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第九十一話 人知れずストリートファイト~決戦の前に用意されていた思わぬ決戦開始!~

「何を言うのか貴様!大衆の穏やかな日常を守ることを仕事にしている者が、無辜の民を拘束して許されるものか!」

 警官からあらぬ疑いをかけられたこれぞうは怒りの一声を上げた。

(むむっ、感情的になったではないか。最近の若い者は普段は穏やか、しかし切れる時には徐々に段階を踏むではなく、一気に怒りのメーターが振りきると言う。昨今の危険な若者の感情の起伏を眼の前のヤツに見た)

 警官はこのような間違った考えを持っていた。そして、いつ相手の握るバットが飛んでくるか分からないので腰に帯びた警棒に手をかけた。

「三流の推理ショーに付き合ってはいられない。これから僕はコイツを持って一流の強敵を倒しにかからないといけないのだ」

「何と!そのバットを持ってか?」

(こいつは第二の犯行に走るというのか。次は分かりやすく敵対する不良の脳天でもかち割る気だな。何にせよ危険だと分かった以上、コイツは野放しにはできない)

 この警官の勤務態度は真面目であった。しかし頭の中はちょっとアレだ。

「く、高い壁を越えるために視点を上へ上へと向けすぎた。そのためにお留守になった足元はこうして罠にかかったというのか。良かろう、例え相手が地域を守護するお巡りさんと言えども、僕には僕のみの覇道がある。その上では条例でも法律でも跳ね除けて進むのみ」そう言うとこれぞうは、それまで道路を引きずっていたバットの先を浮かし、両手で握って竹刀のようにして構えた。

「何を分けの分からないことを。しかし尻尾を出したな。問い詰められた苛立ちから遂には強行突破に出るというのだな。この分島わけしま巡査、一介のチンピラに倒される程やわな腕は持っていない」

 警官はその名を分島と言った。分島は腰に帯びた警棒を引き抜いた。彼は棒術に長けている。

 普段は温厚なこれぞうだが、訳の分からない嫌疑をかけられ、そして倒すべき敵に再戦を挑む足止めをされたためかなり苛立っていた。

「このバットで打つは豪速球のみと決めていたが、まさかこのような面倒を構えることになるとはな」

「さぁ悪漢め、かかって来い。この分島の警棒が火を吹く所をとくと見るがよい!」

 二人共何だかノリノリだった。ここにはいなかったのだが、今の二人を第三者が見れば明らかに高揚していると分かる。

 これぞうは平和主義者だが、それとは別に時代劇のチャンバラを見ればすごくテンションが上がるお子様だった。そういうこともあって、この興奮状態になっていた。分島だって街が平和ならそれに越したことはないと想ってはいるが、訓練学校で鍛えた腕を路上で披露するとなれば、不謹慎ながらも心高ぶるものがあった。二人は共に節度ある男であったが、それでも心の奥底には間違いなく闘争心がくすぶっていた。互いにそれが目覚めたわけである。

 ついにこれぞうが踏み込む。

「どけい!僕の勝利を邪魔する者であれば、だいたいは押し退けて通る!」

 これぞうが「だいたい」と言ったのは、姉とみさき先生であれは話が別だったからだ。

 分島は腰を沈めて両足の踏ん張りを効かせた。そして彼が頭上に振り上げた警棒はこれぞうのバットを受け止めた。バットと警棒がぶつかり合う時には一筋の閃光が走ったように見えた。

「やるな同心!地域を守る者なら鍛えていて当然という訳か!」

「ふふ、チンピラに遅れを取るようで天下の警察が名のれるものか!」気合の一声と同時に、分島は腰のポーチから手錠を掴み、その片方をこれぞうの手首に向けて投げた。バットを握るこれぞうの片手に手錠がかかった。

「何!手錠だと!」

「しめたぞ!そちらから切り込みにかかるのを待っていた。もう逃げられんぞ」

 分島の手口は鮮やか。相手を挑発して接近させ、つば競り合いをする内に手錠をかけたのだ。

 二人の手と手は繋がれた。

 これで話は俄然分かりやすくなった。こうなればこれぞうが助かるには分島を倒すのみ、そして分島がこれぞうをとっ捕まえて引き上げるにはこの状態でこれぞうを倒すのみ。デスバトル開始である。


「面白い!よくぞここまでの覚悟を持ってデスゲームを仕掛けられたものだ!このこれぞうが認めよう、強敵の前の前菜と想っていたが、貴様も間違いなく第二の強敵!」これぞうは分島を強敵と認めた。興奮のためか口調が普段の彼のそれではない。

「貴様こそ!この状態で良く息巻くものだ。悪漢にしておくには勿体無い。これから行く少年院で更生した後には俺の下につくが良い」分島もまたこれぞうを認めた。そして就職先を勧めた。

 手錠で繋がれた状態で、これぞうは片手でバットを握り、第二手を仕掛ける。分島は警棒を用いてそれを受け止めた。

「どうした、息が上がっているぞ」

 分島は気づく、これぞうの息が上がっていることに。無理もない。これぞうはとにかく体力がない。勢いで突っ込んだものの、長期戦になれば現役の警官の体力についていけるはずがない。

 分島が警棒に力を込めると、これぞうは体を後ろに反らす。ここへ来てこれぞうが押し負けそうになってきた。

「ぬぬぅ!負けるものか!僕は倒れるわけにはいかない」

 12月の日暮れは早い。二人が出会って取っ組みあう間にも太陽はしっかり動き、今では夕陽が二人を照らしていた。


 ここは全国的に見ても犯罪率が低いため、警察に余計な仕事をさせないことで定評のある地とされている。そんな非常に平和な街がソニックオロチシティである。そのソニックオロチシティのとある街角で、まだ陽の残る内から少年と警官がストリートファイトをしている。こんなことは街の長い歴史の中でも滅多とないことであった。

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