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第八十九話 可能性しかなかった

 私にもあなたにもその他有象無象にもいるように、これぞうにもまた愛すべき祖父がいた。これぞうはこの祖父のことが大好きだった。尊敬していた。彼は、一足先に天へと移住を果たした祖父の言葉を思い出していた。


「これぞう、ワシが思うにこの世の人間は3タイプに分かれている。それというのが、やれば出来るヤツ、やらなくても出来るヤツ、そして何をやっても何もできないヤツ。人ってのはこの3つにあてはめることが出来る。ワシやあかりはやらなくても出来るヤツだ。そこへきてこれぞう、お前はこのタイプには入らない」

 これを言われると、これぞうはとても不安な気持ちになった。

「しかしだ、お前は無能じゃない。それはこのソニックオロチの大地と大空とワシの尊敬する祖父に誓って言えること。お前はやれば出来るヤツだ」

 これぞうは安心した。

「何をやっても何も出来ないヤツがその問題を解決する方法はない。自己の救済としてなら全てを諦めるっていうことが出来るだけだ。でもお前はやれば、自分で望んだことなら何でも出来る」

 これぞうはじっと祖父の目を見て話を聞いていた。

「正直言えば、お前はあかりよりも少しばかり出来が劣る。ワシやあかりのようなタイプの何でも出来るヤツと、何も出来ないタイプのヤツは自分の底が知れている点で共通している。そこへ来てこれぞう、お前というヤツは何から何までが出来るのか、このワシにも、他でもないお前にだって分かっていない。誰にも分からない可能性がお前には秘められている。それ即ち人生のお楽しみ要素と思わんか」

 これぞうはうんうんと首を縦に振って答えた。

「な?それだったらきたる明日を想っても楽しみになるだろう。何せお前は先が読めないからずっと続きを楽しみにしていられる。いいか、お前はワシや姉よりも本の少しばかり出来が劣るかもしれんが、完全にワシらよりも面白い人間だと言えるんだ」

 これぞうの目はキラキラしていた。

「ほほぅ、分かってきたな。ワシの孫は面白い人間なんだ。それは人生を楽しむ才能と言える。ワシだって人生を楽しんで来た。しかしこれぞう、お前はワシよりももっと人生を楽しく出来る。自信を持ちなさい。お前には一角の人間たるこの祖父が太鼓判を押したという、自信を持って良い確固たる証拠がある」

 生前、彼の祖父は訪れる死の足音を感じながらベッドの中でこんなことを言ったのであった。一際感覚が研ぎ澄まされていた彼の祖父は、己の死すら察知出来るまでになっていた。彼は熟考の末に孫に残す言葉はコレだと決めたのだ。


「カキン」「カキン」と金属音が響き渡る。そして次には「デデーン」という電子音が聞こえた。

「おお~!またまたホームラン賞だな」目を細めてこれぞうが言った。

 みさきの父に敗北してからというもの、これぞうは己を鍛えるために地元のバッティングセンターに通いつめていた。そしてかなりバッティングの腕を上げていた。

「お祖父さん、どうやら僕はスラッガーとして中々の才能があったみたいだ。バットを握るまで微塵も知らなかったよ」

 これぞうは受付へと足を運んだ。

「ホームラン出ました~」とこれぞうは元気に言う。

「また君かい、あんまり出されるとこっちはキツいんだけどな~」

 店主はそう言うと、吸っていたタバコを灰皿に落とし、読んでいた新聞を畳む。そして賞品を取り出す。

「はい、ホームラン賞」

 そう言って店主が出したのは缶詰。

「わ~いコレ美味しんだよね」

 これぞうはご機嫌に賞品を手にした。これは地元で生産された高級な缶詰。中身は桃と葡萄の二種類がある。今回これぞうは葡萄をお持ち替えりした。桃は前回頂いたことがあった。

「君、よく打つね。どこのチームの子だい?」

「いいえ、僕は独立スラッガー、チームには属していません」

「へぇ?じゃあまたどうしてそんなに打ち込んでいるんだい?」

「ええ、チームでの野球の試合はしませんが、ここで鍛えた腕は私闘に用いることになるのでね」

「へぇ~、また何というか、殊勝な心がけでいるんだね」

「はっは、まあね。ではまた。次は桃の方を頂いて帰りましょう」

 これぞうはバッティングセンターを後にした。

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