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第八十話 快適、引っ越し、第二の城

 遂に12月に入ったある休日のことである。

 いつまでも龍王院家に居候しているわけにはいかないと想っていたみさきは、遂に新たな住まいを見つけ、そこに引っ越すのであった。

 その日の朝、みさきはまだ何も家具が置かれていないとあるアパートの一室にいた。ワンルームの簡素な部屋であるが、前のボロアパートよりは四半世紀は作りが新しくて丈夫。日当たりも良好で、前よりも学校に近く、そして買い物をするにも良い立地条件であった。加えて彼女の大好きなお飲み焼き屋「大ひっくり返し8号店」にも近しい場所ときている。みさき的には大変満足な物件であった。

 日当たりの良い部屋でみさきが伸びをしていると、表にトラックが止まった。

「あっ、来たみたい」

 みさきは階段を降りて引っ越し屋を迎える。この引っ越し屋は龍王院グループの子会社の一つであった。みさきを大変気に入っている桂子が手配したものであり、料金は向こう持ちでみさきの懐は何も痛むことは無かった。こういう時にはブルジョワとの付き合いはお得だと思える。

「今日はお願いします」

 みさきは引っ越し屋の従業員三人に挨拶した。

 この引っ越し屋「引っ越しのドラゴンテンダネス」では、従業員同士をニックネームで呼びがちという伝統があった。三人の内、見るからにデカイ大男は見た目通り「ボス」とあだ名された。現場のリーダーである。次の彼は、中肉中背よりもやや筋肉質といった見た目で「イケさん」と呼ばれていた。「さん」まで含めてが彼のニックネームである。そして最後の一人は三人中一番体つきがひょろっこい。彼は「ファイブ」と呼ばれていた。

「ん……?」

 みさきは三人の従業員と対面し、ちょっと不思議に想った。三人目なのに「ファイブ」とあだ名された男を見てのことである。

「あなた……まさか?」

 みさきはファイブに向かって言った。

「僕がまさか、何だというのです?もしやあなたの愛しい人の面影を見たとか?」

 ファイブは帽子を深くかぶって顔がはっきりとは見えない。そんな中、軽薄な口調でそんなことをほざいた。このふざけた感じはやっぱりあいつだ。みさきの中で答えが出た。

「五所瓦君ね……?」

 この一言を聞くと、ファイブこと我らが愛すべき主人公五所瓦これぞうは脱帽して返す。

「そう!紛れもなく、あなたがご指名された五所瓦これぞうです!」

「指名してません」

 いい加減みさきの方でもこの男の扱いに慣れ、切り返しもこんな感じで簡単に行うようになっていた。

「なんだファイブ、お前の知り合いか?」とボスが言う。

「ええ、ボス。ここではあなたが僕のボス。そしてこちらは学校での僕のボスといったところですね」

「つまりファイブの先生ってことだな?」とイケさんが言う。

「正解ですよイケさん」

 この日、これぞうは急にここの会社のアルバイトを行うことになった。何でそんなことになったか、順を追って説明しよう。

 引越し先を見つけたみさきは、まずはお世話になっている龍王院家にそこのところを説明した。次に桂子からその話が五所瓦家へと流れた。するとここであかりが「これぞうも引っ越しを手伝えば?」と思いつき発言をした。姉の勧めを受けた弟はこれにすぐに頷いた。そこからは桂子が手を回してこれぞうを1日雇いでこのチームに入れたのだ。みさきへのサプライズということで、みさきには一切を伏せていた。

「というわけです先生。今日は先生の素晴らしき人生の新たなスタートを、この五所瓦これぞうがエスコートしますぞ。ふふ……」

 今日もこれぞうはテンション高く、そしてちょっとキモい。

「ははぁ、よろしくね……」

 みさきは思う。変な奴が派遣されたものだと。

「よし、皆、取り掛かろうぜ!水野さん、荷物の置き場とかの指示は遠慮なくお願いします」

「はい、わかりましたボスさん」

「へへ、さんはいいですよ」

 強面のボスとしても、おっさんの引っ越しを手伝うより、どうせならうら若き御婦人を担当する方がやりがいがあると想っていた。

「イケさん、ファイブ。トラックの中の物、じゃんじゃん運んじまえ」

「了解!」イケさんとファイブは元気よく答えた。

「ふふっ、ファイブね」とみさきは笑っていた。

 ちなみにこれは五所瓦これぞう人生初のアルバイトであった。この時みさきはこれぞうが来たことに驚いて気づいていなかったが、これぞうの通う大蛇おろち高校ではアルバイトが禁止されていた。これぞうはそもそも校則なんて知らなかったし、知ったところでそれに捕らわれる人間ではなかった。

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