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第八話 五所瓦姉弟の愛の活動報告

 月曜日にみさきに告白し、そして弁当やお菓子をあげることで彼女の胃袋を掴むことに成功したこれぞうは、それからも連日彼女に愛を囁き、胃袋にはおいしいあれこれをお見舞いしてやった。そうして迎えた週末のことである。



 どうも、僕はこれぞう。現在恋にときめく高校生活を送っている。

 中学から高校に上がって来てここまで学校生活がクリアなものに変わるとは一体誰が予想できたであろう。高校だって中学の延長線上のつまらない日々が続くと想っていたのに、今の僕の生活は気ままな春風が運んできた美しい恋によって鮮やかに彩られている。この生活の変わりようを例えるなら、モノクロから総天然色、アナログから地デジ、ドット絵のレトロゲームから最新のVRゲームへってな具合だ。全く素晴らしい人生になったものである。

 そんな人生お楽しみ中の僕は、現在自宅の自室の机でノートパソコンをつついている。何をしているかと言うと、ネットで小金稼ぎをしているのだ。何せ今の僕の懐は、主に先生に食べてもらう料理をすることで出費が待ったなしと来ている。食材の買い物をしたことがない若者達は知らないかもしれないが、先生への差し入れに使う野菜や肉だって結構な値がするんだぜ。高校生が料理の材料を自分の小遣いで買うと、これが懐に結構な打撃だったわけなんだな。色恋の道を行くのは楽じゃないんだな。

 で、この僕がネットで何をしてるっかていうと、極簡単な活動にすぎない。一日の終わりにその手の業者から依頼される何かしらのアンケートに答えるとか、あとは簡単な文章を書いて買い取ってもらうということをしている。僕は平成の世となってはもはや絶滅危惧種と言っても過言でない文学青年ってやつに部類される男で、いつだって活字がたっぷり収められた何かしらの文学を読み耽っている。これはもはや中毒な気もする。一日のわずかな時間でも文字を目で追っていないと落ち着かないんだよね。それくらいのレベルで本を読んでいるんだ、だったら同級生よりはいくらか物を知り、読み書きに長けていて当然だろう。人の書いた文章をたくさん読んでいる間に、僕もまた文章を作って書く能力を得たのだ。それを活用して小金に結びつけているってワケ。どれもこれもラジオを聞きながらゆるりと行う作業ばかりだが、こんなのでも意外と金になるんだな。少なくとも高校生の小遣い程度になら十分な額がもらえるぜ。芸程でもないが、とりあえず何かしらの特技は身を助けてくれるってわけさ。それに料理のことだけでなく、今後先生との仲を深めていく上で経済的に余裕があって困ることはない。愛さえあれば良い、だけでは済まないのが恋愛道。


「これぞう!」


 ドンと音を立ててあかり姉さんが僕の部屋に入ってきた。


「これぞう、長い!あんたの一人語り長いのよ。お姉ちゃん入るタイミングが掴めなくて、部屋の前でちょっと待ったじゃない」

「姉さん、何だいその本来は表に出す必要なく、もしかしたら出してはいけない事情を話してさぁ。最近流行りのメタ認知っていう手法をやりたいのかい」 

「何を言ってるのあんたは!口を動かすワケでもないのにべらべら語って、手の方はカタカタとキーボードを打って、私、同じ音を継続的に聞いているとなんだかこう、暴れだしたいような気分になるのよ」


 姉さんはちょっと危ない性質を持ってるんだな。

 部屋に入ると姉さんはあたりを見回して腰かける場所を探す。姉さんの部屋ならベッドに腰掛ければ良いのだが、僕は姉さんと違って布団派なんでベッドは持っていない。


「はぁ……何でベッドじゃないのよ」

「おいおい姉さん、何を今さら。僕は3歳の頃からはっきりと布団が良いと言ってるはずだよ。ベッドじゃ寝られないよ。だいたいアレって床から離れてるじゃない。それが落ち着かないんだよね」


 姉さんは部屋の隅に畳んで置いている僕の布団の上に座った。


「で、あんた、この一週間あの先生とどうだったの?」

「ふふっ、僕は姉さんがケツアゴ男を書いている間にも恋の一手をしっかり打ち込んできたよ」  


 ここで僕はこの一週間を振り返って姉さんに詳しく話した。


「あんたがあんなに真面目に料理をするとは思わなかったけど、お姉ちゃんはあんたの味方だからまた味見してあげるね」

「姉さんはたくさん食べすぎだよ。味見なら僕で間に合ってるよ」


「ねぇその女教師ってそんなにいいの?」

「ああもちろんさ。先生はね、すっごい可愛んだ。僕の料理があの細い首を通っていくじゃないか、そして飲み込んだ時に首が動くだろ、その動きを見てもいとおしいねぇ」

「ふふっ、さすがこれぞう、マニアックに変態チックな点に目を付けているわね」

「目はパッチリしててね、小細工なんてなしの天然の睫毛が伸びてるのがよく分かるよ。普段は眼鏡をかけてるけど、眼鏡はアリでもナシでも見れる顔をしてるんだな。髪は長くて肩にかかるくらいなんだ。ポニテにしてる時もあるね。いや~ちょっと見惚れちゃう仕草があってね、ご飯を食べる時には長い髪を耳にかけて少し前かがみになるじゃない?あの時にはなんとも言えない幸福な気持ちになるよね」

「これぞう、あんた……先生のことメチャクチャ好きじゃない。その先生は愛され者ね」

「はっは、どうやら惚れ込んじゃってるみたいだね。まいったね」

 

 ここで姉さんは少し声を低くして話を続けた。


「で、どうなの?スタイルは?」

「スタイル……?」

「バカね、ボインなのかってことよ」

「姉さん、それって可憐な乙女が口にするには何だかおじさんぽくないかい?」

「いいからいいから、言いなさいよ」

「そうだなぁ…‥」

 

 ここで僕は入学式の日に桜の木の上から飛び降りて、先生の胸に頬を埋めたことを思い出した。


「やばっ、鼻血でそっ!」

「いやらしいなぁ、これぞう」

「僕だって男の子だからね。しかし姉さんの質問には答えねば。少女っぽい見た目で、結構着痩せする人なんだな。まぁまぁのボリュームだったよ。正直なところを言うと、姉さんよりもちょっと大きいと思う」

「……何ですって。……その女、出来るわね」


 こんな感じでこの晩は姉弟仲良く愛の活動報告に花を咲かせた。そしてそれが終わると僕はまたパソコンに向き直り、姉さんはケツアゴ男の落書きをしに部屋に帰っていった。

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