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第七十六話 素敵な休日~メイドと過ごすうららかな午後~

 その日は1日良く晴れた日だった。ごく一部を除けば誰にとっても休日である日曜日の午後、みさきはソニックオロチシティのとあるカフェに来ていた。

 彼女が椅子に座り、その前には白色の丸テーブルがある。みさきの向かいの席にもまた人が腰掛けていた。それが我らが愛すべき主人公これぞうであれば良かったのだが、まさか教師と休日にランデブーともいかないのでこの人物はこれぞうではなかった。

 みさきはストローでミルクセーキを吸い込み、喉を潤すと話し始める「本当に久しぶりねドニー」

 そう、休日に彼女がカフェで会っていたのはドニーであった。

「その呼ばれ方は久しぶりですねみさき」

 ドニーは微笑みながらアイスコーヒーを飲む。

「あっやっぱり。ドニーっていつもそうやって、笑ってるのかどうかはっきりしない感じでクスリとするのよね」

「そうですか、みさき程ニコニコするのには慣れないのですよ」

 説明しておこう。ドニーは本名を土上どのうえと言い、性別は女性である。みさきと土上は高校の同級生、お互いが社会人になって少し落ち着いたので、久しぶりに会ってみることにしたのだ。

「みさきは相変わらずですね。そうしていつでも甘い物が好きで、ちゃんとすればもっとよく見えるのに、まるで男性のようにラフな格好をするのですね」

 今日のみさきは、上は白いパーカーで下はGパンだった。男の子でも同じ格好をしている者がいそうな格好であった。

「動きやすい方がいいからね。しかし格好と言えばドにー……あなたこそ、どうしたというのそれ?」

 土上の服装がどんなだったかというと、びっくりなことにメイド服であった。

「ええ、先程研修会があったので、その帰りです」

「……メイドさんの?」

「ええ、そうです」

「へぇ、ドニーがメイドさんになったとは聞いていたけど、見るまでは信じられなかったわ……でも良く似合っているね」

「丁度求人が出ていましたし、前職の経験が大いに生きるので良いと思いました」

「ドニーの前職ってあれだよね、何か自衛隊的な……」

「そうですね。軍に入って色々やっていましたね。軍から身を退いても、詳しいことは他所では喋ってはいけないのですがね」

「ははっ、ドニーが高校を出てそっちに行った時は本当にビックリしたよ」

「私としてはあの時、みさきにも一緒に来ることを強く推薦したのですよね」

「うん、そうだね。あれ本気だったんだね」

「ええ、高校時代に私が唯一勝てなかった相手であるみさきと共に訓練を受けるならそれはきっと充実すると想ったのです」

「ははっ、昔のことよ。訓練を受けたドニーには勝てる訳ないよ」

「謙遜するのですね。あなたの体を見れば特に衰えは感じませんね。少し胸が大きくなったくらいでしょうか。そういえば、みさきが一本背負投で泥棒を捕まえたというニュースを聞きましたね」

「ははっ、あれもたまたま。他の人達の協力もあったからね」

 土上は高校の頃から武道家として一流の腕をもっていた。そしてそれはみさきも同じ。二人は剣道も柔道

も嗜んでいた。土上は公式戦はもちろん、不良に絡まれての野良合戦を含んだ武道に捕らわれない「戦闘」というくくりで負け無しであった。そんな彼女が唯一倒せなかったのがみさきである。みさきは丸腰でも得物を手にしても強かった。それは努力によるものよりも才能が勝っての結果であった。

「みさき、こんな格好をしていてもあなたと渡りあった日々を想うと少し冷静さを失いそうになります」

 クールな土上にも戦士たる感覚がある。強い者を前にすれば気分が高揚するのは仕方のないことだ。

「やめてよねドニー、今の私は高校教師、そして陸上部の顧問をしてるのだから」

「そうですか、勿体ない。あなたなら何かの種目で金メダルでも取れるでしょうに。狭い学校にみさきを閉閉じ込めて置くのはやはり勿体ない。どうですみさき、よかったらあなたもウチで働けば」

「ちょっと待ってよ。教師が勿体なくてメイドは何で良いのよ」

「ふふつ、そうでしたね」

 みさきは甘いミルクセーキを飲み終えた。


「さて、私が学校を出てからでも会おうと想ったのはあなた以外にいないので、当然こういう場で誰かと会うのが初めてです。それでですが、こういう場合には月並みな会話として、仕事のこととかを聞くものでしょうかね」

「ふふっ、ドニーってそういう所変わらないね。さらっと寂しいこと言って。でもドニーが会いたいって想ってくれたのは嬉しいよ」

「私もあなたのニコニコ顔を見るのに悪い気分はしません」

「もう、何でそういう言い方するかな。良い気分じゃないの?」

「良い気分ですよ」

 二人は妙な関係だが、とにかく仲良しである。孤高な戦士土上が心を開くのはみさきくらいであった。それはみさきの強さを認めたことがきっかけだが、それを除いてもみさきの寛大さにはアウトローな連中をも惹き付けるものがあった。これぞうが良い例だ。

「学校の仕事は楽しいみたいですね」

「うん、学校は好きだったし、先生として通っても楽しめるところだよ」

「あなたのような先生だと、さぞ生徒に好かれるでしょう」

「さぁ、嫌われてはないと想うけどね」

 本当のところを言うとみさきは学校では大人気である。

「それよりドニーのことだよ。前職の事は聞けないにしても、今の仕事ってどんな感じなの?メイドさんの話なんて聞いたことないわ」

「ええ、ポイズンマムシシティのとあるお宅でお世話になっています。掃除をして料理をしてというのが基本ですね。その他には、お家で使う何かしらの物資の補充をまかされています。広いお家なのでやることには事欠かないです」

「ねえ、前に聞いた時にはその……お家に男の子がいるとかって……」

 みさきはそこのところを言いづらそうにしながらも聞いてみた。

「ええ、高校一年生の坊っちゃんがいます」

「大丈夫なの?そんな歳の子ってその……好きなんじゃないのメイドさんとか」

 土上はまた微妙にクスリとしてみせた。

「ええ大丈夫です。とても良い坊っちゃんですよ」

「そうなんだ。良かった~」

 土上は3秒程黙ってみさきの目を覗く、そして次の話題を始める。

「もう一つ、こうして会って話す月並みな話題と言えば……みさき、あなた、恋愛の方はどうですか」

「ええっ!」

 急にそれが来るとは思わないみさきはかなり驚いた。

「どうしたのですか、そんな慌てて」

 土上の目が笑っている。

「考えればあなたこそ思春期の子供達を相手にする現場にいるではないですか。好奇の目で見られて当然といえるでしょう。まさか生徒から言い寄られるなんてことはありませんよね」

 土上は勘が鋭い。

「えっと……それは……」

 当たっている。事実、学校勤務がスタートして1日目で男子生徒と体の接触があり、惚れられてしまった。それから数日後に告白までされた。みさきはこういう時に咄嗟に嘘をついたり誤魔化すことが出来ない。これぞうならこんな場合でも息をするがごとく適当なホラをこいたろうに。

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