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第四十五話 ラスクだってパンの仲間

「あんまりだ!こんなのってないよ」そう言いながらこれぞうは怒っていた。

 その理由を説明しよう。

 これぞうは空き缶リレーを終え、体育祭の出番も終えたと思われた。しかしそこに一つの話が転がりこんできた。これぞうとコンビを組んで空き缶リレーで派手に負けた三宅君は、敗北がよほどショックだったのか、学校から姿をくらましてしまった。そこで三宅君が出るはずだったパン食い競走の選手枠に空きが出来た。これぞうはその空いた枠に直ちに転がり込むことにした。彼はこの二日間、謎のおじさんと河原で野宿をして過ごし、食べたものと言えば何かの草と何かの実、そしておじさんが兼ねてから持っていたスルメイカくらいであった。つまり超腹が減っていたのである。彼はパンが食えると想い、自分が出ると声高に名乗りを上げたのであった。

 しかし、今年からパン食い競走の内容が色々と変わってしまっていた。彼が怒ったのはその変更点の全てについてであった。

 では、そんなパン食い競走の内容がどんなのであったのか、そこの所を究明していこう。普通のパン食い競走はトラックを走り、その途中で吊るされたパンを口でくわえて戻ってくるというものである。その基本的な所は今回も同じである。ただし、おかしかったのは吊るされたパンにあった。これぞうはどんなパンがあるのかを楽しみにして誰よりも速くパンを目指した。速く空腹を満たしたいのはもちろん、パンに複数種類があれば一番好きなのをゲットする権利が得られるからだ。

 吊るされたものを見て彼のテンションはさがった。そこに吊るされていたのは、折り畳まれたガラケーくらいの大きさのラスクが一枚。しかも一度に走る選手4人分どれも同じものであった。一択の上にこれってパン?と想いながらも、これぞうは仕方なくラスクをボリボリしながら結果ドベで返ってきたのである。以上。


「まぁ仕方ないじゃないか。学校で決めたことだからさ」と言って久松は荒ぶるこれぞう落ち着かせる。

「しかしね君、仮にもパン食い競走を謳っておいて中を開けばラスク一択なんてそんなことをしている団体が世界にあるかね?」

「でも美味しかったでしょラスク」と松野がこれぞうに言う。

「ああ、それは美味しいさ。ラスクは立派なお菓子さ、田村先生に言って余った分を先程頂いたくらいさ」

 これぞうはラスクのことは愛している。ラスクに罪はない。

「ただね、僕としてはメロンパンかあんパンかチョココロネかと色々期待していたわけじゃないか。そこでラスクはないよラスクは!情けない!なんてケチな!」

 パン食い競走でラスクはどうなのか、三人は昼食を取りながらそのテーマについて語りあっていた。

「あのねあなた達、そういう文句があるのはわかったけど、どうして私の所まで来てそのテーマで議論するわけ?」と言ったのはみさきである。

 三人はみさきが座っている救急席まで来て、みさきと共にテーブルを囲んで食事をしていた。みさきも弁当を広げていた。これぞうは二日間家に帰っていないので、もちろん弁当を持って来ていない。そういう訳でみさきの食事を目当てに、みさきのいる救急席まで来たわけである。他の二人もみさきと体育祭の準備をする内にみさきと仲良しになったので寄って来た。

「いやしかし、このおにぎりは美味いですね!中に入っている塩昆布がスタミナをつけてくれますよ。こうも暑いと塩分を入れなければ汗で全部外にでちゃいますからね!」とご機嫌に言うこれぞうは、みさきに分けてもらったみさきお手製のおにぎりに舌鼓を打っていた。

「先生の手で握ったおにぎりを食える日がくるなんて、今日までちゃんと学校に通っていて良かったな~」

「君は昨日無断欠席してるでしょ」とみさきは返す。


「で、校長先生に話をしに行って何が聞けたんだ?」と久松がこれぞうに問う。これぞうは「あのラスクは何だ、ちゃんとパンを用意しろ」といった内容の抗議をしに校長を訪れ、先程帰って来たところであった。

「ああ、それがね……そうなった原因がね……」

 これぞうは言い辛そうである。

「仕方ない。君達にはちゃんと話そう。あの狸、じゃなかった。校長先生が言うに、この学校では平成に入ったくらいからパン食い競走をやっていて、その際は駅前のパン屋さんからちゃんとしたパンを買ってきていたんだ。しかも4人のランナーそれぞれ違う種類のパンを用意していた。それが無しになった理由はこうだよ。去年のパン食い競走で、ランナーの内二人の女子生徒がどちらもメロンパンを欲しがってね。その二人は一つのメロンパンを取り合って、レースそっちのけで交互に上下逆転しながら馬乗りの取っ組み合いをはじめたんだ。皆して止めに入ってそんな感じで去年のパン食い競走は終わったんだよ。で、去年の反省会では、我が校始まって以来初のパン食い競争で起こった問題について、色々な話合いが行われたんだ。その結果、喧嘩になるようならパンの種類は一つにすることがまず決定し、次いでパンは高いから他の安いものに変えようと意見が出た。それで、一応パンを焼いた菓子であるラスクなら安いしパンと言って嘘ではないと、ということなってラスクでパン食い競走をすることになったんだ。あのラスクは大袋に詰め込んだ業務用のものを使っているのだから、一人に一個ずつパン屋のパンを用意するよりも遥かに単価が安くつく。校長が言うには、去年のパンの発注にかかった金と比べてラスクなら経費が100分の1よりもまだ安いと言ってたよ」

 これぞうは長々と、そして丁寧にことの経緯を説明した。

「うん?その喧嘩がどうこうって話、前にも聞いたような……」と言ってみさきは近しい日の記憶を辿る。そしてすぐにそこに辿り着く。

「あっ、夏祭りでも女子生徒が喧嘩してラムネの早飲み競争が無くなったとか!」

 そう、みさきの言ったその事件と今回のパン食い競走の事件の犯人は一緒、あの二人である。

「そうなんですよ先生、パン食い競走をラスク食い競争に変えたのは姉さんと桂子ちゃんです。全くあの二人は何をするにも二人一緒なんだから」

「へぇ……街の伝統を二つ変えちゃったんだね」

「自分たちは美味しいパンを食べて学校を出て、次の代にはラスクをたった一枚しか残していかないんですから迷惑な先輩ですよ。僕だってメロンパンを食べたかったのに」

 言いながらもこれぞうは愛するみさき先生が握ったおにぎりを舌先で転がし、やがて飲み込むのであった。

「そこでですね。来年は饅頭とかにすれば良いと想うのです。ラスクよりは高いでしょうが、もう少し腹に残るでしょ」

 とこれぞうは今日も変わらずこんな間の抜けたことばかりをほざくのであった。

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