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第八十三話 ファザーVSストレンジャー~水野みさきの葛藤~

「まぁまぁお父さん、そう泣かなくても。塩は振っていないのですが、そうして塩分をお零しになると、図らずも塩鮭が出来上がってしまうではありませんか」

 父は娘の成長を知り、歓喜の涙を流している。

「ありがとう、そうだね五所瓦君」

「いやだなお父さん、これぞうで良いですよ」

「ああ、こいつは美味しく頂くよこれぞう君」

 みすずは笑ってこれを見ていたが、みさきはどうにも困った感じで二人を見ていた。


「今日は、仕事の方は情けないことに失敗してしまったけど、こうして水野家の皆さんと親交を深めることが出来てまったく良い日になりましたね」

「そうだねこれぞう君、どうだね君、一杯飲まないかい。みさきへの土産に清酒『毒蝮』を持ってきたんだ」

 そう言って父は清らかなる酒「毒蝮」の瓶を出す。この酒はみさきの実家があるポイズンマムシシティの特産品である。

「ははっ、なんだか実と名が矛盾したようなユニークな名前の酒ですね~」とこれぞうはヘラヘラしながら答える。

「しかしお父さんそれはダメだ。僕はまだ未成年。そしてこちらには僕の監督者である先生がいる。それを一滴でも口に含めば、僕は停学処分になりますよ。まぁそうなれば読みたい本が自宅で読み放題なので魅力的といえばそうなのですがね」

「ああこれはうっかりだ。君が学生にしては言動がしっかりしているのでついつい大人のコミュニケーションになっていたね」

「もうお父さんったら、これぞう君にお酒はないでしょ~」とみすずは笑いながら言う。

「お父さん、お飲みになるなら僕がお注ぎしましょう。家でも僕のお父さんに注いでるのでね。飲むはNGだが、注ぐに留まるなら問題ないでしょう」

「ダメよ五所瓦君」

 ここでみさきが口を挟む。

「お父さんに昼間からお酒を飲ませる訳には行きません。酔っぱらったらどうやって帰るの?」

「てへっ、みさきちゃんが怒るもんだからこれぞう君に注いでもらうのはまた今度になるね」


 四人はテーブルを囲んで鮭をつついた。酒の方はしまった。

「みさきちゃんは学校でよくやってるみたいだね」

「ええ、それはもちろん。生徒からは人気、お祭りでは泥棒をひっ捕らえて地域にも貢献していると来ています。これでよくやっていないと言うなら採点が厳しすぎますね」

「そうかそうか、みさきちゃんは良い先生をしているんだな」

「そうですとも、みさきちゃん……あっみさき先生は素晴らしいですとも」

 これぞうはみさきの父につられて「ちゃん」をつけて先生を呼んでしまったが、これはこれで良いなと想っていた。

「二人共、ちゃんづけは止めて欲しんだけど」とみさきは言った。

「あ、すみません。ついつい出てしまって……」とこれぞうは謝る。


 ここで父は鮭を食べ終わった。そしてゆっくりと次の言葉を言う。「ところでだ。恐らくみさきちゃんもみすずちゃんもお父さんは鈍感でそういうことには気づかないと想っていることだろうなぁ……」

 それを聞いたみさきはびくりとした。

「それと言うのがこれぞう君のこと。みさきちゃんは学校では多くの生徒から好かれている。これぞう君だってみさきちゃんが好きだろう」

 みさき父の言葉にこれぞうはすぐに答える。

「はい」

「そうだろうそうだろう。しかし、君の好きは多くの生徒が持つ好きとはまた別のものだ。私は恋だの愛だのといったことには敏感なのだよ。これぞう君がみさきちゃんを見る目、これはただの男からただの女に向けられる物ではない。間違いなくラブが込められた目線だ。これぞう君、君の好きは先生としてではなく、一人の女として好き。そうだな?」

「はい」

 これぞうはまたすぐに答えた。

 そして父はまだ問う。

「みさきちゃんを愛している」

「はい」

「結婚したい」

「はい」

「子作りだってしたい」

「はっ……それはまだ気が早いのでは?」

 これぞうはちょっと焦る。

「はいかいいえの二択のみで答えろと言ったら?」

「はい!」

 この後、5秒程場は無音となる。


「ふぅ……そうかそうか。これぞう君、君の第一印象は大変良いものだった。私は好きだよ。君を見ていると、若い時の私と似ているとさえ思う。私は自己愛も強い。自分と似た者はもれなく好きだよ。でも君は、そのなんというか……複雑な存在だ。軽く受け入れることはできない」

 父の物言いはシリアス。他の三人は緊張して父に目を向け、耳も傾けている。

「突然だが過去のことを明かしておこう。私の嫁は今でさえちょっとぷっくらしているが、若い時には今のみさきとそっくりだったよ。私はそんな嫁を愛した。そして君も私が選んだ女とそっくりな女を愛した。私達が似ている証拠はここにもある。女の趣味も一緒ときているからね」

 これぞうはみさきの父を見てごくりとつばを飲み込む。珍しく彼も緊張している。しかしそんな時に少しだけ目線を下に向けると、鮭を汚く食べ残してる父の皿が見えた。これぞうは思う、食べ方が汚いと。真面目な話をしても魚の食べ方がアレなので、これぞうの緊張が少し緩んだ。

「娘を奪おうというなら、君とは仲良くできんね。君のことは好きだ、だか君は私の敵だね。愛って感情はいつだって複雑だ。好きな相手であっても、時と場合によっては敵に回すことになるのだから」

 滔々(とうとう)と語る父を前にこれぞうもみさきも正座したまま一言も喋らなかった。

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