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第七十四話 君達に送られるブラボー

 演劇が終わり幕が降りた。会場には盛大な拍手が起きた。そんな中カーテンコールが始まる。

 この劇の本を書き、そして劇の照明も担当したこれぞうは体育館二階で照明を操っていた。

「ブラボー、どこの国の言葉かは知らないが、ただブラボー」と言いながらこれぞうは舞台に上がるキャスト達に拍手を送っていた。

 観客席では桂子がスタンディングオベーションを行っている。

「知られざる傑作ここにあり!メインのななこはもちろん、その他の名に数字を持つキャスト達も素晴らしい演技をしたわ。ななこ、今日のあなたは日本のヘップバーン、いえテイラー、やっぱりピックフォードかしら」

「桂子、どの女優も古すぎるでしょ。もっと最近ので例えなよ」とあかりがツッコむ。

「あら、私はクラシックしか見ないから最近の人は分からないわ」

 拍手は鳴り止まない。

「甲本、アレを」と桂子が言うと、実は近くの席に控えていた甲本が桂子の手にバラの花束を渡した。桂子はそれを舞台の上に投げた。

「なにそれ、観劇のマナーとかなの?」とあかりが問う。

「さぁね、劇なんてそれほどたくさん見に行ったことがないからよく知らないわ。ただ、私がこれぞうの作ったあの劇団に花を送りたかったからそうしただけのことよ」

 気分のままに我道を行く、それが桂子の生き方である。


 そしてカーテンコールも終わり、やがて観客達は体育館を後にする。

 あかりと桂子はしばらく椅子に座ったままであった。

「う~ん、しかしねぇ、これは何というかこれぞうらしく謎な作品でもあるわね」とあかりが言った。

「ええ、これぞうらしい奥の深い世界観だったわ。全体として作品を覆った物はずばり謎。最初から最後まで物語には謎が付きまとうわ。しかしそれを劇中において丸っと教えることをしないのがこれぞうらしい憎いところね。その謎の部分に、これぞうは何かしらの深きメッセージを組み込んでいるのよ。それは、見た者自らで感じて欲しいからこそ、あえて明らかにはせずに終劇を迎えることになってるのよ」

 桂子はこれぞうの世界観に感動し、すっかり評論家モードに入っている。

「この場合では、主人公が謎の世界に引きずり込まれて謎に立ち向かう。その世界にはそれをそもそも謎だとも気づかない内に生活している鈍感な人がいるわ。これはつまり、当たり前の日常の中にもきっと謎は潜んでいて、それを解き明かすことで人は、そして広くこの世界は良くなっていくと言ってるのだと想うわ。そしてそんな異端にして革新的なことをする人物はいつだって感じやすい若者、そこでこれぞうは最も感じやすい生物である女を、中でも最も感じやすい時期である高校時代を選んだのね。深いわぁ~」

 桂子の語りはまだ続く。

「そしてタイトル通り女子高生ってのは常に渾沌としたもの。今日は髪を茶色にし、明日には金色にしたりもする。昨日言ったことが明日には覆り、今日の趣味は明日のオワコンにもしてしまう。そう、女子高校生ってのは何でもありな頭をしているからこそ、何をやっても不思議無し。主人公のみちよが急に王の妥当を思い付いたカオス展開がまさにそうとも言えるわね。カオスな世界にはカオスたる生物女子高校生が最もふさわしいの。私達だってちょっと前までは女子高校生をやってたのだから、あなたにだって心当たりがあるでしょ?」と桂子はあかりに話を振る。

「えっ、ええ……まぁね。確かにあんたは次の瞬間に何をしでかすか分からない女だと想うわ。それはセーラー服を脱ぎ捨てた今となっても同じよ」

「ふふ、でしょ?」


「おい、五所瓦。お前の姉さん達、いつまであそこでうるさく話しているんだ?」

 体育館二階で照明の片付けを行っていた久松には一階席でうるさくやってる二人が良く見えていた。

「ふむふむ、桂子ちゃんの解釈は正解と言っていいだろう。彼女は作品のメッセージ性がよく見えている。まぁそれだけではないのだがね」

 これぞうは従姉妹の熱心な評論にご満悦であった。

「五所瓦、お前も余韻に浸ってないで片付けを手伝えよ」

「おっとそうだったね。演劇ってのは舞台やその周りの片付けが済むまでの時間も含むってね」と言いながらこれぞうは手を動かした。


「さぁ、バックステージに出向いて、これぞうとななことその他に激励の一言でも送ってやろうじゃない」と言って桂子はあかりの手を引くのであった。

「あんたはまたズケズケと……」とあかりは言った。

 

 体育館二階で片付けをしていたのはこれぞう達だけではなく、教師であるみさきも一緒に作業を行っていた。

「あっ、五所瓦君。素敵な演劇だったわね」

「いえいえみさき先生、あんなものではブロードウェイには立てませんよ」

 謙遜は言葉だけでこれぞうの態度はいつも通りやや偉そうなものであった。

「ええ、でも五所瓦君らしさが出ていて良かったと想うわ」

「と言うと?」

「えっとね……一見訳の分からない話だけど、その中に深いメッセージ性が盛り込まれているって感じの筋はいかにも君が考えそうなアイデアじゃない?何というか、当たり前の中に捕らわれて考えることを止めると、そこから先は進化どころか退化の一途をた辿る的なことを言ってるのだと想うの」

「お見事、そういうことも確かに言いたいところでした。みさき先生はやはり聡明、文武両道を実践された方だ」

「ははっ、そんな大したものじゃないわ。観劇なんてのは滅多にしたことがないし、ちゃんと劇を見たのなんて随分久しぶりだわ」

「ああ、あの演劇の本は、先生が我が家を出ていった次の日の晩に一気に書き上げたのです。失意の中でも、いやそんな中だからこそ筆が進むなんて作家もいるみたいですからね。どうやら僕もそっちの口だったようです」

「ちょっと、それは大きい声で言ってはダメよ」

「へへっ、そうでしたね。まぁ桂子ちゃんの所が嫌になったらいつでも来てください。お父さんは仕事関係で酒を飲む時には男女共に中年ばかりでうんざりしていると言ってまして、そこへ来て先生を見たものですから、あれからというもの若い娘さんとビールを飲みたいものだってそればかり言うのですよ」

「はは……お酒はあんまり飲まないからね」


「あかり、ちょっと見なさい。これぞうったらみさきを相手にするといつまでもデレデレするのね。ちょっと妬けちゃうわね」

 桂子は一階からこれぞうを見ていた。

「確かにね。ああしてお姉ちゃん離れするのは寂しくもあるけど、あの子のあんな顔を見るのは悪い気分じゃないわ」

 二人はこれぞうを優しく見守ったのであった。

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