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第七十五話 祭りの後の祭り

 これぞうの携帯電話ガラケーが鳴った。

「はいもしもし。どうしたんだい姉さん?」

 電話の相手は彼の姉あかりであった。

「どうしたもこうしたもないわよ!」

「ええ、何だって?どうしたかこうしたかせめてどちらかかに決めてくれよ」とこれぞうは訳の分からない返しをする。

「ところで姉さん、後ろが随分賑やかだけど一体またどこにいるんだい?ディスコか何かで踊ってるのかい?」

「何を言ってるのよ。あんたの学校よ。今は皆で文化祭の打ち上げをしてるところよ。あんたこそどこにいるのよ?」

「えっ、僕はこれから図書館に行こうと想って例の大通りを今渡るところさ」

「じゃあ、回れ右でも左でもどっちでもいいから方向転換して学校に戻りなさい」

「え、それはどうしてさ?」

「どうしたもこうしたもないわよ!」

 話が元に戻った。

「まったく……今日の演劇を作った男でしょあんたは。それが打ち上げにいないんじゃ場が締まらないじゃないのよ。というか17時から打ち上げをするって言ったじゃない、何勝手に帰ってんのよ」

「ははっ、姉さん知ってるだろ。学校にはギリギリに行き、終わればすぐに帰る。高校に上がってからはそこのところがちょっと変わってくる日もあったけど、基本的に僕はそれで動いてる男だよ」

「いいからすぐに学校に戻りなさい。こういうのには参加するの!」

「はい姉さん、すぐに戻ります」

 これぞうは基本的に姉の言うことは良く聞く。


 そして数分後、これぞうは自分の教室に戻ってきた。クラスメイト全員と担任の田村、そしてあかりと桂子も教室にいた。皆は机を合わせて菓子を食ったりジュースを飲んだりしていた。

「ただいま戻りました」

 これぞうは急いだのでうっすら汗をかいていた。

「五所瓦、これまた遅れて登場だな。ささ、今日の主役じゃないか、一つ挨拶をしてくれよ」

 文化祭実行委員の久松がこれぞうを迎え入れた。

「はぁはぁ、ちょっと待って、息を整えないと……」

「まったくだらしないぞ、これぞう」と姉のあかりが言う。

「姉さんに桂子ちゃんまで、何でいるのさ」

「まぁまぁこれぞう、あなたは現代のシェイクスピアじゃない。シェイクスピアらしくびしっと挨拶をしなさい」と桂子は言う。

「ふぅ、ではシェイクスピアらしく挨拶を一つ、短めにね」

 皆がこれぞうに注目する。

「皆さん今日はお疲れ様。今回僕は光栄にもこのクラス演劇の台本を手がけるという役を担った。二階から見ていたけど大変素晴らしい演技でした。こうして僕なんかが偉そうに一人挨拶をしているが、何も僕は自分が特別すごい仕事をしたとは想っていない。僕が本を書いた所でキャストがいなきゃ、裏方がいなきゃ、あれはただの文字の羅列が続く紙に過ぎなかった。小説家は一人で書いて本にすればそれで良い、しかし劇作家はそうはいかない。僕が書いたのは劇作、これに関しては演じてくれる人、舞台を作る人がいないと意味を成さなさい。よって、今回は皆一人一人が劇を作るための重要な役を担った主役と言ってよいと想う。僕は僕で役を全うした、それなりに苦労もしたと想う、しかしそれはお互い様。僕はここにいる皆それぞれに平等にお疲れ様を言いたい。ありがとう、今日は皆が主役だったよ。では、乾杯するなり菓子に舌鼓を打つなりして皆楽しんでくれたまえ」

 そこまで言うと、これぞうは静かに教壇を降りて椅子に座り、皆と同じ目線になった。

 遅れて皆が拍手を送った。

 皆笑顔だった。中にはどういう訳か感動して泣いてる生徒もいた。

「五所瓦、お前政治家みたいな挨拶をするじゃないか」

 久松は喜びながらそう言った。

「五所瓦君のおかげで良い文化祭になったよ」と松野が声をかけた。

「いやいや、松野さんがヒロインみちよを演じてくれたからこそだよ。想えば僕が実際として知っている女子高生は姉さんと桂子ちゃんを除けば君だけだった。等身大の女子高生のカオス感、これに関しては材料は君だけだったから、みちよを描く時には松野さんの情報を色々と参考にさせてもらったよ」

「ええ、それはまた……」

 そんなことがあったのかと知った松野は、自分がこれぞうに観察されていたと想うと恥ずかしくなり、顔を赤くした。

 お菓子は担任の田村が用意した。

「先生、お菓子の趣味がおじん臭いわよ。煎餅でしょ、おかきでしょ、柿ピーでしょ、そしてとどめは粟おこしでしょ。いや確かに美味しいし私は大好きよ。でももっとこう西洋感というか、まぁ早い話がチョコが欲しいってことよね」とあかりは堂々とクレームを入れる。

「むむっ、最近の若いのはこういうのじゃないのかい?」と田村は言う。

「ふふっ、田村のおじん趣味は相変わらずね。まぁ私達のように舌がアダルトな者たちは良いけど、ここにいるのは15のお子ちゃまばかりなのよ。この子達にはちょっと甘さが物足りないでしょう」と桂子も偉そうに言う。この二人は去年田村のクラスにいたのだ。

「龍王院、先生をつけなさい」と田村は言う。

 気まぐれお嬢様の龍王院桂子は、基本的に他人を呼び捨てにする。

「ふふっ、まぁこんなこともあろうと想って、こっちで良いものを用意したわ」と言うと桂子はパンパンと手を打った。すると教室のドアが開いた。ドアを開けたのは桂子の使用人甲本である。

「は~い、皆さんじゃんじゃん持ってきてくださいね~」

 甲本が合図を出すと業者連中が次々に高級な菓子を持ってきた。

 教室の生徒たちは歓声を上げていた。

「はいはい、菓子の次はコレね。これぞう的に言うと、甲殻類ヨーコアールキーね」と桂子が言うと、なんと龍王院グループで用意したタラバガニが持ち込まれた。

「おいおい、龍王院、蟹なんてどうするんだ。ここでは火は使えないぞ」と田村が言う。

「ふふっ、大丈夫よ。ほらアレ、IHヒーターだから。火じゃなくて電気よ」

「ほほぅ、あれが最近流行りのIHか~」田村は珍しがって見ていた。

「それでは皆さん、遠慮なく蟹でも菓子でも召し上がってください。今日はお疲れ様」

 皆は想っていた。これぞうと親しくし、田村に生意気な口を聞く二人の美女は一体何者なのかと。しかし齢15の少年少女はとかく腹ペコになりがちなもの。そんな謎は一旦置いといて、今は目の前のご馳走を食うに集中するのみなのであった。

 

 その後も賑やかに打ち上げが行われた。

「嬉しそうだな五所瓦」と田村はあかりに言う。

「ええ、あの子がこうしてクラスに馴染んでいるのは何だか新鮮でね」

「田村、これからも私のこれぞうをよろしく頼むわ」と桂子が偉そうに言う。

「はっは、五所瓦弟の方は完全に変わり者だが、お前達のように暴れたりはしない大人しい奴だから手がかからんで良いよ」田村はご機嫌にそう言った。

 作中において既に語ったことだが、あかりと桂子はこれまでに大きな問題を二つ起こしている。その始末として方々に謝りに周る面倒は田村が被ったのであった。

「ふふっ、そんなこともあったわね」とあかりは笑う。

「ええ、何もかも皆懐かしいわ」と桂子も笑う。

「おいおい、ちょっと前のことだろうが」と田村も笑う。

 色々あっても過ぎてしまえば笑い話になる。こんな具合で、当時の面倒が後の笑い話になれば人生きっと楽しいのである。


 そしてこれぞうは想う。ここにみさきもいれば良いのだが、と。みさきは二年の担任なのでこっちにはこれないのであった。

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