第六十八話 そして幕が開く
文化祭の台本が決まり、これぞう達のクラスでは上映に向けて各々が動き出した。
これぞうは自らメガホンを取って演技指導を行った。彼は自分の世界観を確立していてため、役を演じる者がどう演技すればよいか、この時登場人物は何を想ってこんな行動を取ったのかなどの質問を受けても、それら全てに懇切丁寧に答えることが出来た。この演劇は全くのフィクション、しかしこれぞうに質問すると、登場人物のことはまるで友人か家族の話でもするかのように詳しく答え、街などの世界観設定を尋ねても実際に行って見てきたかのごとく詳しく答えるのだ。これを受け、クラスメイト達も登場人物になりきることで、これぞうの頭の中にしかないはずの世界観を共有することが可能となったのだ。
今のこれぞうのクラスは、もはや心をひとつにした一劇団。演じる者達も舞台を作る裏方達も皆が皆してこの劇を完成させることを青春の一目標としていた。この状態で事に臨んでクソみたいな出し物になるはずがない。
最後の通し稽古を終えた時、これぞうは一人拍手しながら「君達は学生のお遊びを越えた。これは金を取っても良いレベルだ」と偉そうな態度で偉そうな一言を漏らしたという。
そんな訳で準備は上々、後は本番を待つのみ。そして、日本人が文化について考えるのにうってつけの日である11月3日、つまりは文化の日がやって来た。この日の午前11時、これぞう達のクラスがお届けするセンセーショナルな演劇『女子高生は渾沌がお好き』が上映されるのであった。
「あ~緊張するじゃない。何せ弟の晴れ舞台。これぞうの作った劇をこれだけ多くの人が見るのよ。ウチの弟は平成のシェイクスピアになるかもしれないわ!」と言うのはこれぞうの姉のあかりである。
「ふふっ、あかりったらはしたないわね。私達のこれぞうの芝居よ。きっと感動の嵐を呼ぶはず」と言うのはこれぞうの従姉妹の桂子である。
二人はこれぞうの芝居を見るために母校の体育館に出向いていた。この二人は昨年までこの学校に在籍していた問題児にして人気者。彼女らを知る二年と三年の生徒がつきまとってくるのを先程やっと払い除けたところであった。
「主役はななちゃんがやるんだって。そこも見どころね。しかしねぇ……ぷぷっ、このパンフレットに書かれてるの笑っちゃう」
「あなたも気づいたようねあかり」
二人は体育館入り口で配られたパンフレットを見て笑っていた。そしてあかりも桂子も松野を下の名前で呼ぶようになっていた。
【以下、パンフレット記載内容。】
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『女子高生は渾沌がお好き』
配役
みちよ・・・松野ななこ
河童・・・一ノ瀬たろう
ヘクソン・・・二宮えいきち
下地法師・・・三ノ輪ミッシェル
電磁九郎・・・四谷よしのぶ
脚本
監督
演技指導 ・・・五所瓦これぞう
キャスティング
照明
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「ねぇ、これ見て。ななちゃんの下、皆名前に一から五までの数字がついてる。よく一クラスにこれだけ集まったわね」
あかりは面白い点に気づいた。
「ふふっ、さすがこれぞうね。可愛いななこに加えてこれだけの精鋭を揃えるとは。ああ、それにしても、ななこもここで舞台デビューね。これぞうがシェイクスピアなら、ななこは今宵オフィーリアになるのかしら」松野を大変気に入っている桂子が行言った。
「あんたねぇ、ななちゃんがオフィーリアなら途中で死んじゃうてことでしょ。それに今は昼よ」
「あらそうだったかしら。ハムレットの中身なんてほとんど忘れちゃってるわ」
二人がおしゃべりをしている間に上映時間が来た。
遂に舞台の幕が上がる。




