第五十話 迷って悩んで乗り越えて、それが人生の醍醐味
「ちょっと待てい!何やら話を妙な方向に持っていこうと画策しているようだが、どっこい僕は騙されない、話を戻すと貴様は誰なんだ!」
これぞうは簡単には騙されない。
「みさき先生を本当はどうしたのだ!まさかあれか、先生を、その、淫らな、つまりはスッポンポンにして部屋の奥に拘束しているとかじゃないのか!」
「まさか~僕がさーちゃんを拘束するだなんて。彼女の方が鍛えているからそんなことをしようとすれば返り討ちだよ。いつかだって悪漢相手に大立ち回りして倒しちゃったってニュースになったくらいじゃないか」
「おっと、そうだった。僕のみさき先生が貴様なんかに負けるはずがない」
では益々この男は何なのだ。これぞうの脳内は謎が謎を呼びこむ状態となり、一つも出ていくことがない。
そこへ階段を上がってくる足音がした。
階段を上がってきたのはみさきであった。
「あっ、さーちゃん」
男はともかくとして、これぞうまで声を合わせてそう言った。
「五所瓦君!なんで君が?というか先生をさーちゃん呼ばわりとは何ですか」
「ややっ、こりゃ失敬」
男と話している間にさーちゃんの相性がしっくりきてしまっていた。
「おかえりさーちゃん。さーちゃんがちびっ子に人気なのは昔から変わらないね、昔から野球をしよう、テレビゲームをしようと男女問わずちびっ子人気がすごかったものね。まさか学校の先生になっても生徒から遊ぼうなんて言われるのかい?」
男は極めてのんきに話し続ける。
「何!先生の幼き頃の情報!それは是非聞きたいところである」
これぞうはみさきのことなら何だって知りたいのであった。
「たっちゃん!昔のことは言わないの、ほら家に入って!」と言うとみさきはたっちゃんと呼ばれる謎の男を家に押し込む。
「五所瓦君、今日は帰って。たっちゃんとは結婚のことで忙しいから」
「ヌゥ!!」
これぞうは結婚というワードを聞いて「ヌゥ!!」を言った。本作でコレが出るのは二度目のこと。彼は驚いた時にこれを言うのである。そして扉は閉められた。
「結婚、みさき先生が、たっちゃんと!……てか誰だ、だっちゃんて」
これぞうは頭を抱えて悩んでいる。これぞうだって判断力に長ける切れ者、それが頭を抱えるレベルの悩みとなると次に出る行動はこうである。
「これはこんな所で悩んでいる場合じゃない。この問題はまず姉さんの元に持っていこう。この世のだいたいの問題は姉さんが片付けてくれるからな」
そしてこれぞうは、体力がない割には休憩の回数を少なくして家まで駆けた。
「姉さん!いるのか!姉さん!」
これぞうはあかりの部屋に雪崩込んだ。
「いるわよ、うるさいわね」と答えたあかりはまた机に向かって例のケツアゴ男の落書きをしていた。しかも今日は野球の試合をしている様を描いている。ピッチャーもキャッチャーも皆漏れなくアゴが割れていた。
「姉さん!野球どころじゃないぞ!」
「またあんたはノックを忘れて、はいはいそこ座って、落ちついて話しなさい」
あかりは姉弟が相談する時の定位置であるベッドを指差した。そして姉弟はいつものように二人並んでベッドの腰掛ける。これぞうは今日あったことを話した。
「これぞう、まずは一回やろうと想った衣替えを途中で投げたのは良くないわ。そして次ね」
あかりは一つため息をする。
「そのたっちゃんてのとみさき先生が結婚するって?それについては私も前からちょっと考えてたのよ」
「考えていたとは何を?」
「みさき先生ってあんなに可愛いじゃない。肌も綺麗でおっぱいも大きい。普通に考えて男にモテないわけがないのよ。あんたのことを想うとなかなか確認できないことだったのだけど、恋人がいて何の不思議もないわ」
「あぉ、確かにそこの確認はしたことがない……僕の申し出を受け入れないのはそのことがあったからなのかぁ……たっちゃんめ!羨ましいぞ!」
「これぞう!落ち着きなさい」
「ああ、すまない姉さん」
「これぞう、真面目に聞いてね」そう言うとあかりはこれぞうの目を見つめこれぞうの両手を握った。
「みさき先生は学校の先生、対してあんたは生徒。これだけでもう普通の恋よりハンデがあるの。おまけにみさき先生はあれだけ上物なのだからはっきり言って攻略は容易じゃない。私は相手が誰であろうが弟の恋を否定することはしない、できないわ」
「姉さん、何を……?」
「でもね、今一度考えてみてはどう?みさき先生だけが女じゃないわ。否定しないと言っても、結婚するならそれはもう諦めるしかないわ」
「先生を諦める!僕がかい?」
「これぞう、恋は戦いよ。戦いってのは終われば勝者と敗者が生まれるわ。時には敗北を認めた方が楽よ」
「姉さん……」
これぞうにはいつになく姉がマジに見えた。
「そう。ということで松野さんに乗り換えるなんてのもありじゃない?みさき先生も可愛いけど、松野さんが妹になるのも捨てがたいわぁ~。あの子もすごい可愛いから~って……これぞう」
あかりが松野への乗り換えを提案した時には、あかりの隣にこれぞうはいなかった。ショックで部屋を出ていったようであった。
「これぞう、あんたは迷って悩んでってのを経験してなさすぎるわ。お姉ちゃんにすぐに頼らず一人で事を成すのもあんたの成長に繋がるわ」
弟想いの優しい姉は、弟が出ていったまま開きっぱなしにの部屋の扉をみながらそう言ったのであった。




