの方はややスープカレーに近くしてあって、ハヤシライスの方はルーの濃さが濃い上に、グリンピースがしっかりと排除してあるせいで見た目に差がない。少なくとも僕にはまだ2つの差は判らない。


 距離もほんの少し離れているから、カレーの香りもすればハヤシライスの香りもする。

 だけど、それがどちらから香って来るのかまでの判断はつかない。

 よくもまぁこんな難問を用意したものだと、いっそ感心する。


 一度立ち上がって、別の角度や高さから皿を伺う。やっぱり違いは判らない。

 スプーンで少しすくってみても、とろみまでほぼ同じときた。


 騙されているのでは? と思って台所の三角コーナーを見ると、ちゃんとハヤシとカレーのルーのパッケージが捨ててあった。

 次に、鍋を見たら判るのでは? と思いコンロの上に並んだ鍋を見るものの、やはりというべきか見分けはつかない。

 だが、わざわざ別に作ってある以上、あそこに並んでいるのはハヤシとカレーであることは間違いなかった。




 再び席に着き頭をひねる。

 こうなれば見分け方が判明するまでひたすら粘るしかない。


 そんな事をしていると、「冷めると美味しくないから」と、制限時間を設けられた。

 残り1分。

 タイマーをセットされる。

 あぁ無情。


 時間制限が付いたことによって、頭がより動かなくなった。

 どっちだ! どっちだ!? とひたすら脳内でループする。


 目を見開いて盛り付けられた両者を見比べていると、タイマーが鳴った。

 あっという間だ。

 もう直感で答えるしかない。


「さぁ、どっちがどっちか判った?」

「……右! 右がカレー!」

「いいのね?」


 口ごもる。

 こう言われると弱い。

 なにせ本当に見分けがつかないのだ。勘で答えてる以上、揺すぶられると面白いように翻弄されてしまう。


「ひ……だりとか……?」

「さぁ……」


 今度はしらばっくれだした。

 こうなるともう反応を見て答えるというのも無理だ。

 最終的に直感を信じて、右を選ぶ。


「そう……」

「いや。そう……じゃなくて」

「食べてみて答え合わせしようか。お母さんは左ね」

「え、うん」


 スプーンですくって、食べやすい温度まで冷めたそれをいただく。

 味をみれば一瞬で判る。嵌められた。


「どう?」


 母がニヤニヤとこちらを見る。それもそのはず。


「混ざってるじゃんか!」


 そう。出されたのは言ってみればハヤシカレーだ。

 分からない筈だ。両者の特徴を併せ持っていたのだから、当てられる訳がない。

 いや、そのまま両方がそうだと答えれば的中していた。

 つまりダッツは無しだ。


 少しがっくりしながら、ハヤシ味の混ざるカレーを食べる。けど、これはこれで悪くない味だった。




 食後、食器を水にさらしていると、母が冷凍庫からダッツを取り出し、スプーンと一緒にテーブルに置く。


「面白かったからあげる」

「マジか!」


 さっさと食器を洗ってダッツを手に取ると、中からコロコロとした音が聞こえる。

 明らかにカップアイスが出していい音ではない。

 僕が眉を八の字にしていると、母がテーブルの向かえでケラケラと笑う。


 フタを開けると、中から出てきたのはアイスの実。

 用意されたスプーンはブラフだった。


「どこまでも手の込んだ事を!」


 やり場のない感情を握りこぶしに乗せてテーブルをぐりぐりとする。

 だが母は満足そうだった。

 これからもまだ手の平の上で踊らされそうだ。




 アイスの実はハヤシカレーの後ということもあり、実に美味しかった。




短編の予定でしたが、何故か次回作出来ました。

下のリンクからどうぞ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 感想返信への返信ができないのでこちらで… 『母によると、カレーの方はとろみをやや抑え、ハヤシライスの方はルーが濃い上に、グリンピースをしっかりと排除したそうで、見た目の差はほとんどない』 …
[気になる点] > カレーの方はややスープカレーに近くしてあって、ハヤシライスの方はルーの濃さが濃い上に、グリンピースがしっかりと排除してあるせいで見た目に差がない。 この時点では主人公の視点でどちら…
[良い点] サラリと読めて、面白かったです。 読者によく分かるように描写されていて凄いと思います。 最後までイタズラたっぷりで意表を突いてくるのも斬新で面白かったです。 [気になる点] 特にありません…
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