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第六十七話 産声を上げる名作

 我らが主人公これぞうの集中力はすごい。とかく注意散漫になりがちな若い世代において、彼ときたら一つのことに集中するともうそれだけになってしまう。試験勉強なんかを一夜漬けでだらだら続ける若者も少なくはないだろう。しかしこれぞうが言うには「一夜漬けるならキュウリだけにしな」とのであった。彼のように短期間集中型でことを行えば、一夜漬けのようなだらだらと働きのないことはしなくともよいのだ。何をやるにも短い時間でかかり、且つ高精度を誇ればそれが一番。これぞうはそれが出来る男である。だからこそ彼は本の虫となって数多の書物を熟読してきた。ある程度の集中力がないと本なんてものは読めない。そして書けない。彼はかつて友人久松に自分は本を読めても書けないとはっきり言った。しかし彼が書けないと言ったことについては確たる証拠がなかった。なぜかと言うと、彼は本を書こうと想ったことがなかったからだ。

 本を書くならまずは読めないといけない。これぞうはその段階は既にクリアしていた。そしてこれまで知らなかっただけでいざ本を書いてみれば、なんと書けたのであった。


 次の日の朝のことである。これぞうの友人久松はまたこれぞうに「よう五所瓦調子はどうだい?」と尋ねた。

「ああ、相変わらずの~」

「快便快眠なのは分かっているからな。それじゃなくて本のことだ」

 会話の途中で久松は既視感を覚えたが、よくよく考えるとこれは昨日と同じやりとりであり、既視感ではなく現実としてあった過去だとはっきり思いだした。なのでこれぞうが喋っている途中で言葉を遮った。

「ふふっ、学習する男だね君は。それならホラ、ここに」と言ってこれぞうは出来上がった本を鞄から取り出し、久松に渡した。

「え、昨日は確かに大作は一日にして成らずとか言ってたが、このスピードとは……マジか……」

「ふふ、確かに大作は一日にして成らず。でも、二日目以降はどうなるか分からないってね。大作を産むなら24時間と1秒が最速さ」

「それも、お前オリジナルの格言か?」

「そうそう、今思いついたやつ。でも、長い歴史の中のどこかで誰かがきっと言ってるさ」

「よし、授業は授業で受けないといけない。こいつは昼休みにしっかり読ませてもらう」と言うと久松は台本をしまった。

「君は学徒然とした良い心がけをしているね」

 これぞうはみさきが家を出ていった後の最初の1日のみで台本を完成させた。以前から構成はなんとなしに頭の中にあったので、あとは文字に起こすのみであった。


 そして昼休み。久松は台本を読み終えた。

「俺は確かに刺激的且つ革新的なオリジナルストーリーをという発注をかけた……」

「ああ、君の発注は間違いなくソレだだったね」

「俺は五所瓦と違って本なんてのは読まないし、テレビや舞台でも芝居を見ることがほとんどない。だからこれが面白いのかそうでないのかは判然としない。ただ、発注通りの条件を満たした出来だとは思う。事実俺は刺激をもらい、革新的な何かを感じている。そしてこんな話はよそで聞いたことがない。オリジナルってのもクリアしている」

「じゃあこれでいいかい?」

「ああ、なんだか分からないがこれでイケる気がする。何というか、五所瓦らしさが滲み出ているじゃないか」

「決まりだね」と言うとこれぞうは手を差し出す。

「ああ、これで行こう!」

 久松は力強くこれぞうと握手した。

「五所瓦これぞう作オリジナルストーリー『女子高生は渾沌カオスがお好き』、今年の文化祭はこの芝居が良くも悪くも話題をかっさらう!」

「ふふっ、そうあってほしいものだね」

 その日のこれぞうは朝から常にしたり顔でいた。

「よし、明日だ。明日の学活の時間にはこれを全員に配る。役も決めて、衣装もさっさと作って本番に備えよう」

「あとは君の仕事だ。頑張りたまえ。君の真っ直ぐな情熱にならきっと皆ついてくる」

「どうでも良いけど、お前まるで先生ポジでものを言ってるなぁ……」

「ふふっ、勘違いしてくれるな。僕も君もその他有象無象も揃って学徒さ。先生だって?そんな高尚な立ち位置の人間じゃないさ」

「いや、分かってるんだけど……」

  

 斯くして文化祭の演劇の台本は完成した。作品名は『女子高生は渾沌カオスがお好き』。その内容がいかほどのものなのかは、まだこれぞうと久松しか知らない。

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