第五十一話 ホントのホントんとこを語るお喋りなこれぞうの目
あかりの部屋を出たこれぞうは、そのままの勢いで家をも飛び出した。そして向かった先はまたみさきの部屋である。これぞうの好きな言葉であり生き様でもあるのが「即断即決」であった。彼はあかりと話す内に何かを即座に決めたようだ。
みさきの部屋に到着したこれぞうはすかさずピンポンを鳴らす。
「はい、あっ、五所瓦君。今度はまたどうしたの?」
「たっちゃんをお願いします!」
これぞうは基本的に声がデカい。彼はたくさん言葉を知り、良く話す少年ではあるが、その年齢にしては個人行動が多いため集団での会話をそれ程頻繁に行わない。よって対人における会話ボリュームがどのくらいであれば丁度良いのかを感覚として把握出来ていない。表で自分を呼ぶ声が聞こえたのでたっちゃんは玄関まで出てきた。
「やぁ、また君かい五所瓦君」
「たっちゃん、ちょっと時間いいかい。顔を貸してもらいたい」
この時、たっちゃんはこれぞうの目を見て、これぞうが只ならぬ決心でもしているのかのように想えた。
「ああ、かまわないよ」
そして二人は階段へ向かう。
「ちょっと、どこへ行くの?」
さすがにただならぬ雰囲気を発するこれぞうが気にかかってみさきは声をかけた。
「先生、そうお時間は取らせませんから少しの間彼を貸して頂きたい。何、必ず五体満足で返すことを約束します」
「え、でもたっちゃんは」とみさきがまだ言い終わらない内にたっちゃんが口を開く。「さーちゃん、いいから。すぐ戻る、待っててよ」
そうして二人は階段を降りて行った。これぞうが先導してたっちゃんを連れ出した場所はみさきのアパートから歩いて5分程の所にある丘であった。あたりは緑が広がり、特に何もない。遠くには街の中心部が見える。
「やや、これは気持ちい場所だね。風も空気も気持ち良いなぁ」たっちゃんは両手を上に伸ばして新鮮な空気を味わっている。
「ここは見晴らしが良い。みさき先生の家に来た時に見つけたスポットでね、今じゃ僕のお気に入りの場所となってるのさ」
「それで、僕を呼び出して何の話があるんだい?」
たっちゃんは本題にするっと入って行こうとした。
「たっちゃん、君は結婚するんだね?」
これぞうも言いたいことはすぐに言う。
「……ああ、するさ」
「そうか、やはり君は……」ここまで言うとこれぞうは両の拳をグッと握った。「続けて問おう、君は相手を真剣に愛し、幸せにする覚悟があって結婚するんだな」
たっちゃんはこれぞうの目をしっかり見つめて答える。「ああ、間違いなくその覚悟がある」
「そうか、ならば僕がすることは一つだ」そう言うとこれぞうは拳を固く握りしめ、たっちゃんに歩み寄る。これぞうは両手を大きく上げた。それにたっちゃんは一瞬驚いた。そしてこれぞうの両手はたっちゃんの両肩を掴んだ。
「おめでとう!」喉の奥から絞り出した言葉であった。これぞうは目から涙が零れそうなのを歯を食いしばって耐えていた。
「おめでとうたっちゃん。僕は、僕はね……僕があの人を幸せにしてあげることが出来たらよかったのだが、僕よりもたっちゃんがその役に適してして、それがあの人にとって一番幸せになる道なら、僕は悲しみの涙を飲んでもそれを祝おう」
「……それで、悲しみを抱えた君はどうするんだい?」たっちゃんは、顔を地面に向けたままのこれぞうに対して言った。
「僕は……僕はここを去る。転校する。あの人の幸せはもちろん祝福する。しかし、こうなってしまった以上、毎日学校であの人と顔を合わすなんて僕には耐えられない」
「そうか……それは確かに悲しいなぁ……しかし五所瓦君、僕のお嫁さんは学校にはいないよ。だって彼女は看護師をしているのだから」
「はぁ?」これぞうは思わずたっちゃんの顔を覗き込んだ。「え、だってたっちゃん、君、みさき先生と結婚するんじゃなかったかね?みさき先生が好きなんじゃ?」
「う~ん、そりゃね、確かにさーちゃんのことは好きだったよ。初恋だったかもしれない。しかしそりゃ子供の時のことさ。今はホラこの人がすぐにも僕の妻にもなる人さ」そう言ってたっちゃんはスマホをこれぞうに見せた。画面には若く綺麗なこれぞうが全く知らない女性が写っていた。
「な、たっちゃんこれは!本当に看護師と結婚するんだね!」
「はっは~五所瓦君、君は僕とさーちゃんが結婚すると勘違いしたんだね~!はっは~」
たっちゃんは高笑いしていた。
「なにさ、だったらさっきまでの思わせぶりな感じは何だったのさ」これぞうはプンプンして言った。
「いやぁね、君が誤解していることは早い段階で気づいていたよ。でもちょっと興味があって話を合わすことにしたんだ」
「たっちゃん、それは人が悪いよ~」
「はっは~ごめんごめん」
そして次はたっちゃんがこれぞうの両肩に手を置く。
「でも、これで分かったよ。五所瓦君、いや、これぞう君。君はさーちゃんのことだ好きだ。それもマジで」
「う……ふふ、見抜かれたかい」
「ああ、君のマジな気持ちは確かに見抜いた。あんなに情熱的な目と物言い、あれを見ればバカでも分かる」
たっちゃんが真剣に話している。これにはこれぞうも照れてしまった。
「そ、そうだったかい……僕は考えが表に出やすいと姉さんによく言われるんだ」
場の緊張感が一気に解れ、二人は笑いあった。
「はっは~、これぞう君、僕とさーちゃんとは同じ歳の従兄弟の関係なんだ。実家が近いから小さい頃はよく一緒に遊んだよ。小学校も中学校も一緒だった」
「ああ!だからみさき先生の昔話をしていたのか!」
「そうさ。今度僕は結婚するだんけどね。ここからは情けない話なのだが、お嫁さんの方には式の招待状は僕の方で出すからって良い格好をしたんだけど、肝心な友人達の住所が分かるものがないし、それに招待状って紙に何を書くんだろうという謎に陥ってね。そこで頼りになるのが人より物を多く知るさーちゃんだろ。結婚報告の挨拶も兼ねてさーちゃんの家に遊びに行き、招待状を作るのも手伝ってもらったってわけさ。で、本当は昨日の内にそれを終えて帰る予定だったんだ。でも、さーちゃんの部屋に懐かしいテレビゲーム機があるじゃないか、あれをちょっとばかし二人で遊んでいたら盛り上がって、気づいたら終電を逃してそのまま泊まって今日に至るってわけ」
たっちゃんはこんな間抜けな調子で全てを喋った。
「懐かしのテレビゲーム機!そっそれは先日僕が置いて帰ってそのままのアレじゃないか!ああ、今回のそもそもの原因が僕のゲーム機にあったのか。ああ、これは恥ずい!それにしても君、いくら従兄弟同士といっても嫁入り前の女性の家に男が泊まるのは問題じゃないか!みさき先生と一つ屋根の下で、一晩とか、へへっ、尋常でいられないだろう!」
途中で明らかになやけ笑いを交えてこれぞうは言い終えた。
「う~む、そりゃさーちゃんは可愛いし、あの体だからな。男としてまったくの鈍感に徹することは出来ない。けれど僕には愛する嫁がいるからね。そこの所は安心、それを信用してさーちゃんも泊めてくれたわけだよ。というか何を言わせるんだ君は」
「君こそ何を言ってるんだ!」
これぞうとたっちゃん、掴みどころのない男二人は意外にも息が合っているのであった。




