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第六十四話 色々あっても挫けず頑張る社会人女性を私は応援します

 社会人ともなれば、台風が来たって出勤しないといけないことがある。子供の頃には台風が来れば学校がお休みなんてこともあった。あれで嬉しいのは子供だけであって大概の大人は台風でも関係なく仕事をしているものである。そして、台風が来たわけでもないのに家を失ったみさきだって、家がないままに次の日には普通に出勤しないといけない。世の中は言うほど厳しくもなければ言う程甘くもない。これはこれぞうの祖父が生前に孫たちによく言った言葉の一つである。

 そんなわけで、そこそこに厳しい社会人生活歩むみさきはいつも通り始業時刻にはきっちり職場に到着していたのである。彼女のような頑張る女性を応援することを忘れてはいけない。


「ちょっと水野先生、聞きましたよ。下宿先が大変なことになって、とても住める状態ではないと」

 朝の職員室でみさきに声をかけてきたのは、いつかこれぞうが「狸」と例えた腹の出た校長である。

「ええ、昨日は大変でした。でもなんとか無事です」

「あなた、昨日はどうされたのです?あんな時間に家が無くなったのですから一晩をどこですごされたのですか?」

「うっ!」

 まずいことを聞かれて思わず「うっ!」が出てしまったみさき、しかしなるたけボリュームを抑えての「うっ」だったので、耳の遠い校長には気づかれていないようだ。

「ええ、こっちにいる知り合いに頼んで泊めてもらいました。ご心配をおかけしました」

 知り合いというのがこれぞうということを伏せてみさきは切り替えした。

「そうですか。それはよかった。いえね、私が家のことを知ったのは今朝のことでね。水野先生がまさか野宿するような危ない目にあってはいないかと気になっていたのですよ。しかしこれはどうしたものか……ことがことなので同僚として知らぬ顔は出来ないところですが、これまで学校の教師で、そして私の全知り合いの中で、家の屋根が落ちて住処が無くなったなんてことがある者は一人たりともいません。どうバックアップしたものか……」

「いえ、校長先生が気を揉むことはありません。大丈夫です。知り合いの所に厄介になっているので……次の下宿先は休みの日にでも探します」

「そうですか……あ、とりあえずあれを!」と言うと校長は自分の机まで走り、またみさきの所に返ってくる。腹が出ているオッサンにしては動けるほうだ。

「はぁはぁ、この煎餅とビスケットを、それから駅前スーパーの商品券5千円分です。不幸なことでしたが、どうか挫けず元気に学校に来て下さい。あなたを慕っている子供達は多い。特にあの子とかね」と言って校長が指差した先は職員室の入り口、そしてそこにいたのはやっぱりこれぞう。

「みさき先生!お弁当をお忘れですよ。まったくうっかりさんだな~。ではここに置いておくのでね。授業に遅れると田村先生がうるさいので僕はこれで、では!」

 誰にも口を挟む隙を与えず、言いたいことを言い、やりたいことをやると、これぞうはさっさと職員室を出ていった。相変わらずマイペースで我が道を行くこれぞうであった。

「はっは、あの子はいつも元気ですね。あんな風にして弁当を渡すなんて、まるで一緒に住んでいる弟が忘れ物を届けにきたようではないですか。はっは~」

 校長がたまたま言ったワードは、今のみさきにはビクッとするものであった。

 言えない。家を失った先に男子生徒の家に上がり込んでいることなど口が裂けたら別だが、そうならない限りは絶対に言えない。そんなことが周りに知れたらきっと楽しい噂が立つ。

 確かに昨晩を野宿でやり過ごすなんて考えられないことだった。受け入れ先をどうこう言っている余裕はなかった。であっても、男子生徒の家はやはりまずかった。今更ながらみさきは自分の判断はあれで良かったのかと考え始めた。これはすぐにでも次の住処を探さないといけないと本気で思い始めた。しかし、今朝のように朝飯が用意されていることは本当に助かることであり、そしておいしかったと心から想ったのもまた真実。そして今目の前には昼飯も届けられている。これぞうの家にいて良いことも確かにあった。それだけにこれぞうの世話になったことをまずいと思うのが申し訳なかった。

 そんな感じで心に複雑なものを抱え、大変困った状態になったみさきだが、彼女は社会人であり、生徒の模範たる教師でもある。仕事にプライベートのあれこれを持ち込むことはせず、チャイムがなればプロとしてしっかり仕事をするのであった。

 彼女のこういうところは皆見習った方が良いぜ。

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