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第四十七話 カリスマが説く人生講座

 その日、これぞうは二日ぶりに実家に帰った。普通、高校生が二日も家を留守にすれば親にこってり絞られて当然と言えよう。しかし五所瓦家ではそういうことはなく、これぞうは普通にいつもの自宅生活に戻った。五所瓦家は皆大らかである。

 そしてその日の晩、体育祭の疲れを風呂ですっかり流し終えたこれぞうは姉のあかりの部屋に訪れた。

「で、これぞう、体育祭の結果はどうだったの?」とあかりがこれぞうに問う。姉弟は二日ぶりの対面を果たすが、そんなことは無かったように毎日顔を合わせている感覚で話を進める。

「ああ、それなら僕らのチームはドベもドベ、完敗だよ。僕としても出場した種目では勝利を掴むことはできなかったな」

「うんうん、それからみさき先生とはどうなったの?」

「どうもなりはしないよ。姉さんが、僕が勝ったらデートがどうとかこうとか言ってたけど、結果的に言うと僕は何も勝ってないのだから……話はそれで終わりさ」

「そう、あんたは勝てなかったのね」

「ところで、勝つとはこの場合に具体的に何をどうすれば勝ちだったのだろうか。姉さんに焚きつけられたままにトレーニングを行い、全てを薙ぎ払う勢いで参加したが、考えると僕は何と戦って勝利しようとしていたのだろう」

「ふふ、それよこれぞう。私が気づかせたかったのはズバリそれ!」あかりは椅子から立ち上がり、床に座ったこれぞうの前で仁王立ちになる。そしてドヤ顔もしてそんなことを言った。

「何と戦い、何をもってして勝利とするか、それを見つけることが人生の醍醐味じゃなくて?」

「ああ、そうか姉さん。僕はハナから体育祭が下らないお祭りと決めてかかって、不真面目な態度でいた。しかし参加してこそ得ることができる意義というものがある。姉さんはそれを伝えたかったのか」

「そうよこれぞう。学校ってのはバカが運営している組織じゃないわ。勝敗がはっきり決まる種目を多数用意した今回の体育祭という行事、これはね、勝利すること、また敗北することに何の意義も見いだせないヌルい連中を覚醒させる機会なのよ。別に命を取る戦争だけが戦いじゃないわ。戦いの規模も概念も人それぞれよ。ただね、鈍感になった脳に人生のどこかで誰もが己との戦いをしていく、それを心に刻ませるのが体育祭の、いえ学校という機関の役割なのよ。あんたが狭い監獄と比喩しているあそこは、まさに社会の縮図なの。それを見下してバカにして逃げているような奴は皆三流に及ばない連中よ。今回あんたは体育祭に参加し、勝負の世界から人生の意義を見出したでしょ。それすなわち人生における脱皮。おめでとうこれぞう。あんたはもう一段階上のステージにあがったのよ」言い終えるとあかりは右手を差し出す。これぞうはあかりの右手を両手で握る。

「ありがとう姉さん。姉さんの言うことを聞いていなかったら、僕はただただ堕落を極めていく、年寄り的に言う『最近の若者は~』に含まれる駄目な若者になるところだったよ」

「ふふ、あんたは鈍感だけど言えば分かる子、そう信じてたわ」

 五所瓦姉弟は今日も熱い議論で盛り上がっている。

「まぁ私なんてあそこで生徒会長をしていたんだから、学校のことなら丸ごと良く知ってるのよ。何でも

やってみることよ。高校生なんてのは所詮バカに毛が生えたようなものなのだから、やる意味がどうこうなんて考えても分かりっこない、うだうだ考える前にとりあえずやればいいの。その経験が後で役立つこともあるわ。大人はあんた達よりは多くのことを知ってるものよ」 

「さすがだね姉さん。生徒として通った時は良き生徒、OGとなった今でも迷える在校生を導いたじゃないか」

「あたり前よお姉ちゃんはすごいんだから」

 これぞうは姉の演説に感動していた。そしてこの体育祭を振り返れば、あれほど興味のなかったものなのに、いざ参加すると何だかんだで楽しかった、加えてそれ以前に河原で謎の浮浪者と過ごした時もまた面白き体験であったと感じた。

「確かに、いざ参加すれば体育祭というものなかなかどうして面白みがあると言えるものだったね」これぞうはこの二日を充実した時間だったと振り返りながら言った。


「ところでだね姉さん一つ言っておきたい。パン食い競走を潰したというのは酷い話じゃないか」

「何言ってるの?あったでしょパン食い競走。あんた出たんじゃないの?」あかりはこれぞうの言いたいことを察した上で空惚けた。

「ラスクなんてパンじゃない!いや、仲間ではあるのだろうけど、やっぱり納得いかないよ!」

「ああ、あれね。あれは桂子が悪い。メロンパン一つにマジになって、お嬢様なのにケチなのよ」

「そういう姉さんもマジだったと校長先生に聞いたよ」

 あかりと桂子は、体育祭で乱闘に発展する問題を起こした。仮にも生徒会長が、多くの生徒の前でメロンパンの取り合いをしたのである。考えようによってはこの上ない醜態と言って良い。しかしこの学園のカリスマにして十代のカリスマであったあかりは、そんな醜態を見せたところであまりある人気と指示を生徒達から集めていた。なので後に支障を残すことなく生徒会活動を続け、無事に卒業した。生徒達からはお高く止まった生徒会長ではなく、一般庶民同様にしてメロンパンを愛すということから、自分達の身近に寄り添ってくれる親近感ありありな生徒会長として指示され続けたのであった。カリスマというのは、大きく強力なステータスである。よってニ、三の欠点や汚点が見えたところで、それを覆い隠すだけの魅力でもってカバーが可能なのである。カリスマ、それは身につければ間違いなくお得と言える特殊スキルである。ちなみに生徒会メンバーでもなければ何の委員会も入っていない桂子の方も、天性の人を惹き付ける魅力を持っていたので、メロンパンを巡って暴れたくらいでは彼女の周りの人気も落ちることはなかった。二人は在学中には騒ぎの中心になれば、人気の中心ともなっていたのである。これぞうは、パンについての文句はしっかり言ったが、それでもそんな二人のお姉ちゃんが大好きであった。

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