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第六十話 沼、沼、これぞうを襲うは沼

「あっ!みさき先生じゃないですか。どうしたのですこんなところで?」

「え?何々?メロンは好きかですって?それはもう~、叶うのならば三度の飯それぞれの食後のデザートに付けてほしいくらいですよ~」

「うん?それくらいたくさんあるって?その量はまるで沼のよう?」

「ふっふ~、でしたら是非とも頂きものですな~」

「え!スプーンであ~んして食べさせてあげる?失敬な、僕は赤ん坊ではありません!」

「……え、マジなんですか。だったら……口をあ~んするので、是非ここの所に美味しいメロンを放りこんで欲しいな。では、あ~ん」

「んん、もぐもぐ……先生があ~んして食べさせてくれたメロン、それがこんなに、こんなにおい…し…い?」

「あれ、おかしいなぁ、美味しくない。いや、もしかするとこれ、不味いのでは……」

「ああっ!遅れて来る!圧倒的な不味さが遅れて来る!」

「先生、ああ、先生がくれるものを食べないわけには、しかしコレは……」

「ああ!やっぱり不味い!不味い!メロンが不味い!!」


 これぞうは、しばしの沈黙から目を覚ました。

「うごぉお!まずっ!!何じゃこりゃ!僕は今沼を飲んだのか!おぇ~」

 これぞうは謎のメロン攻めの夢から覚め、今は元気に「おえおえ」言ってる。

「ああ、良かった五所瓦君」

「うむ?みさき先生!夢の中でも、そして目が冷めても先生の顔が見られるなんて、これは良きこと。しかし今は口の中が!」

 その時これぞうはみさきが手に持っているものを見た。それは欲しくもないのにみさきが自動販売機のおまけで当てた謎ジュース「沼メロン」であった。

「そうかぁ!それを僕に飲ませたのかぁ!」

「ああ、倒れて意識が戻らないから、これを飲めば回復するかもと想って」

「でしたらその案で正解ですね。僕は元気です。ただ何だこの味!」

 そこでこれぞうはバス停のベンチに置いてあるもうひとつのジュース「ピュアピュアザクロ」を目にした。そして、さっきまで自分はあのベンチに座っていたのに、なぜ今は数メートル離れた地面に転がっていたのかと謎に想った。その謎は置いといて、とにかくこれぞうは「ピュアピュアザクロ」目掛けて走り、みさきが残した分を全て一気に飲み干した。なんとかして「沼メロン」の不味さを流したかったのだ。

「ぷはぁ~、こっちもまず~。しかしさっきのよりはずっとマシだ。何だこれは、大きな大人が真面目に開発した商品がこんな出来なのか」

 これぞうはどっちのジュースも気に入らなかった。

「あっ、それは……」

「やや、先生のでしたか!これはすまないことを、何せその沼メロンがクソ不味いので舌が不快な味を記憶しない内に他の味を流しこんで情報の更新を図ったわけのなですよハイ」

 これは世に言う間接キッスであった。相手が自分のことを好き好き言ってくるこれぞうだと思うと、みさきは何か複雑な感じがして少し頬を赤らめた。しかし今は夜でここは照明少き場末の地、よってこれぞうはみさきの変化には気づかなかった。

「先生申し訳ない。これは弁償しますよ。丁度ポッケに100円が……ああ、今時100円ではジュースなんか……」と言いながらこれぞうはバス停の自動販売機を見た。

「なんと!全て100円でお釣りが出るぞ!まぁ確かに先程のジュース二本には100円の価値もない」

 今日のこれぞうはいつもよりも辛口だ。それから先にみさきが試したがこの自動販売機はお釣りがでない。

「いやいや!いらないから本当に!」

 みさきは心からジュースのおかわりをいらないと想ったので正直に口にした。

「そうですか、しかし僕はどうしてまた気を失ってあんな不味い沼を飲まされることになったのだ?」

 はっきり「沼」と酷評しながらこれぞうは謎に迫った。

「あの……それは」

 みさきは詳しいことを話した。


「なるほど、先生の蹴りを……」

 これぞうは今更ながらみさきの身体能力の高さを恐ろしいと感じた。

「まぁそれは仕方ないとしてですね。こんな仕置のような想い出も、いつかは笑い話になりますよ。はっは~」

 もうなっていたようである。

「それで先生、聞きましたよ。家がとんでもないことになって住処に困っているのでしょ。もう夜だ、早く僕の家に急ぎましょう」

「え、五所瓦君の家に!」

「ええ、皆大好き五所瓦の家にですよ」

 みさきは「何が?」と思った後に話し始める。「確かに私は宿無しの身ですけど、でも生徒の家に上がるのは……」

「先生、何も僕の家には僕だけが住んでいるのではありません。言いたいことは分かります。妙齢の婦女子が男の家に上がりこんで一夜を共にするとは何事か!って話ですよね。安心してください。姉さんも親もいますし、家には空き部屋があります。何も僕と同衾しろとは……へへっ、まぁ、それがお望みというならやぶさかでもない……」

 話の途中で楽しい妄想が始まり、これぞうの顔がにやけている。

「五所瓦君!」

「ああ!すみません、今のは違うのですよ。という訳で部屋があるので、宿屋の感覚で使えばいいのですよ。生徒がどうとかこうとか言ってる時じゃないですよ。明日も学校はあり、先生は出勤しないといけない。先生をこんなところに置いて風邪を引かれて学校をお休みされたら大変だ。先生は明日にも非行に走るかもしれない若者の衝動を抑制する役を担っている稀有なお方だ。この街の平和を考えると、先生には元気で学校に来てもらわないと困ります」

 みさきは思う。私はそこまで重要な役を担っているのかと。

 これぞうはみさきの荷物を持って歩き始める。

「先生、とにかく急ぎましょう。早く帰って寝てもらって明日も元気に学校に来てもらわないと。土下座したって夜明けは時間をずらしてはくれませんよ」

「ちょっと、五所瓦君」

「とにかく歩きましょう。こんな所にいては寒いですよ」

 これぞうにしては強引。とにかくみさきを家まで引っ張っていくしかないと想い、これぞうはみさきが何を言っても家に連れて帰るつもりでいた。それを受けて、仕方なくみさきはこれぞうの後について歩き始めた。

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